十
「まず打刀」
ようやく侍らしいことをするため、、ミヤは張り切っている。
対するヒデヨシはようやく道場に来たかという安心感でホッとしていた。
ヒデヨシの予定では、昨日のうちに道場に立ち寄り、【寺子屋】で受けれるはずのチュートリアルをさらっと教えようとしていた。
しかし、ゴリの介入によってその予定は無残にも終わってしまった。
「あら、『憂』でやるの?」
そこでヒデヨシはミヤが先程から腰から下げている『憂』を使おうとしていることに気づいた。
ミヤはそのヒデヨシの言葉に首を傾げ、
「あれ、これじゃないほうがいい感じ?」
「いや、別にいいんだけどさ。
まぁ、ここはランカーのヒデヨシさんの力を使って……」
唐突にメニューを操作して、とある刀を取り出すヒデヨシ。
「はい、現在打刀で一番使用率の高い刀」
「えっ」
「ま、彼女贔屓ってことでね」
ずるいとは思うけど、と付け足しながら、ミヤに刀を渡す。
ミヤは受け取った刀を試しにっと抜いてみると、
「紅い……」
「『結』っていう刀で、能力は単純。
斬れば斬るほど強くなる」
「斬れば斬るほど?」
そう、とヒデヨシは返しな柄、またもやメニューを操作し始める。
すると現れたのは、案山子。
「あれを斬ってみると分かるよ」
ミヤはヒデヨシに言われた通りに、案山子を斬ってみる。
初めて振るう刀は、少し重い感じがしたが、それは確かに案山子に直撃する。
少しの抵抗を感じながらも、案山子を袈裟斬りにすると、案山子の頭には
『一撃
一死(一撃死)』
と表示された。
案山子には赤い線が斜めに走り、プレイヤーが相手ならば、生命活動ができないレベルの怪我を負わされたという判定になり、死亡となる
「お、最初から一撃死とったか、すごいね」
ヒデヨシはミヤの刀捌きに拍手する。
別に嫌味ではなく、最初からまともに触れる方が珍しいからだ。
最初は大体が刀を振るうというより、傘でも振るっていうようになる。
だが、ミヤの一撃は確実に、刀として振っていた。
一方のミヤは、自身に起きた異変に気づく。
ミヤの体は薄く紅く光っていたのだ。
「そう、それが『結』の能力。
一回斬るごとに五パーセントの身体能力上昇。
しかも重複可能だから、斬れば斬るほど強くなる」
「五パーセント……」
「ま、最初のうちは気づかないと思うから何回も案山子を斬ってみるとわかりやすいよ」
そこからは、ミヤは案山子を斬りまくった。
何回も何回も。
時折飛んでくるヒデヨシのアドバイスに従いながら、何度も。
そうして、
「もうそろそろいいよー」
ヒデヨシから声がかけられたのに気づくまで、少し時間がかかった。
『五百三十六撃
二百九十七死(三撃死)』
案山子の頭に表示されたカウントを見て驚く。
“こんな回数振るっていたのか”
ミヤの中では半分くらいであろうと感じた数値を見上げてると、
「じゃ、ちょっと俺の刀避けてみてー」
と、振り返った瞬間、ヒデヨシが『憂』で襲いかかっていた。
とっさに後ろに飛ぶミヤは、驚愕した。
ミヤの感覚的には一歩後ろに飛んだはずなのに、気づいたら道場の壁に背がつくくらいに跳んでいる。
ヒデヨシとの距離が急激に離れたため、ミヤが待つ姿勢を取る。
ヒデヨシは特に身体強化を行なっていないため、視界に表示される強化倍率を確認する。
『二千六百八十パーセント』
その倍率に驚くと同時に、納得する。
そりゃ、一飛びするだけで思い切り飛んでしまうわけだ、とミヤがヒデヨシのほうに意識を向けると、
「ぼけっとしてると」
ミヤの眼の前では、ヒデヨシが既に刀を振りかぶっている。
「斬るよ」
ゾクりとした。
ミヤは形振り構わず横に転がる。
勢い余って道場の壁にぶつかってしまうが、気にしていられない。
「……ヒデヨシ、すごいんだね」
「いやぁ、それほどでも」
こうしてみると、いつもの秀だとミヤは認識する。
それ故に、恐ろしい。
こうして、身体強化をしていないのに一瞬にして間合いを詰められて、
「ほらほらー」
呑気に言いながら襲いかかるヒデヨシの姿が、ミヤにはとても恐ろしく感じてしまった。
だからこそ、ミヤは、
「行くよ」
「お、やる気だなー」
目の前にいるヒデヨシは、なめている。
手を抜いている。
本気ではない。
だからこそ、
「ちょっと、頑張ってみたいな」
走り出す。
一瞬にしてヒデヨシの目の前に着く。
下からの斬り上げ。
幾重も行った斬撃は、多少なりともミヤを成長させている。
ブレはあるが確かな斬撃。
ヒデヨシは感動を感じると同時に、受け斬れないことを悟る。
なら諦めて斬られるか。
無理やりを押し通すか。
泥臭くも死なないように立ち回るか。
否
こんな困難は飽きるほどに見てきた。
だからこそ、立ち向かうのではない。
受け入れる。
ヒデヨシは刀を地面に水平にする。
ミヤの『結』がヒデヨシの『憂』に接触する数瞬前に、ヒデヨシは刀に足を乗せ、
激しい轟音とも取れるような剣戟の音とともに、ヒデヨシは打ち上げられた。
「えっ?」
ミヤの疑問は最もである。
刀を振り上げた瞬間、目の前の敵がいなくなったのだ。
あたりを見渡すミヤ。
後ろ、左、右と見て、ミヤは最後に上を見ると、
スパイダーマンのように天井に手足をつけているヒデヨシがいた。
「ーーーー」
「ん?」
ヒデヨシが何か言ったのはわかったのだが、何と言ったのかが聞き取れなかった。
そして、次の瞬間ヒデヨシは、天井から飛んだ。
いや、飛んだというのはヒデヨシの目線からの話であり、ミヤから見ると、それは明らかに落ちていた。
ミヤは自分に向かってくるヒデヨシに、刀を構えたが、
「ーーーて!」
「え?」
「たすけてぇぇぇぇぇぇぇー!!!」
助けを求めながらこちらに向かって飛んでく様子はシュールではあったが、ミヤは苦笑いをしながら、刀を構え直す。
「ごめん斬るよ!」
「えぇぇえぇぇぇ?!」
ヒデヨシの驚いた様子に少し申し訳なくなったミヤ。
だが、ヒデヨシを斬ろうとする意思は変わらない。
腰の高さで、地面と水平に構えた刀。
息を吐き、呼吸を整えて、
「せいっ!」
一閃。
だがその瞬間、ミヤは理解する。
目の前の床に突き刺さっているヒデヨシを
そして、自身の喉元に突き刺さっている『結』を。
☆☆☆☆☆
「ミヤが悪いと思いますよぉ?!」
開口一番、ヒデヨシはミヤにクレームをつけた。
結局、ミヤは自身の刀による一撃死、ヒデヨシは身体に一定以上の瞬間的加圧の認知(ヒデヨシの死亡ログに記載されていた)によって、二人とも死んでしまった。
ミヤに関してはリスポーンしなくても良かったが、道場の一部となってしまったヒデヨシはリスポーンせざるを得なかった。
そのため、ヒデヨシは長屋からもう一度ここまで来たということになる。
ミヤにはゲーム内チャットで『一番遠い北のほうにリスポーンしやがった……遅れる』と連絡が来ていた。
「あのまま受け止めてくれればこんなに時間がかかることはなかったのに……」
「ごめんごめん、あの時はチャンスだと思ったんだって……」
ヒデヨシの落ち込んでいる姿に謝るミヤ。
「ま、初めてまともに刀を振るっているようじゃなかったからすごいと思うよ」
「え、そうかな……」
「そうだよ、初心者の人は大抵刀が重いから自分の思うように振れないんだよね」
「どういうこと?」
「刀ってちょっと重いよね。
だからどうしても振ると遠心力で自分の意図しない方向に力がかかってくるでしょ?
そのせいで……」
ヒデヨシが『憂』を構え、振るう。
その剣筋は特に下手なものに感じない、けどミヤが見た限り、
「振るわれている感じ?」
「違いがわかるだけでもすごいよ」
ヒデヨシは『憂』を納刀し、
「それで、さっきのが【打刀】の力だけど、正直普通はそんな強化はかからないんだよね。
そのかわり、さっきくらいの強化が、ちょっと副作用きつめの【太刀】の能力って感じだよ」
「【太刀】の副作用ってどういうものがあるの?」
ヒデヨシは少し考える素振りをして、一本の刀をメニューから取り出す。
その刀は【打刀】より少し長く、反りがある。
「これは……げ」
ミヤが渡された刀の能力を見て、顔を曇らせる。
『能力:三十秒間身体能力を二千パーセントアップ。
副作用:一分間能力使用終了地点から半径二メートル以内しか移動ができない』
「ちなみに、ここにいる人は『変身』っていう人がいるけど、それは太刀の能力使用を指すよ」
「変身……」
「まぁ中には体から炎が吹き出すっていうものもあるから、あながち間違いじゃないんだけどね」
ミヤのよくわかっていない顔が少し可笑しかったのか、ヒデヨシは微笑んだ。
「それで……」
ヒデヨシが話を再開しようとした直後、ヒデヨシの目の前にメニューがいきなり表示される。
そこに表示されている文字を見て、ヒデヨシは苦笑いする。
「ダテちゃん……」
『プレイヤー:【ダテ】が本道場に参加しようとしています。
許可しますか?』
『打刀』を使うランカーの二つ名一覧。
【避ける人】
【グルメ評論家】
【天翔】
【犬将軍】
【来る、きっと来る】
【きんにくん】
ここに出てない人もいます。




