第一戦1VS1
【ギルド対抗バトルロイヤル】のトーナメントにて行われる戦い方は【ギルド戦】と【七つの戦争】の2つ。
どちらで行われるかについては両ギルドのギルドマスターが自らの希望する戦い方を提示し、一致すればその戦い方で、違った場合はどちらかがランダムに選択されることになっている。
【ギルド戦】と【七つの戦争】の選択率だが全体で見ればほぼ同数となる。
一対一、もしくは少数同数での戦闘を好むプレイヤーが多いギルドもあれば一丸となって戦うことに長けたギルドもあるからこそだろう。
『――――両者選択が提示されました』
記念すべきトーナメント初戦。
【Aurora】VS【高天ヶ原】の戦いはどちらになるのかと期待するプレイヤーたちの前でアルヴァンとユウノの2人が向かい合っていた。
「まさか初っ端からとはな……」
「まったくですね。
本来であれば何戦か戦うところを拝見したかったのですが……仕方がないでしょう」
面倒くさいという雰囲気がひしひしと感じられる表情を浮かべているユウノに対してニコニコとした人当たりのよさそうな表情を崩すことなく言葉を並べるアルヴァン。
「まぁ、仕方がないっていうのはその通りだな」
頭をわしゃわしゃと聞こえてきそうなほど片手で弄ぶユウノは不敵に笑いながらアルヴァンを見据える。
『――――両者の選択を提示致します』
機械音声が合図となり2人の隣に互いの選んだ戦い方が浮かび上がる。
「今回も総合力戦といこうじゃねぇか。
なぁ?【鴉】さんよ」
ユウノの隣には【ギルド戦】の文字が浮かび上がる。
もう既にどうやって戦うのかが決まっていると言わんばかりの表情である。
「……はて?そうなるかどうかは定かではありませんが?」
しかし、そんなユウノとは違いアルヴァンは眼鏡を直しながら口角をほんのりと上げていた。
アルヴァンの隣には【七つの戦争】の文字が浮かび上がる。
「なっ……」
「…………」
アルヴァンが選んだのが【七つの戦争】だということに驚きの表情を浮かべるユウノ。
【Aurora】が過去一度たりとも選んだことが無い【七つの戦争】を選択したということにリアクションせずにはいられなかったようだ。
『両者選択が違いましたので今回はランダムとさせて頂きます――――』
あまりの予想外の出来事に空いた口が塞がらない様子のユウノ。
しかしそんなことは関係ないと準備は進んでいく。
ランダムでの選出となったためアルヴァンとユウノの間に大きく浮かび上がる結果。
『――――トーナメント初戦は【七つの戦争】となりました。
両ギルドは準備をお願い致します』
そして選ばれたのは【七つの戦争】。
ユウノは決まり次第背を向け帰ってゆくアルヴァンに訝しげな視線を向けるも特に何か言うことも無く自分の待機場所へと向かい1度目のオーダーを提出するのであった。
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――――【七つの戦争】。
【1VS1】、【1VS1】、【1VS1】、【2VS2】、【2VS2】、【3VS3】、【5VS5】の7つの戦いをランダムに並び替えて行い、勝ち星の多いギルドが勝利するというもの。
戦闘をするためのフィールドはバトルロイヤルの初戦などと比べるとそれほど広いとは言えず【1VS1】であっても【5VS5】であっても同じであり、大きさは200メートル四方の正方形、『草原』『砂漠』『森林』『岩山』などの種類はあるもののランダムで決められる。
プレイヤーはキルされようとされまいと1度しか出場ことは出来ず、出場プレイヤーは1つの戦闘が終わってから5分のシンキングタイムのうちに別室での待機となるギルドマスター1人で決めなければならない。
この【七つの戦争】は【1VS1】がほぼ半分を占めるからといって個のプレイヤーが強ければいい、プレイヤー同士のシナジーを考えて倒せばいいなどという簡単なものでは無い。
個々のプレイヤーの強さはもちろんのこと、誰がどこで出て来るのか、その戦闘は捨ててもいいのかを先を読みながら考え、何処まで自分の手を晒すのかを悩む。
今まで戦闘とは違い戦闘中は自分の行動が丸見えとなってしまう。
それは今後の戦闘にも関わってくるため全てを晒してでも勝たなければならないという状況にはなりたくない。
『――――今回の【七つの戦争】の進行は
1、【1VS1】
2、【3VS3】
3、【1VS1】
4、【1VS1】
5、【5VS5】
6、【2VS2】
7、【2VS2】
の順番となりました』
【七つの戦争】の内容についてのアナウンスがあり、そしてそれと同時に1度目の【1VS1】に出場するプレイヤーがフィールドに出てくる。
【高天ヶ原】からは漆黒のフードがついた忍装束に身を包み口元を黒いマフラーですっぽりとおおった――――【イカルガ】。
【Aurora】からは厚手の生地で作られているロングワンピースに身を包み恐らく一枚の長い布を頭、そして首に巻き付けているのであろう無表情の褐色肌の女性――――【カルファ】。
互いに表情変化の少なさから似ている雰囲気を醸し出していた。
フィールドは遮蔽物の少ない『草原』のようで身を隠しながら戦うことはまず出来ないだろう。
「…………」
「…………」
イカルガとカルファは互いに言葉を交わすことも無くただ視線を合わせるだけで動きはない。
2人はただ無言で戦いの開始の合図を待っていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――――5分前【高天ヶ原】待機場所
「【Aurora】が【七つの戦争】……?」
【高天ヶ原】の頭脳であるハースがギリギリ周りにいる人間に聞こえる程度の独り言で呟く。
そしてそれは口に出したいないだけでその場にいた者たちが思ったことでもあった。
「まぁ決まったからにはやるしかないだろ?
ほら、誰が選ばれてもいいように用意を――――」
「――――いらない」
イルムが手を叩いて全員に準備を促そうとすると小さいながらも良く通る声が遮る。
声の主は壁に寄りかかっていたイカルガ。
既に万全の準備を終えており後は呼ばれるのを待つばかりといった様子だ。
「いらないってことは無いだろ?
【Aurora】との【七つの戦争】は初な上に初回『1VS1』だぞ?
誰が出るかなんて――――」
「――――私が選ばれる」
再びイルムの言葉を遮ってイカルガが言った。
そこには揺るぎない自信があり、信頼があった。
イカルガは寄りかかっていた壁から離れてフィールドへと転送される場所へと向かう。
「皆はゆっくりしているといい。
――――そんなに時間をかけるつもりは無いが」
『【高天ヶ原】からの出場は【イカルガ】さまが選択されました。
指定の場所へお進み下さい』
まるで狙っていたかのようなタイミングで機械音声が流れる。
何せイカルガがフィールドへ転送される場所へとたどり着いた瞬間に機械音声が流れたのだから。
イルムたちは一瞬ぽかんとした表情を浮かべたもののすぐに納得したのか笑いながら各々寛ぎ始める。
――――1VS1での戦闘でイカルガが負けることは無いという信頼から来る行動であった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
開始の合図を待ちつつも互いに視線を合わせ続けるイカルガとカルファ。
これが初対面という訳では無いものの1VS1で戦うのは初めてであった。
(……フィールドは『草原』……これなら【影】もそんなに多くないから少しだけ私に有利……)
カルファは今回のフィールドからどのようにイカルガと戦っていくかの作戦を練っていた。
イカルガは自身の【恒常型技能】によって影から影への移動が可能である。
これは【影渡】とは違いなんと短距離であれば【MP】を消費しない。
しかし、イカルガは自身の種族の特性によって影が出来ないため常に他の場所に出来る影から移動を開始している。
【Aurora】の情報収集能力を持ってしてもその程度のデメリットと呼べるかも怪しいことしか分かっていないため戦いながら情報をアップデートしていくしかないのだが、そのような余裕があるのかも怪しかった。
唯一完全に判明していることとしては『イカルガが影の中に潜っていられるのは5秒間』ということと『プレイヤーの影に入ることは出来ない』ということのみ。
故に、今回のような影ができにくい『草原』というフィールドはイカルガと相性が悪くカルファに有利であると言えた。
(武器は……アレか……)
イカルガの両太ももに取り付けられたホルスターから影のせいか暗くて見えにくいもののキラリと覗く漆黒のダガー。
(【切裂魔の玩具】……【神造物】に分類される武器……その性能は不明……)
あまりの情報の少なさに頭を抱えたくなるカルファ。
しかし負ける気など毛頭ない。
『――――それでは只今より第一戦を開始させていただきます』
フィールドに響き渡る機械音声。
カルファはふぅ、と短く息を吐き出すと自身に気合を入れる。
『――――スタート!!!!』
開始の合図と共にカルファはイカルガに向かって駆ける。周りに影がないことは確認済みの為イカルガも接近してくるであろうとの考えから先手を奪われないための行動であった。
しかし、それはあまりに早計であった。
せっかくイカルガを観察できる時間があったというのにカルファはフィールドの観察をしてしまったから気がつけなかったのである――――。
「――――【壱の暗殺】」
「ッッッッ!!???」
聞こえるはずのない声が自らの背後から聞こえる。
――――イカルガの足元に無いはずの影が存在していたことに。




