配信
すっかり冷え込み、新たな年をすぐそこに控えた12月31日。
年末ということもあり夜にはカウントダウンや一日通した特番がテレビで組まれる中、最も視聴されるのはそういったものではなく――――インターネットでの生配信。
――――『World Of Load』の【ギルド対抗バトルロイヤル】である。
タイムスケジュールはほぼ半日全てを使い開始は日本時間で午前11時から。
この【ギルド対抗バトルロイヤル】のイベントは全世界のプレイヤーたちが参加するため開始時間の調整が難しいのだが、『World Of Load』が始まって以降変わっていないのがギルドランク1位に君臨するギルドの本拠地がある国の時間に合わせて行われること。
現在のギルドランク1位は【高天ヶ原】、本拠地があるのは日本のため、日本時間で年明けに合わせているのだ。
実際に【ギルド対抗バトルロイヤル】の戦いが始まるの正午からではあるものの、参加ギルドへのインタビューなどを行うために少々早くから配信が始まる。
しかし、開始一時間前ともなれば大抵のギルドのメンバーたちは最終調整に入っていることや打ち合わせ、精神統一などを行うためあまりインタビューをすることはできない。
そのため事前に撮影しておいたインタビュー内容の配信がメインとなるのだが、中には一時間前と言えど生でインタビューに答えるギルドもある。
「――――このように毎年の恒例大イベントということもありどのプレイヤーたちもやる気十分のようです」
生配信のリポーター役となる女性が慣れた様子で話を回す。
【ギルド対抗バトルロイヤル】の生配信をする人は少なくなく、様々な人たちが個人で行っているものが多い。
自らが注目するギルドにインタビューをしたり、はたまた予想をしてみたり。
そのほとんどが自らの交友関係を使い時にはアポを取り、時には突撃でインタビューをして再生数を稼いでいる。
彼女も最近様々なゲームの配信をする配信者となった新人ではあるものの、『ラーラ』――――幸運娘の愛称でそこそこの人気があり、良い機会だからと今回が初めての【ギルド対抗バトルロイヤル】の生配信であった。
配信者としてまだまだ新人ということもあり交友関係が少なくは無いものの、上位ギルドと仲がいいわけではなく手堅く初参加や注目するギルドの話を回していたのだが、物足りなさを感じる配信に満足いかないという気持ちが出てしまう。
「ん〜……これなら私も参加してみました!って配信の方が良かったかなぁ……」
ラーラの発言に生配信を見ていた視聴者からのコメントが流れていく。
多く流れていくのは『幸運娘の幸運見てみたい!』や『一番注目のギルドは?』であったりと平和なコメント欄。
「流石に今日はそんなラッキーなことは起きようがないでしょ」
ケラケラと笑いながら流れるコメントを捌いていくラーラ。
「一番注目のギルドって言ったらやっぱり日本に住んでたら【高天ヶ原】一択っ!って人が多いよね〜
もちろん私もその一人だけど」
『それもそうか〜』、『いやいや俺はそんなことないぞ』、『突撃インタビュー希望!』などなどのコメントが流れていき、無茶振りはやめてーとノっていく女性。
「『そういえば【高天ヶ原】に突撃インタビューしに行く人っていないよね』ってそりゃそうでしょ。
ギルドランク1位のギルドに突撃インタビューは不敬にも程があるでしょ!
あ〜……でもアポ取ろうにもそんなツテはないしなぁ……。
ワガママいうなら【高天ヶ原】のギルドマスターとか【十二天将】の人たちと一回でいいから生で話してみたいなぁ……」
叶わないだろうからこそぽつりと呟くラーラ。
コメント欄でも『そりゃそうだ』や『そこは幸運娘の力を使って』などといつもの様子でコメントが流れていく。
「――――それなら」
「実際に」
「「お話してみる?」」
いたずらっぽい笑みを浮かべた双子が突然ラーラの両脇から現れる。
――――途端、コメント欄がとんでもない速度で流れていく。
ラーラ自身、自らの身に起きていることを理解出来ていない様子で固まっている。
「あれ?動かなくなっちゃったね『イリィ』」
「せっかく話したいって言ってたから来たのにね『アリィ』」
固まっているラーラの顔の前で唐突に現れたアリィとイリィが手をヒラヒラさせる。
「おいおい!
人様に迷惑かけるなって!」
後から現れたのは困り顔のイルム。
アリィとイリィの首根っこを掴むようにして持ち上げる。
「捕まっちゃたね『イリィ』」
「そうだね『アリィ』」
「ったく……どっか行ったかと思ったらこれだ……」
苦労人の雰囲気を醸し出しながらため息を吐くイルム。
巻き込まれたと言ってもいいラーラに向かって頭を下げる。
「すみませんウチのが……。
見た感じ生放送中でしょ?
ほんっとに邪魔してしまって……」
「だ、だだ、大丈夫です……!
むしろありがとうございますっ!」
流石に再起動したのかラーラは手をぶんぶんと振って滅相もないという態度を示す。
「寛大にありがとうございます……いやホントに……。
こら『アリィ』『イリィ』。
2人もちゃんと謝れよ?」
「「ごめんなさ〜い」」
「満面の笑みを浮かべて謝るな?!」
全く反省の色を見せていない2人に頭を抱えるしかないイルム。
とはいえ両手はアリィとイリィで埋まっているため肩を落とすだけに留まる。
そんな3人のやり取りを見ていたラーラは高鳴る鼓動を落ち着けて決死の覚悟で口を開く。
「あ、あの――――」
「――――『イルム』〜見つかったのかにゃ〜?」
「どうせまた突撃してたんでしょう?」
「私も注意していたのですが……」
おそらく探す気はなかったのであろうマリィと予想はしていたと言わんばかりのアマネ、申し訳なさそうなソフィア。
「元気が有り余ってるみたいだからね〜。
だよね〜?『アーくん』『イーちゃん』」
「わっちも一緒に行くべきでありんしたか?」
「そ、それは多分連れ戻すじゃなくて自分も一緒に……ってことですよね……?」
子供を見守る親戚のお姉さんのような気楽さのクリスと完全に混ざる気だったユウギリの発言に心配を募らせるアルル。
「謝罪は済ませたか?
いや、俺からも謝罪を……」
「お父さん、落ち着いてください」
「お、お父さん『イルム』さんがちゃんと謝ってくれてますよ!」
「ついに2人まで俺をお父さん呼びにだと……!!!?」
ララノアとアラタからのお父さん呼びに戦慄するダイン。
「……探す身になって考えて欲しいものだ……」
「私は初めから探すつもりは無い」
ブツブツと言いながらもイルムと同じタイミングでしっかりと探すハースとイカルガ。
「…………」
まさかの【十二天将】全員集合に空いた口が塞がらないラーラ。
さらに加速していくコメント欄には目を向ける暇もない。
「――――今日は何処の何方に迷惑かけたんだ……?」
そして最後に現れる狐面を身につけたプレイヤー――――ユウノ。
ラーラは再び硬直し思考停止する。
「生配信中のプレイヤーさんに迷惑かけたっぽい……。
良い人だったから許してくれたけど……」
「だってこの人が話したいなーって」
「それが聞こえたから来たんだもん」
「「ね〜?」」
イルムからの報告とアリィとイリィの言葉に顔をひきつらせるユウノ。
硬直しているラーラに駆け寄ると視線の高さを合わせて手を合わせる。
「本当にすまん!!!
何かしら埋め合わせを……って『幸運娘』だ!」
「……えっ!?」
ユウノに自分の愛称を呼ばれたからか正気に戻るラーラ。
「最近面白いなって配信覗いてるんだよ!
まさかここで会うとは思ってなかったけど」
ケラケラと笑いながら言うユウノに驚きが隠せない様子のラーラ。
「そうだ!
埋め合わせと言ってはなんだけど俺たちのインタビューとかどうだ?
確か前にやりたいって言ってたよね?」
「是非とも!!!!」
ユウノからの提案に条件反射で答えるラーラ。
先程まで固まっていたとは思えないほどの反応である。
そこでやっとコメント欄に意識を向けることが出来たラーラ。
日頃の配信とは比べ物にならない速度で流れていくコメントに驚いたものの、目の前に【高天ヶ原】のメンバーがいるとなればそれも仕方が無いと納得する。
そしてこの機会を逃してなるものかと意気込む。
(私の幸運ありがとう……!!!)
【幸運娘】と呼ばれるだけある程の幸運に心から感謝するラーラなのであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
『――――開始五分前です。
プレイヤーの皆さんは最終確認を行い定位置にてお待ちください』
ユウノたちへのインタビューを終え、【ギルド対抗バトルロイヤル】の開始を直前に控えたラーラ。
参加することは無いのだが、観戦するために準備を終えていた。
配信のタイトルを『みんなで見守る【ギルド対抗バトルロイヤル】』に変えてのんびりとした空気が流れている。
インタビュー中はとんでもない数の閲覧者とコメントで溢れていたものの、今はある程度落ち着いていた。
落ち着いているとはいえ、ユウノが面白くて最近覗いているという言葉は強い影響を与えたのか日頃よりも閲覧者の数が多い。
「――――まさかこんな幸運に巡り会えるとは……!」
当のラーラ自身は興奮冷めやらぬといった様子でつい先程まで話していた【高天ヶ原】の面々との会話を思い出していた。
もちろんラーラが観るのは【高天ヶ原】の参加するブロック。
負けることはまず無いと思っているラーラだが、先程のインタビューで気になった点が何点かあった。
「そういえば『いつもとは違うものをお見せできると思います』ってどういう意味だったんだろ……?」
コメント欄では様々な考察がされている中でラーラはラーラで自分なりに考えていた。
「確かに初めて見るプレイヤーさんもいたしその人のことかな?」
犬人の少女――――アルルの姿を思い浮かべながら言う。
『【ギルド対抗バトルロイヤル】――――開始っ!!!』
気がつけばもう開始時間となってしまっていたようで、ラーラは観ていれば分かるかと意識をそちらの方に向けるのであった。
せっかく始まったのですが戦闘は次回からです……!テンポよく進めていこうと思いますのでどうぞ宜しくお願い致します!




