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控えて

――――【ニッポン】中心都市『トウキョー』




近代的なビルのみならず古き良き日本の和風建築物が見事に融合した文化の混じり合う都市。


そんな中心に見えるのは輪郭式の立派なお城。


ギルドランク1位を冠する【高天ヶ原】の本拠地であるギルドホームだ。


一年を通してその佇まいを変えることの無い【高天ヶ原】のギルドホームだが、『トウキョー』の街並みは違った。




大型連休に開催された『モンスターラッシュ』のイベントやそれぞれの季節に合わせたイベント、突如として開催される『緊急イベント』や都市がモンスターに襲撃されてしまうためそれを阻止する【都市襲撃(モンスター・パニック)】。

様々なイベントが開催され気がつけば年末も目と鼻の先。


そんな時期になればプレイヤーたちが注目し、楽しみにし、意気込む大イベントが一つ。




――――【ギルド対抗バトルロイヤル】




プレイヤーたちが口にする話題は【ギルド対抗バトルロイヤル】で染まっていた。


ある者は完全に観戦する側に回ると言い


ある者はギルドランクの上昇を目指し


ある者はどこのギルドが上位に入るかを予想する。


プレイヤーそれぞれの楽しみ方が存在し、それによって『World Of Load』は全国的に沸いている。




「――――壮観だなぁ……」


天守に造られたギルドマスタールームから見渡す『トウキョー』の風景。

いつも見ているであろう景色にも関わらずユウノはぽつりと呟いた。

その傍らにはその日の手入れを終えたのであろう日本刀が()()


頬杖をつきながらしばらくぼーっと風景を見ていたユウノが無言のまま立ちあがる。

年末までの時間はそんなに多くはなく、参加メンバーたちは既に個々の技術向上や装備の点検、強化に集中している。


「俺も負けてられないな……」


そう言って傍らにおいてあった七振の日本刀の内二振を腰に差し、残りを全てをインベントリに収納する。

10しか空きの無いインベントリであるものの、ユウノにしてみれば【無限(インフィニティー)バッグ】があるためどちらに入れても変わらないのか迷いはない。

【白銀狐の面】をギルドマスタールームから出ていないにも関わらず装備すると首をこきりと鳴らして欠伸をした。




「――――今日は何処にレベリングしに行くかねぇ……」











◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇






――――【チューゴク】中心都市『ベイジン』




巨大な門から始まるこの都市は簡潔に言えば最奥まで一本道。

その道中にいくつかの門を構え、まるで最奥にあるものを守らんとするのが伺える。


では、最奥には何があるのか。

それはあるギルドの本拠地となるギルドホーム。


武術を身につけ、駆使し、敵を討つ。

所属ギルドメンバーは最大規模を誇る


ギルドランク2位を冠する【龍驤虎歩(リュウジョウコホ)】。




「――――老師!メンバーが決定いたしました!」


一人の男性が広場にやってくるとそう伝える。

広場には一人の女性がゆったりとした動きを止まることなく続けていた。

首に近い低い位置にひとつでまとめられたお団子ヘアに薄手ながら全身のシルエットが捉えにくく両手両足がちょうど見えない程に裾袖の広く長い服を身に纏い動く姿は舞っているようにも見える。


「…………」


「遅くなってしまい申し訳ございません。

決定した者たちのリストはいつものように机の上にご用意しておりますので」


男性はそう言うと抱拳礼――――右手を拳に左手を掌にして胸の前で合わせるポーズをしてその場を去っていく。

去っていく後ろ姿を一瞥した女性はその後もしばらくゆっくりとした一定速度を保ったまま動きを止めることはかった。




彼女の名前は『ワンジー』。

龍驤虎歩(リュウジョウコホ)】のギルドマスターである。











◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇






――――【アメリカ】中心都市『D.C.』




近代的なビルに囲まれ、何処かSFチックな印象も感じる都市。

しかしその都市の中心は緑に囲まれていた。

巨大な鉄柵に囲まれたその場所には木々が生い茂り、点々と真っ白の建物が建造されている。

唯一巨大な建物といえば真ん中に位置する湖に隣接した横に長い建物くらいなもの。


――――そこはギルドホームだった。


力こそが全てを簒奪し全てを得る者の証と呼ばれる。


ギルドランク3位を冠する【Greedy(グリーディー) Walker(ウォーカー)】。




「――――ふぁあ〜……」


木々が生い茂る木陰に一人の壮年の男性が寝転がっていた。

ポケット数の多いタクティカルギアパンツと上半身は鍛え上げられた筋肉が浮き出るほどにぴったりとした黒のボディースーツ。

厚手のブーツは脱ぎ散らかされ何かをぐるぐる巻きにして作られたのであろう枕に頭を乗せている。


「やはりここにいらっしゃいましたねっ!?

私がご報告に参りますのでギルドマスタールームにいてくださいとお伝えしたではありませんかっ!!!」


穏やかで静かなその場所に現れたのはパンツスーツ姿の秘書のような格好をした女性。

どうやらこの壮年の男性を探していたようで怒っていますというのが雰囲気にも出てきている。


「おぉ〜……悪いね……」


「『おぉ〜……悪いね……』じゃありませ――――ってまたそんなことをしてっ?!!」


壮年の男性の真似をして再び怒鳴ろうとしていたであろう秘書のような女性は枕を見て叫んだ。


「その軍服はギルドマスターの証として造ったというのにそんなぐるぐる巻きにして枕にするなんて有り得ませんよ!?」


「いや〜……ちょうど良くてな」


「早くやめてください!!!」


秘書のような女性の絶叫に仕方がないなと身体を起こした壮年の男性はぐるぐる巻きにされた軍服を広げて一度振る。


見るからに高価そうであり、【Greedy(グリーディー) Walker(ウォーカー)】の紋章があしらわれた軍服を腕を通すことはなく羽織ると背伸びをする。


「とりあえずギルドマスタールームに戻ろうか」


「まったく……戻るなら初めから……」


「おぉ〜……お小言は程々にねぇ〜『アルファ』ちゃん……」


その瞬間秘書のような女性は壮年の男性の背中に張り付いて非常に低音で言った。


「私をちゃん付けで呼ぶなとお伝えしたはずですが……??」


「……肝に銘じよう」


アルファと呼ばれた秘書のような女性はその言葉に満足したのか壮年の男性から離れて足早に去っていくのであった。




「ん〜……恐ろしい恐ろしい。

ジャパニーズカルチャーでなんだったか?

そう、オトコノコってやつだな」


そう言う壮年の男性は言葉とは違い面白そうに笑う。


彼の名前は『ジェイド』。

Greedy(グリーディー) Walker(ウォーカー)】のギルドマスターである。











◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇






――――【ロシア】中心都市『マスカゥ』




氷の張る湖に囲まれたその都市は別名城塞都市と呼ばれるほどに堅牢である。

過去一度も【都市襲撃(モンスター・パニック)】にて破られたことがない程だ。

城壁によって護られるその中心には宮殿が存在し、そこをギルドホームとして利用しているギルドがある。


情報戦のスペシャリストにして謎が多い者たち。


ギルドランク4位を冠する【Aurora(アウローラ)】。




「――――ふぅ……これで全てですね」


何やら情報をまとめていた様子の商人のような服装をしたアルヴァンがひと仕事終えたという息を吐き出しながら呟く。

薄暗い部屋のため不気味さも感じられるが当の本人はこれがちょうどいいと思っているため、他のギルドメンバーたちも何も言えない。


おもむろにウインドウを開き操作し、少しの間とはいえ溜まってしまっているメッセージをひとつずつ開いて目を通していく。

そのほとんどが情報を買いたいというものであるためある程度精査しつつもどんどんと読み進める。


「もう時間もあまりありませんし……」


ほとんど一瞬の内にメッセージを読み終えたアルヴァンはメッセージを一通作成し始めた。

宛先は14あり、文面は『研究しなさい』の一言。

そして添付ファイルがいくつか付けられており、中でも()()のファイルに関しては色まで変えられている。


その中の一つ、【高天ヶ原】と記されたファイルを改めて開きながら肺いっぱいに空気を取り込む。


「もっと上位も目指せるでしょう……!」


息を吐き出す過程で言葉も同時に吐き出す。

アルヴァンの中では既に対策は出来上がっていた。











◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇






――――【イギリス】中心都市『ブリテン』




美しく豪華絢爛なお城と広大な大地。

中世ヨーロッパの時代を模して造られたこの都市は()()()()()()()()()()()()()ギルドホームとして利用していた。


ギルドマスターを頂点とした女性のみのギルド。


ギルドランク5位を冠する【BLACK・ROSE(ブラック・ローズ)】。




「――――姫、14名の選出並びに御身の前に……」


「うむ、ご苦労じゃ」


玉座に腰掛けた女性――――アリシアが言う。

中世ヨーロッパの貴族女性が身に纏うドレス姿に真紅に染まった髪の毛を三つ編みシニヨンでまとめている。

姫と呼ばれることになんの違和感もない風貌であった。


「さて今回じゃが……そろそろ本来あるべき位を取り戻そうと思っておる」


その言葉はユウノと話していた時のものとは違い、常に冷たい威圧感を放っている。


「つい先日も妾の婿殿に宣戦布告してきたからの」


『…………』


アリシアの脱走のことを思い出したのかその場にいる全員がなんとも言えない雰囲気を漂わせる。

どうやらそれに気がついたらしいアリシアも咳払いをして話を進める。


「と、ともかくじゃ。

愚かにも準備不足な者は居らぬとは思うが最高のコンディションを整えよ!」


『はっ!』


綺麗に揃った返事に満足気な様子のアリシア。

そしてこの場はもう終了だと言わんばかりに立ち上がる。


「姫、どちらに?」


「なに、妾が最高のコンディションを整えよと言ったのじゃ。

妾自身もそれ相応のことをせねばなるまいて?」


切れ長の目を細めて笑う。




「――――調達作業じゃよ。ちょっとした、の」







































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