昼と後
昼休みになり、船着き場へと戻るという形で移動をしている間も、記録していたMAPデータを船上で白紙へと書き落としてはいたのだが、陸地に近づくに従って例の存在の事を強く意識し始めてしまう。
「そういえば、昨日の子がまた来てるんでしょうかね?」
「んー、たぶんそうだとは思うが」
意識している時に、さらに追い打ちをして来るかのように 操船をしている小麦肌の青年から聞かれるたりしたが、その回答をしようと考えを巡らせてみたが、それはもうはっきりと確実性が高いとしかいえなかった。
なにせ、昨日の夕食時の事を思い返せば、レシピ網羅までしているアイツの事であるから、その手の事を欠かす訳がないだろうとしか思えない。
というか必ず仕掛けてくるはずである。
「すごいお弁当を持ってきたって聞いてましたけど、どんなものだったんですか?」
「ん?たしか・・・ガーランの肉を使った物だったな」
「えっ?」
「ん?何かあったか?」
「いえ、かなり豪勢だったんだなと、ちょっと羨ましく」
正直、味は確かによかったが、豪勢というか量が多かったという印象の方が強かった。
実際、昨日も集まった人夫で分けたわけだし、そこにこの小麦肌の青年が増えたとしても問題はないはずである。
「なら、今日は分けようか?」
「それは‥‥‥」
「遠慮しなくていいぞ?どうせ大量に持ってくるだろうし、余らすよりはマシだ」
「どれだけあったんですか」
「大人4、5人なら余裕?」
「そういう事なら」
そんな会話をしながらも接岸が終わり係留用の縄を担いでは、陸地へとその一歩を踏み出したとたんに横合いから衝撃が発生する。
その衝撃で一瞬よろけそうにはなるが、オートか何かで勝手に踏ん張りが入ったりもしたが、その衝撃を作り出した原因が何かと視線を向けるまでもなかった。
なにしろ、今の時間帯と先ほどの推測から、そして聞こえてくる音声で答えは分かり切っていたのだが‥‥‥
「スーハースーハー、ちょっと磯臭いですけれど、これはこれでお姐様の香りと混ざりあって醸しだされているこの芳醇ともいえる香りも、かなりオツな仕上がりになっているとでもいうのでしょうか‥‥‥」
「‥‥‥」
お前、だんだん変態的な行動に磨きがかかって光り輝いて、いや黒光りしてきてないか?
香りソムリエにでもなりたいのか?
そんな行為をするためだけにここに来ているとしか思えないその行動力に関しては、ある意味尊敬の念を抱いてやっても良いと思ってしまうが、その変態度合いの数値表示がなされるのならば、いささか伸びあがりすぎて、王冠マークでもついてやしないか?という気がしてならない。
そもそも、こいつはいったい全体どこに向かっているのだろうか
「で?今日もここに居続けてもいいのか?」
「ハッ!それはその‥‥‥このままくんずほぐれつを堪能して天国の階段を登る事もやぶさかではないのです(ゴリッ)ハイ、ワカリマシタ、オシゴトダイジデス、モドリマス、コレ、オベントウデス」
「あ、あぁ・・・」
言葉の途中から、まるで見えない何かに大きく頭部が仰け反られたかと思えば、急に抱き着いていた量の腕を放しはじめ、カタコトの棒読みに切り替わる変態Sから、その背中にしょっていた背負子を本日の弁当として手渡されては、後ろ髪をひかれるかの様に何度も何度もこちらをふり返り、そのたびにその頭部があらぬ方向に傾いていたりしながら去っていくのを見送るしかなかった。
というか、背負子で手渡される弁当ってなんだよ、背負子でって
心の中で、変態Sに対してツッコミをいれつつも、手渡された手荷物以上の存在に目をやってはどうしようかと考えていると
「それ、全部お昼なんですか?あと、それも貸してください」
その声が聞こえた先に振り向くと、もやいに縄を括り付けが終わったらしい小麦肌の青年から声がかけられる。
あ、その作業する為に降りたのに、「忘れてた‥‥‥すまん」と謝りを入れつつも担いでいた紐を手渡しておく。
「構いませんよ。来客なんですし、それで、それ全部がお昼なんですか?」
「そうみたいだ」
「それにしても、すごく多そうですね」
「という訳なんで、係留作業をサボった形になったから、詫びも含めて遠慮なく食べてもらっても構わない」
「いえ、そこは別に気にしてないんですけど」
「正直な事を言えば、こんなに多いと余らせるのがもったいないというのが本音だな」
「あぁ、たしかに残りそうですもんね」
「という訳で、協力を頼む」
「それなら、遠慮な‥‥‥」
「「「「おう、任された!」」」」
小麦肌の青年に対して言ってたつもりだったのだが、いつの間にか集まったギャラリーという存在も、何故か食器を手に掛け声で返されていたりするが、そこはまぁ、気にしないでおく事にしよう。
* * *
「なんなんです?この料理、ほんとにおいしかったんですけど」
「な?うめぇだろ?昨日食ったときに、ほんとやべぇと思ったんだわ」
「今までの料理が、何だったのか?というレベルになるって話だよな」
「味もそうだけど、初めて見る料理も多かったな」
「説明うけたけど、カツ?だっけか?あれなかなか旨かったな」
「ああ、衣?というのがソースをしみこませてくれるから、またこう…」
「やべぇ、思い出しただけでよだれが・・・」
「嬢ちゃん、これ、どこで手に入るんだ?」
「あ、それ知りてぇな」
「なんでも、あの子のオリジナルだそうですよ?」
「マヂかよ‥‥‥すげぇな‥‥‥」
「かわいいのに、料理の腕もすごいとは、あの子は一体何者なんだ?」
そんな各人の評判を得ながら、背負子の中身との格闘戦を集団により勝利する。
そして、何故かボロットSの評価がストップ高になっているおかしな現象が発生してしまっていた。
あいつの本性を知ったら、この評価が一体全体どうなるのかが見ものでもあるが、逆に知らない方が幸せでもあるというともいうし、ここは各人の妄想にお任せしておくべきであろう。
というか、ここでアイツが食堂なり弁当屋なりでも開いたら儲かりそうじゃね?とか思ったりしないでもない。
そんなこんなで、食後の片づけが終わり、日陰で横になるように休憩をとっていた時に、"リンゴーン"と午後の開始の鐘の音が鳴り響いていく。
「さあて、仕事だ仕事」「旨かったぜ」「またよろしく」などの声を受けながら、片手を上げて返事を返しこちらも午後の仕事へ取り掛かろうかと立ち上がっては
「よし、じゃぁ始めるか、船出すんだろ?」
「今日は船を出すのは午前だけですよ?」
「はい?」
「午後から大型の貨客船が入港してくるんで、航海航路の付近に作業船は出せれないんですよ」
「邪魔にならない様にとかでも?」
「原則ダメですね。事故が起きない様にという処置ですし」
「あぁ、事故が起きるのは確かにダメだな」
「なので、昼からは船や道具の整備と地図に対しての報告と事務手続きと、あと余裕があれば複製ですかね」
「いきなり地味な作業だな」
「まぁ、ここら辺が面倒といえば面倒なんですけどね」
肉体労働かと思えば、事務的な作業へと早変わりという点で、なんとも言えない。
「地図の方の手続きはやってきますから、道具の洗浄をお願いします」
「了解。というか、洗浄って何するんだ?」
「海水に使っていた杭を真水で洗うだけなんですけどね」
「ああ、そういうね」
「あ、そういえば、アーネストさん、体洗ってないですよね?平気なんですか?」
「ん?まぁ、そういう身体だからな、まめに洗い流さなくても大丈夫といえば大丈夫だ」
「そうなんですか?大抵髪の毛とかが」
「あー、まぁ、そこらも後で洗い流しておけば大丈夫だ」
何せ生物的な毛髪といえる代物でもないため、海水に浸ろうが直接的な影響が出ることもないはずである。
というか、この髪、正直どうなってんだろうな。
「なら、洗浄場はあちらになります」
と記されたのは、建屋の影になりそうな場所に、湧き水の様に流れ続けている水路みたいな広い場所だった。
そこでは、数名の人物がブラシ?みたいなもので何かしらを洗っていたりしていた。
なるほど、あんな感じで洗えばよいのか。
「それじゃ、よろしくお願いします」
「あいよ、任された」
二手に分かれる恰好で、小麦肌の青年は記載した地図をもって事務所の方へと移動していった。
さてと、こちらはあの杭を洗いますかね。




