働
寝起きの騒動が終わり、身支度を済ませては朝食をとることもなく早めに宿を出立する。
朝食をとらずに早めに出立する理由、ひとつはゲージを見てみても余裕があったという点があるのと、もうひとつとしては、始業時間を聞いていなかったという事がある。
募集時に8時間とあった事を思い出し、夕刻ぐらいを16時ぐらいとみて、昼食時間があったことから逆算すると、8時ごろかなと推測を立てての行動なだけである。
先払いといえる前金の賃金をもらっている訳でもあるために、いきなり遅刻やサボりで違約金として支払わされるのは、この生活レベルを維持し続けるためには余計な出費となりかねない。
罰則金とかで、余計に搾り取られるのは勘弁願いたいものである。
出立の際にシーの"ご主人様"コールに再び魂が揺さぶられかけたが、何とか耐えることに成功しつつ、もうひとつの存在であるヒョウさんといえば『追従していて来ている存在を、そろそろ掃除ましょうか?』と言ってきたりしていた。
今のところは掃除とかいらないですから、そもそも、そういうのをゴミ呼ばわりする性格じゃなかったはずなのに。
あと、こちらとしては、そういう厄介事や面倒事を起こされると、将来設計の予定がお幅に狂ってきてしまうのは、さすがに勘弁願いたい所存である。
なので、『監視のみ』と『そういう事はいらない』と再び釘を刺しておく。
そう伝えたら、しぶしぶという印象で『わかりました‥‥‥』と言っては、昨日の様に姿を消してくるのだが、これがもうMAPみないとほんとわからないレベルで見えない。
以前はユラユラという感じで蜃気楼的な?歪みが多少なりともあったはずなのに、それすらなく本当にいるのかどうかが視認ではできない。
なんか、前よりも性能がダダ上がりしてる気がしないでもないし・・・って、この前から物騒な言葉が聞こえてたりし、なにか危なっかしくなってる気もするが・・・
まぁ、ポンコツSの事を思えば、常識人枠に入っているからだから大丈夫だろう。
* * *
街中で生物といえる人たちをあまり見る事もなく、すんなりと職場となる港湾工事事務所に到着する。
「おはようございます」
「ん?ああ、おはようさん。嬢ちゃん、早いな」
「そうですか?始業時間を聞いてなかったので」
事務所の近く、暖房ともいえる火を囲うようにして座っている人たちがいる。
親方もその中にいたりしており、挨拶を交わしたのちに時刻を確認すると06:50を示している。
これは早く来すぎたのだろうか?
「親方、伝えてなかったんですか?」
「ん?解ってるものだとな」
「伝えなければ、解るわけがないですよ…。はぁ、まったく。では、あらためて、アーネストさんの仕事なら"二ノ鐘半"からでもかまわないかと思いますよ」
「ああ、それぐらいでいい。下手に早すぎても沖は危険だからな」
「今は、朝の連絡会議みたいなものですから、まぁ、空いてるところで座って待っててください」
「あと、基本的に事故を防ぐ意味合いで風が強いときや嵐が来ている時は海が荒れる為に休業となります。が、工期次第では無理を言う場合もありますが‥‥‥アーネストさんの仕事には、そこまで無理をいいません」
まぁ、こういう現場仕事なら、仕方ない話なのだろうし、事故を防ぐという意味合いでは当たり前かもしれない。
「なるほど、そこは解りました。それと、"二の鐘"というのは・・・?」
「ん?知らんのか?嬢ちゃんはここら土地のモンじゃ‥‥‥」
「親方」
「お、おぅ・・・一応、説明するが、鐘屋が鳴らす鐘の事で・・・」
朝から一、二と一定時間ごとに鳴らされる鐘で、四で丁度昼時とし、五の鐘で午後の始業とすると。
大体2時間おきに鳴らされる鐘という事で、二の鐘という事は…一がもう鳴った6時として二時間後が二の鐘、つまりは08時となり、三の鐘が10:00だから、二の鐘半は09:00といったところだろうか。
「ほかの奴らは、"二の鐘"からでいいが」
「オレたちゃ仕事道具の整備に、事前打ち合わせがあるから"一の鐘半"すぎからって訳だな」
「なるほど‥‥‥」
「クァンの奴もそろそろ来るころだろうし、しばらく待っとけばいいんじゃね?」
「という事で、待つ間、オレの隣の席なんてどうでしょ?」
「お前、抜け駆けすんなって言ってただろうが!」
「いいだろうが!それに、お前は嫁さんいるだろか!」
「それとこれとは別だ!」
「それはダメだろ?という事で、間とってオレのところを・・・」
「「どこが間とってだ!」」
「アハハハハ‥‥‥」
「てめぇら少し黙れ!!」
「「「へーい」」」
喧騒ともいえる騒動が始まろうとしたときに、親方からの怒鳴り声でその場が収まるが「いつもの事ですから、気になさらず」と、助手からそう伝えられた。
いつも、こうなのかと‥‥‥
* * *
「それで、アーネストさんは、早くに来られてたんですか」
「まぁ、そうなんだが‥‥‥」
相棒となる小麦肌の青年と合流し、今は作業艇といえる船―――どういえばいいのだろうか。木床が大小三つのカヌーの様なモノの上に乗って屋根付きの小さな小屋が乗っている代物と表現すればよいのだろうか―――そんな代物に荷物を載せていく作業をしている。
載せているモノといっても、縄とか籠とかという代物のほかに、作業道具の箱と説明を受けた代物を積み込んではいる。
数箱積み込むと、
「大体こんなところかと、じゃぁ、今日はどのあたりから始めますか?」
そういわれて箱の上に広げられたのは海図らしきモノと海底図らしきモノ。
「これが今の海図で、こっちが昔の海底図です」
「へぇ・・・こんなのがあるのか」
「この海底図が古いですから、これに書き加えていく恰好になるとは思います」
「ああ、なるほどね」
海底図の方に、変わったところを書き加えて修正していくというのが、本筋的な方法という話を聞いた。
が、その海底図においても、記載がされていない場所もあったりするが…
「ここから記載が無いようにみえるが」
「ああ、そこは調査が入ってない部分とかだったと聞いてます」
「なら、それだけ深いって事なのかな?」
「いえ、そういう訳でもなく、必要が無いから誰も調べてないだけとか」
「確かに必要が無ければ要らないわな」
「なので、今から行う場所も、必要が無ければよいかと」
「なら、とりあえず急ぎの場所から始めるか」
「そうですね。じゃぁ、とりあえずは工事予定の丘側からいきましょうか」
「了解」
「では、出発」
そうして、乗り込んだ作業艇の真ん中当たりの柱みたいなモノに取り付いている自転車のハンドルらしきものを小麦肌の青年が握り、周囲の状況を確認したかと思うとゆっくりと離岸していく。
・・・ってちょっとまて、帆もない掘っ立て小屋ともいえる小屋しかないこの船?みたいなものが、駆動音を一切聞こえない状態で動き出している事に驚くというか、不思議すぎて困惑してしまう。
一体全体なにがどうなってんだ?と、床下を覗いてみる格好で船尾の場所から覗いてみるも、泡も何もないままそのまま進んでいるとしか言えない。
「アーネストさん、どうされました?」
「いや、どうやった動いているのかと…‥」
「普通に操船をしてるだけですけど?」
「何がどう普通なのかがよくわからんのだが‥‥‥」
「普通に魔道具を使っての操作ですけど‥‥‥?」
「魔道具‥‥‥?って事は、魔法とかそういう道具とかっていう?」
「えっ?ええ、そうですけど、難しくないので、やってみます?」
「ん?いいのか?」
「ここまで沖に出てたら、"動かす"だけなら大丈夫かと」
心の中でヒャッホイ!という気で操作方法を聞き出してみると、早い話、バイクみたいな要領で舵を操作するだけという代物だった。
早速とばかりに、舵を変わってもらい
「よし、んじゃ前進っと‥‥‥」
ピクリとも動かない船。
まるで波に流されて移動するだけともいう。
「あれ?調子悪かったかなぁ」
と、小麦肌の青年が再び舵を操作すると動き出す。
「あれ?大丈夫みたいですね。じゃぁ、やってみます?」
「お、おぅ」
再び舵を取っては操作してみようとも、少しも前進しようともしてくれない。
「もしかして、アーネストさん、魔力操作が苦手とか?」
「えっ?」
「大型の魔道具なんで、起動用に魔力を流さないといけないですし」
「えっ?魔力とかそういうのがいるの?」
「えっ?というか必要ですけど?」
「‥‥そうなんですが、いや、もういいです、操船はいいです‥‥‥」
「そうですか?じゃぁ、先に進みますね」
「ハイ、オネガイシマス」
小麦肌の青年に操船を交代してみたら、簡単に進みだす船。
うん、魔法とかそういう類する物が使えないのは知ってた。
悔しいとかそういう事はないよ?うん、全然、まったく、これっぽっちも無いよ?
使えないなら仕方ない事だし、仕方ない事だし…
動かしたかったなぁ‥‥‥
そんな船の船尾に足をぶら下げる恰好で座り込んでは、離れていく陸地を眺めるしかなかった。




