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維新〜総員決起せよ〜  作者: 棚瀬 賢
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第17話 密約

防衛省情報本部に勤める彼は、早めの昼飯としてビックマックを頬張りながら任務に備えた。

ビックマックを買う場合、必ずハンバーガーも買う。先に食べてから包み紙を流用することにより、あの食いにくくして仕方ないビックマックをこんなPCに囲まれた環境でも美味しく綺麗に食すことができる。

あと5分ほどで放送が始まる。しかし、いったい何を放送するというのか。各種実験や前線部隊の変化はあまり見られず、まして電波も異常値はない。まぁ、近年は光回線の整備が進んだというが。それにしても、名前が気になった。今まで聞いたこともない放送名だ....。


朝鮮中央テレビが12:00から放送を始めるとした『特別決意放送』に備えて、男は口の中の残骸をコーラで流し込んだ。

2月5日 11:55東京警察病院『レストラン憩』


美少年イケメンですか....成宮二尉が目撃したのも“美少年”であって、自衛官の目をしていて...。美少年だけは合致してますよね」と、パスタセットを食べ終えた土屋が手帳を見つつ振り返った。

「やっぱ土屋ちゃんは“美少年”気になる?」と茶化すように寺脇が聞く。

「はい....と言っても、“美少年”だからではないですよ。共通性があるからです」と、横目で睨む土屋。

「はい、もちろんそれは理解しています」と絶対そう思ってないような口ぶりで応えたあと、寺脇は残りのラーメンを一気にかき込んだ。

警官からの聴取を終えて、昼食とこれまでの振り返りがてら9階にあるレストランで食事をした2人。

聴取した結果、別に新しく認識できたものはなかったが、とりあえず犯人は“美少年”と同性でも認識できるほどの顔の持ち主であるということがわかった。そして、それが富士の事件と同一犯である可能性もわかった。

しかし、これでは犯人はわからない。美少年だったらジャニーズ事務所に行けばたくさんいるだろうし、ましてや証拠などない。

「誰なんだろうねぇ〜」と寺脇が愚痴るほど、犯人を絞り込み認識できるほどの手に入れた情報は少なかった。

「いっそ、こうなったら上に頼んで警察の捜査本部に直接行こうかな〜」



昼食を終えて警察病院を出ようと出入口に向かっていた時。

「ちょぉっとよろしいですか〜」と後ろから突然声をかけられた。

「はい?」と寺脇が、そして遅れて土屋が振り返ると、そこには随分人相が悪い男と比べて真面目そうな若い男の2人が立っていた。

人相が悪い男が掲げる右手には警察手帳が握られている。「川原 和久・巡査部長」との氏名・階級よりも目立つは、その写真の人相のさらなる悪さ......

「.....」


土屋は「本気でこの人刑事なのか?ヤーさんのコスプレじゃぁ!?」と思っていた。


「いえ、別にオタクさんらに何らかの嫌疑があって呼び止めたわけではありません。少しだけお話を聞きたくて.....あなた方、警務隊の方でしょ?」と寺脇の『警務 MP』と書かれている腕章を見つつ、男が聞いてきた。

「本部経由か電話でお話を伺うとなると、正式なルートでやらないといけませんし、記録に残りますからね。上がどうにもうるさくて...」と警察手帳をコートの中に来ているであろう背広スーツの内ポケットにしまいつつ話す川原。

「ちょっとだけでいいんです。何ならコーヒー1杯くらいご馳走しますから」とその横にいる若い刑事、警察手帳には『芹沢 慶次・巡査』と書かれていた刑事が頼み込んでくる。

交互に見た後、寺脇が口を開いた。

「...あなた方は、もしかして大臣射殺事件の捜査関係者?」

「えぇ、捜査本部に所属している専任ですが」と川原が「それがどうした?」という顔をしつつ応える。

「そうですか...いえ、少し気になったものですから」と寺脇が言った。

「別に構いませんよ。お話ししましょう」

寺脇の一言を聞いてから、少し安心したような顔をした川原であるが、すぐに周りの目を気にしはじめた。

やはり制服自衛官と刑事が話しているのは目立つのだろうか、面会者や病院関係者たちが好奇の目線を向けてきていた。

「.....ただ、ここでは目立ちます。別な場所でお話を伺ってもよろしいですか?」と川原が周りの目を気にして、先ほどよりも声の大きさを落として寺脇に提案する。

「えぇ、ついて行きますから案内してください」

「それは良かった。どうせ、オタクさんも車でしょう?我々が誘導しますからついてきてください」



15分後...


4人の姿は中野駅近くにある喫茶店にあった。男3人はホットコーヒーを注文し、土屋はシナモンティーを頼んだ。自己紹介は既にすみ、互いが立場や階級を理解している。寺脇が“本部警務隊捜査科長”という役職であるとは想像もしなかったようで、川原達は驚いてはいたが。

「都内で共同溝が、しかも故意に爆破された挙句に、一国の大臣が射殺されたというのに、俗世間は身辺が回復すればあっという間に他人事ですよ。これじゃぁ、いつまた何か起きた時どうすんだか」と、川原が嘆くように話す。

「お気持ち察します。我々も行動に備えて待機はしていますが、国民にもある程度の理解はしてほしいですね」と言ってから、カップに手を伸ばす寺脇。

「それで、お話というのは?」とブラックコーヒーを一口啜った寺脇が川原に質問した。

「えぇ、実はですね」と川原は手帳を開きつつ、付箋が貼ってある箇所のページを開いた。

「何点かありますが、まずは昨日のご回答ありがとうございました」と、川原が頭を下げた。

“ご回答”というのは、警務隊が“C-4”爆薬の有無に関して警察庁・警視庁に答えたものである。

といっても「自衛隊が保有する全ての『C-4爆薬』が正常に保管され、盗難・紛失した事実はない」という結果、そして回答をしたのは昨日の午後3時過ぎ。つまり、寺脇らがこの知らせを本部の捜査科長代理たる陸曹長から知らされただけで「いえいえ」と言いつつも、なんとなく実感はない。

「ただ失礼ながら...」と川原の目が寺脇を“ギロリ”と睨んだ。

「捜査科長殿、貴方が直接確認されたんですか?」

「はい?」と困惑する寺脇。「え、いや各方面、地区警務隊からの報告ですが」

「では、もしどこかの警務隊が弾薬の管理者とグルになっていたとしても分からない、ということですね」と決定づけるように言う川原。

「どういうことでしょう?川原刑事」

「別に、ただ事実を述べただけです。最悪の場合、そういったことも可能であると」

「申し訳ないが警務隊と現場自衛官が何故グルになって隠滅を図るとお思いですか?」

「理由なんてたくさんあると思いますよ。管理の不手際を隠したり、何かしら後ろめたい事実があるので共謀するとか」

「貴方は一体警務隊に何を言いたいのですか?」

「いいえ、とんでもない。誤解を与えてしまったのなら謝罪しますが、あくまであり得る話です」

寺脇は若干、頭に血が上っていく感覚があったが堪えた。

実際あり得る。虚偽や隠ぺいは自衛隊の歴史上幾度かあった。今回もそれが無いとは決して言い切れないが、それを言い始めれば全てがそうなる。

「それに、我々警察組織もありえますよ。特に自衛隊と警察が関わることについては」と何かを察してか川原はフォローらしき一言を言う。

「実際、上の連中は警務隊との協力を拒んでいる節があります。特に刑事部長は爆薬コンポジションの照会で自衛隊に問い合わせをしようとは最初考えてもいませんでしたし。こういう時こそ自衛隊とは組まないといけないのに...」

その一言に寺脇は驚いた。川原を見るが、当の川原はポケットからタバコを取り出した。が、店内全面禁煙を思い出してか、舌打ちを一つしてからしまった。

てっきり、自衛隊に対し因縁的なものをつけるだけかと思いきや、あくまで協力を望んでいる。血圧が下がったような気を寺脇は感じた。

「...私の個人の意見としては、事件解決のためなら協力を望みます。ですから、情報はすべて開示し必要な措置はなんでもしようと思います。が、その交換要件として警察側からの情報開示を要求します。しかし、これはあくまで一個人である私の考えです。私は組織の、しかも『捜査科長』という職に就いている人間です。それはお分かりですよね?」

「えぇ、それはもちろん。ただ、上を通してでは明日片付くことが永遠に成しえない。だから、我々の個人的関係として捜査科長殿とぜひに」

川原の言葉に寺脇は悩んだ。確かにこの刑事と協力することに利はあっても損は無いだろう。

だが、個人的繋がりで警察と自衛官が情報交換したとなれば、情報流出として追及される可能性がある。そうなれば、話は個人レベルでなく組織レベルにまで発展しかねない。しかも、寺脇は一介の警務官ではなく“本部捜査科長”という肩書きを背負っている。また、下手をすれば土屋も同罪になりかねない。

「どうするんですか?」と土屋が心配そうに声で耳打ちをしてきた。

だが、事件解決のため、死んだ亀田陸将補の正体と犯人検挙。そのためにもここは.....

「分かりました。ただ、このことは内密に。私と連絡を取る場合は私個人の携帯に連絡ください。よろしいですか?」

早速手帳を取り出し、寺脇は自分の携帯番号を書き始めた。

「お心遣い感謝します」

川原が頭を下げた。



警察側が手に入れた情報と、寺脇ら自衛隊警務隊が手に入れた情報はあまり差異はなかった。

が、その“あまり”に含まれないものとしては...

「犯人はかなりのプロ?」

寺脇が川原の言った一言に驚いた。

「えぇ、まずそれは間違いありません。そして、共同溝爆破に関しても」

川原が自らの手帳を見つつ寺脇に応えた。

「大臣射殺に使用されたのは、警官から奪われた『M360J拳銃』であり、8ヶ所の共同溝爆破に使用されたのは合計して80kgほどのC-4爆薬で、はっきり言って共同溝自体の破壊というよりは中に施設されているライフラインを傷つけることにより断線させることが目的であったと見られます。

が、それよりも特筆すべきは、大臣射殺の際に殺害されたSPや秘書官は素人が狙うには少々遠すぎると位置から、眉間や心臓を正確に狙い射撃しています。

また、共同溝も爆破方法は至って単純な装置による起爆ですが、余計な拘りや癖が一切なく、簡素で確実的爆破を追求した極めて合理的な装置だと鑑識は報告しています。8箇所とも同構造の装置で、同一人物が製作したか極めて厳格化された規格で作られた物であるそうです」

「ちなみに、射殺の際の発砲距離は?」と土屋。

「あぁ、それは....気絶していた警官を除けば生存者がいないため、弾痕や入射角から判断されたおおよその位置ではありますが、最低を見積もって20メートル。あと5メートル足せば警察における射撃訓練の最大規定距離です」

「つまり、素人や触発された過激派がやったにしては優秀すぎるわけですね」

と、ここで寺脇の携帯が振動バイブした。代理を任せている陸曹長からだった。

「もしもし、寺脇です」


まさか声をかけた男が警務隊の上級幹部で、しかも捜査部門の長であるとはあまりにも奇跡であると川原は感じていた。

冷めたコーヒーに唇をつけた時、カップの先で電話に出た寺脇の顔が青くなるのを目撃した。

「北が!?分かりました。すぐに戻ります!」

そう言うなり、隣の女性自衛官に耳打ちしたあと、音を立てて椅子から立ち上がった。

「川原さんすみません!私達はこれで失礼します!」

「どうかしたんですか?」

「北が動くかもしれません!」

川原がその意味を理解するよりも早く、寺脇らは外へ走って行った。

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