10-1.タイムマシンの被験者
この物語はフィクションです。この物語にでてくる薬名、治療法、一部の病名、一部の物理法則などは架空のものです。
秋の柳風荘。ある日の休日。
麻奈と修は先日のお礼を兼ねて詩音とポッチを柳風荘に招いた。
リビングのテレビの大画面に映っているのはタイムマシン物の演劇。
4人は人目をはばからずボロボロ涙を流している。
修 :「そんな、トリツカレ男以上のものがあったなんて」
見終わった修は感想を述べる。
麻奈 :「はい。残念ながら映画化されていないのでいつもの南銀の名画座で見ることができません。こうやって演劇のビデオしか今となっては見る方法がありません」
修 :「しかし、タイムマシンの発進シーンはほんとすごいな」
ポッチと詩音がうんうんとうなづく。
麻奈 :「このタイムマシン。それと一途な主人公。そして、もうちょっと考えようかという少しおばかなヒロイン。この3つがいい味を出している涙腺崩壊必須の演劇です」
修 :「これ以上はさすがないだろうな」
麻奈 :「いえ、いくつかあります。その一つが『水平線の歩き方』です。これは秀逸です。母と息子の物語なのですが、母の愛に涙ボロボロです。この冬再演されるので、修君一緒に行きませんか?」
修 :「ぜひぜひ」
そんな会話の中、詩音はぽつりと言う。
詩音 :「詩音、これ作る」
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雨が降る公園墓地。
夕方だというのにもう、あたりはだいぶ暗くなっている。
そしてひとつの墓石の前でサラリーマン風の男がたたずむ。
茂 :「雪絵さん、また『水平線の歩き方』が再演されるよ」
男の名は結城茂。20代であるが、どこか疲れた雰囲気を醸し出し、年齢以上に老けた感じがする。
春菜 :「結城さん、またいらっしゃってたんですね」
花を持った若い女性が茂に声をかける。彼女の名は北条春菜。
茂 :「ああ、春菜さん。今、雪絵さんに『水平線の歩き方』が再演されることを告げに来たのです」
春菜 :「そうですか。再演されるのですか…。もう、あれから3年たつのですね。早いものです」
3年前、雪絵はアルバイト先のケーキ屋で事故にあい亡くなった。暴走したトラックが店に突っ込んだのだ。たまたま、店の前で掃除をしていた雪絵が巻き込まれた。
3年前、茂は雪絵と演劇「水平線の歩き方」を見ることを約束していた。しかし、その講演が始まる前に事故にあい、約束は果たされなかった。
春菜 :「姉はすごく楽しみにしていました。演劇好きで、いろいろなところに見に行って、そして、自分でも演じるのが大好きで。特に『水平線の歩き方』が大好きで、結城さんに無理行って劇団と交渉してもらい、台本までいただいちゃって。それなのに…」
脚本家のサインが書かれたいた台本もあの事故で半分焼けてしまった。そして、棺の中に入れられ一緒に天国に上ってしまった。
茂 :「そうだったな」
春菜 :「ですが、そろそろこのように月命日ごとにお墓にくるのは卒業されてはいかがでしょうか? いつまでも姉のことを引きずっている結城さんを見てるといたたまれません。どうか前に進んでください」
茂 :「そうかもしれないな。でもそれは春菜さんにも言えることじゃないか? ひきずっているのはお互い様だ」
茂は力なく笑った。
そう、我々の時は3年前に止まっている。
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茂 :「ただいま~」
茂は誰もいない部屋に挨拶をする。あれから春菜と別れ一人暮らしのマンションに帰った。
疲れた体を椅子に投げ出し、ふ~と一息つく。
ネクタイを外しながら、PCの電源を入れる。
茂 :「さみしいものだな」
改めてひとり暮らしのさみしさを感じる。
茂 :「会いたい」
茂は雪絵を思い出す。
茂 :「あの事故さえ回避できていれば」
意味がないとわかっていても、後悔の念が堪えない。
PCが立ち上がり、メールが届いていることに気付く。
有名なネットオークションからのメールだった。
面白いものが出品されるとメールが届く仕掛けになっている。
茂 :「相変わらず、つまらんものばかりだな。もっと、『おお~』と唸るようなものはないのか」
そういって一覧を見る。だがあまり突拍子にないものはなかった。
実家暮らしをしている妹の五月からもメールが届いていた。
「お兄ちゃん、面白いオークション見つけた」
と書かれていた。兄妹そろって変な趣味だといわれる。ほっておいてほしい。
いくつかのオークションが書かれていたが、その中に興味を引く題名を見つける。
茂 :「『急募! タイムマシンの被験者』だあ? くだらねえ」
そういいつつメールを開く、そして、そのメールに書かれたいたURLを開いてみると
そこにはこんなことが書かれていた。
「タイムマシンの被験者を募集中。急いでいます」
「だれでもできる仕事です。タイムマシンに乗って過去に行って証拠となる写真を撮る仕事です」
そして、権利金が2万円からになっている。
茂 :「仕事といいつつお金を取るのはいかがなものか」
茂はふっと笑った。こういうかわいいいたづらもたまにはいいかな。
茂はメールを閉じ、風呂と食事の用意を始める。
風呂をあがり、冷蔵庫から缶ビールを取り出す。
そして自分で作ったシーフードペペロンチーノをつまみに飲みだす。
茂 :「タイムマシンに乗ったら3年前に戻って雪絵さんを救えるかな」
ばかな考えだと思った。でも頭から離れられなかった。
次の日、気になってあのメールを読み返した。URLを開くともう削除されていた。
茂 :「だれかが落札したのだろうか? いや、いたずらとばれて消されたんだろう」
しかし、茂は気になってしょうがなく、メールに書かれていたメールアドレスに問い合わせてみた。
メールはすぐ帰ってきた。
「本日、午後1時にお会いできないでしょうか」
茂は即座にOKのメールを出した。
茂 :「まあ、今日は休みで暇だしな」
だが、10時前には支度を始めた。指定された場所はマンションから一駅だというのに。




