10-2.依頼主は小学生
この物語はフィクションです。この物語にでてくる薬名、治療法、一部の病名、一部の物理法則などは架空のものです。
茂 :「花の丘小学校…」
茂は指定された場所についてみた。ナビは間違いなくここをさしている。
茂 :「依頼者は小学校の先生なのだろうか?」
とりあえず、学校も窓口に声をかける
茂 :「すいません、私、結城茂と申します。楠木詩音さんはいらっしゃいますか?」
窓口 :「楠木詩音ですか。少々お待ちください」
窓口の人が奥で何やら相談している。
窓口 :「も、申し訳ございません。もう少しお待ちください」
少しして、初老の男の人が現れる。
教頭 :「私、この学校の教頭をやっている青山と申します。結城茂さんですね。お待ちしておりました。こちらにどうぞ」
玄関で来客用のスリッパに履き替え、1階の廊下を歩く。
教頭 :「ここが校長室です。帰りに是非校長がお会いしたいと申しております。せっかくきていただいたので、コーヒーとケーキくらい出させてください」
そういって、さらに奥の視聴覚教室に教頭は茂を視聴覚教室に連れて行った。
教頭 :「楠木さん、神崎さん、お客さんだよ」
詩音 :「あ、教頭先生ありがとう」
教頭 :「いえいえ、では、後ほど校長室で」
そういって教頭はにやにやしながら歩いていった。
詩音 :「結城茂さんですね。今回はわざわざすいません。私が楠木詩音です。となりがポッチ、じゃなかった神崎美鈴です」
ポッチ:「はじめまして」
茂 :「はじめまして」
そこにはかわいらいい小学3~4年生くらいの女の子が二人立っていた。
茂 :「ところで、君たちが今回タイムマシンで3年前に飛んで、雪絵さんにあわしてくれるというのかい?」
詩音 :「ええ、そうよ」
詩音が胸を張る。
茂 :「どうやってタイムマシンを動かすのかい?」
詩音 :「αベクトル空間の遷移空間を使うの。完全にαベクトル空間に入る前に、αベクトル時間と位置を固定すると、現実時間がずれていくわ。その応用よ」
茂 :「はあ、それでそのタイムマシンは完成してるのかい?」
詩音 :「プロトタイプはできてる。3日前までは戻れるわ」
茂 :「どうして、3日前ってわかるんだい?」
詩音 :「だって、私たちタイムマシンでいったんだもん。だけど、私たちのこと誰も信じてくれなくて、それで、関係ない第三者を呼んで証明してもらうことにしたのよ」
ポッチ:「大人たちは私たちを子供のいたずらと決めつけ信じてくれないのよ」
まあ、そうだよな。小学生にタイムマシンなど作れるわけがない。茂は思った。
αベクトルの遷移空間とかαベクトル時間とか完全に子供の想像の世界だ。そんなのに付き合う筋合いはない。
茂 :「うん、それは仕方がないことだと思うよ。まあ、私はあなたたちのいたずらとは思わない」
茂 :「でも悪いのだけど私も結構忙しいものでね。申し訳ないけど君たちの遊びには付き合ってられないだなあ。もっと別の人のほうがいいと思う。うん。それでは」
茂は席を立とうとする。
詩音 :「ちょちょっと待って」
振り向かずに後にする。
ポッチ:「雪絵さんに一生会えなくなりますよ!」
ひくっとした。しかし、これはだましのテクニック。そのまま教室を離れる。このまま帰ろうとしたが、せっかく教頭先生が誘ってくれたのだから、校長室に挨拶だけして行こう。それが大人って者だ。
校長室をノックすると柔和な表情の男性がドアをひらいた。
校長 :「おお、あなたが結城さんですね。教頭先生から聞いています。私、校長をやっております六本木と申します。さ、こちらへお座りください」
茂 :「いえいえ、お構いなく」
校長 :「まあ、せっかくですので」
茂 :「それでは失礼します」
泉 :「失礼します」
女性が中に入ってきた。飲み物とケーキを持ってきた。
校長 :「こちらがあの二人の担任の泉先生です」
泉 :「はじめまして。泉と申します」
泉先生はコーヒーとケーキを置くと校長室のソファーに座る。
校長 :「ところで、結城さん、本当に彼女たちはタイムマシンを開発したと思いますかね」
結城 :「まさか。小学生ですよ。小学生がタイムマシンを開発するなんて考えられません」
校長 :「泉先生はどう思う?」
泉 :「五分五分だと思います」
結城 :「まさか!」
校長 :「私も五分五分だと思う」
結城 :「どうしてそんなこと信じているのですか?」
校長 :「この部屋を見てほしい。いろいろな賞状やトロフィーや楯が並んでいますでしょう」
茂は辺りを見回す。確かにいっぱいある。校長はその中からひとつ選び、茂に渡す。
結城 :「何ですかこれ?」
校長 :「三条くるみ博士がノーベル賞とったときのものです」
結城 :「うは!」
あわてて落としそうになる
結城 :「なんで、そんなものが」
校長 :「三条くるみはこの小学校出身なんです。彼女はこの小学校を自分の賞品置き場と思っている」
茂 :「はあ」
校長 :「三条博士はなんでノーベル賞をとったか知っていますか?」
茂 :「確か統一場の理論だったと思いますが」
校長 :「くるみエッセンシャルという本は読んだことありますか?」
茂 :「いえ、物理は興味がなくて」
校長 :「そうですか、でも、ぜひ読んでみる価値があります。その第4章ではタイムリープの理論が書かれています」
茂 :「まさか」
校長 :「本当ですよ」
泉先生もうなづく。
茂 :「それが事実なら、世の中大騒ぎになるはずでは?」
校長 :「はい、でもくるみちゃんの23世紀のおとぎ話といわれ、実現は23世紀にならないとできないと思われてるのですよ」
茂 :「なるほど。それと楠木さんたちとの関係は?」
泉 :「楠木さんは三条博士の愛弟子です。小学生ながらその理論をきちんと理解しています。そのため、いろいろなものを発明しています。しかし、あまりに突飛なので国家秘密にされています」
茂 :「うそですよね」
校長 :「まあ、実際に見てもらうのが一番でしょう。ご足労ですが職員室まで来ていただけますか?」
そういって校長先生は茂をいざなう。
職員室のドアの前まで行くと、泉先生が中に入る。そして、出てくる。
校長 :「なんの変哲もないドアですよね」
茂 :「はい、そうですね」
茂も中に入ったり出てみたりするが何の変哲もない。
校長 :「では、スイッチを入れてみます」
校長はドアの上にあるスイッチを押す。
校長 :「では、入ってみてください」
促されるまま、職員室の中に入る。
ビュンという感覚とともに一瞬暗くなる。そして再び明るくなったとき、目の前に校長先生と泉先生がいた。後ろを見ると職員室がある。
校長 :「αベクトル遷移空間を使い、位相を180度ずらしています」
校長先生が冷静に言う。そして、泉先生が中に入る。一瞬消えた後、すぐに反対向き、つまりこちら向きに出てくる。
茂 :「これって?」
校長 :「楠木さんと神崎さんの夏休みの工作です。彼女たちは宿題逃れのために永遠に入れない職員室を作り上げたのです」
茂 :「はい?」
校長 :「さらに驚くべきことがあります。結城さん、ここにストップウォッチが二つあります。ひとつは結城さんが持ってください」
茂はタイムウォッチを渡される。
校長 :「では、同時にスイッチを押しましょう。よーい。スタート」
校長先生と茂は同時にストップウォッチのボタンを押す。二人見せ合うとほぼ同じの時間を示している。コンマ何秒の狂いはあるが、秒レベルでは変わらない。
校長 :「結城さん、ドアに入ってください」
茂 :「え、ええ」
茂はわけもわからずドアをくぐる。先ほどと同じように反対向きになり出てくる。
校長 :「では、ストップウォッチを比べてみましょう」
校長先生と茂はストップウォッチを見せ合う。
同じ時刻を示すはずのストップウォッチなのに校長先生のほうが3秒進んでいる。
茂 :「これって?!」
校長 :「結城さんが3秒未来にタイムリープしています」
茂 :「信じられない」
校長 :「だから、彼女たちのタイムマシンが信じられるかが五分五分なのです」
茂はその場で詩音たちの実験に参加することを決めた。後日、改めて、詩音たちに会うことにした。
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再び花の丘小学校の視聴覚室に向かう。
ポッチ:「では、契約内容の確認です。結城さんは私たちの実験に付き合うこと。そして、その記録をとるために録画することを同意すること。また、実験内容は他人に絶対漏らさぬこと。代わりに、報酬は雪絵さんにもう一回会うことです。よろしいでしょうか」
茂 :「参加料の2万円は?」
詩音 :「いただきません」
ポッチ:「参加者の本気度合いを確認するためです。2万円払ってでも参加する意思があるかです。よほどの理由がない限り、参加しません。そういった本気度を確認したかったのです」
茂 :「なるほど、僕は本気だ。もう一度雪絵さんに会えるのなら、少ない確率でもかけるさ」
ポッチ:「気になったのですが、応募理由に3年前に死んだ雪絵さんに会うためと書いてありますがこれはどういうことでしょうか?」
詩音 :「雪絵さんに会ってどうするのですか?」
茂 :「事故のことを伝える。そしてそれを回避する」
詩音 :「事故?」
茂 :「3年前、事故に巻き込まれたトラックがハンドル操作を誤って、花の丘駅の前の角のケーキ屋に突っ込んだ。そして、そこで仕事をしていた雪絵さんは亡くなったんだ」
詩音 :「恋人ですか?」
茂 :「いや、友達だ。同級生だった。でも、お互いいい雰囲気だった。三年前のクリスマスに二人で演劇を見ようと約束をしていた。そこで僕は告白しようと考えていた。だけど、事故によってその機会は永遠に閉ざされた」
詩音 :「そういう事情でしたか」
茂 :「つまらない話をしてごめんな」
詩音 :「いえ、なら、なおさら3年前に戻るべきです。会って告白しましょう。思いを告げるべきです」
茂 :「いや、告白までは」
ポッチ:「告白しないと後悔すると思う」
茂 :「いや、それは今度にしておくよ」
茂はそのポッチの意味を理解するにはもう少し時間が必要だった。
詩音 :「それじゃ、病院にいきましょう」
茂 :「病院?」
詩音 :「健康診断。タイムトラベルは体に負担がかかりますから。万全の体制で臨まないとね」
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松井 :「結城さん、特に異常はないですね。これならタイムトラベルしても大丈夫でしょう」
茂 :「先生はタイムトラベルのことを知っているのですか?」
松井 :「もちろん。これでもプロジェクトメンバーの端くれですからね」
茂 :「プロジェクト? なんですかそれは?」
松井 :「『エジソンプロジェクト』。天才児たちの保護機関です。昔、エジソンは発明王でありながら事業ではよく失敗しました。これはちゃんとした教育を受けられなかったからです。なぜなら、エジソンが実験と称して納屋に火をつけたりして退学になったためです」
茂 :「ほう」
松井 :「そこで、現代の天才児たちをそんな不幸から救うために作られたのがエジソンプロジェクト。普通単にプロジェクトと呼んでいます。天才児たちの奇異な行動を鷹揚に認め、保護して行く機関です。実際に結城さんも職員室のドアを見られませんでしたか?」
茂 :「ええ、見ましたし、実際に体験しました」
松井 :「あれは、夏休みの宿題をやっていなかった詩音とポッチが、提出しなくてすむよう職員室を封鎖するために考えたんです。結局、いろいろあって封鎖できなかったんですけどね。でも、子供らしい発想ですよ」
茂 :「なるほどね~」
松井 :「ところで気をつけてほしいことがあります」
茂 :「はい?」
松井 :「タイムトラベルには時間制限があります。10分過ぎると代謝異常が発生します」
茂 :「代謝異常?」
松井 :「ええ、ミトコンドリアがエネルギーを吸収しなくなります。なぜ発生するのかはよくわかりません。たぶん、時空のずれが何らかの異常をきたすのだと思います」
茂 :「最大10分しかいられないのですか?」
松井 :「ええ、10分が同期をとれる限界値です。その後、加速度的に同期がずれていきます。そうなると取り返しのつかない代謝異常が発生し、まるで貧血のように気を失い、その後昏睡状態に陥り、最悪死亡します。これを整合現象と呼びます」
茂 :「うう」
松井 :「そして、注意が必要なのは代謝異常に対して子供はとても弱いです。大人は平気でも子供はすぐに異常を起こします。ですから、詩音ちゃんたちを常に気にかけてください」
茂 :「はい」
松井 :「結城さんの大切な役目は彼女たちを整合現象から守ることです。そのためのお目付け役です。彼女たちだけでははしゃいで時間を越してもその場に残りたがるでしょう。そうなる前に、腕に抱えてでもタイムマシンに戻って、この世界に帰ってきてください」
茂 :「わかりました」
松井 :「約束ですよ」
そういって松井先生は小指を茂のほうに突き出した。
子供みたいだなと思いながらも茂はゆびきりをした。
つづく




