表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
トリックエンジェルSS  作者: まーしゃ
第9章 白帽子編
22/48

9-5.アンの幸福 ~イマジナリーフレンド編~

この物語にでてくる薬名、治療法、一部の病名、一部の物理法則はフィクションです。

麻奈がいなくなって2週間。春休みも今日でおしまい。


麻奈だけでなく藤原さんや宮島さんにも連絡が取れない。手掛かりはまるでなかった。


僕はこの2週間何もやる気が起きず、だだボーッとすごした。


そんな中、良介が僕の部屋を訪ねてきた


田村 :「修、どうした元気ないな」


修  :「麻奈がみつからない」


田村 :「やっぱり愛想尽かされたんじゃないか?」


修  :「…」


田村 :「冗談だよ。深沢がお前を見捨てるわけないじゃん。あんなに仲良かったのに。それとも何か嫌われることしたのか?」


修  :「別に。でも、携帯もつながらないし、寮にもいない」


田村 :「春休みに実家に帰ったんじゃないか? 携帯も壊れたとか」


僕は最後の日の会話を田村にした。


田村 :「深沢が二人現れて、連れて帰った? そりゃ、お姉さんか妹かがきて連れてっただけじゃないのか? 実家に帰ったんだよ。


修  :「でも、彼女は一人っ子だし」


田村 :「じゃあ、親戚のいとこかなんかだ。俺の母親のいとこなんて母親そっくりでよく間違えるんだ。そんなところだよ。 それに、その日ってコンカッションした当日だろ。記憶が混乱してるんじゃないのか? 実家に帰るけどって言ったの忘れてるんじゃないのか?」


修  :「だけど2週間も経つんだ。連絡よこさないなんて変だ」


田村 :「ま、どちらにしても明日から新学期だ。特に退学したとも聞いてないし、明日になれば学校に来るだろう。その時、聞いてみればいいんじゃないか?」


修  :「そうだな」


しかし、僕は嫌な予感がした。麻紀や藤原さんが言った言葉だ。


『4月からは麻紀と恋人として付き合えばいい』


-----------------------------



次の日


新学期を迎えクラス替えが行われた。


田村 :「よ! 修、今年も一緒だな。よろしく。」


国立 :「俺も一緒だ。今年は楽しくなりそうだな。」


たしかに別クラスだった国立も一緒だ。ちょっとうるさくなりそうだ。


藤原さんと宮島さんがクラスに入ってくる。


国立 :「お! 藤原と宮島も一緒か。彼女たちかわいいからな。こりゃ楽しみだ。」


ふたりの麻奈に対するいじめに近い態度を見ると素直に喜べない。しかし、彼女たちなら麻奈のことを知っているはずだ。そう思い声をかけようとした時だ。


一緒に女の子が二人と楽しそうに話をしながら入ってくる。ロングヘアを黄色いシュシュでポニーテールにまとめている。屈託のない笑顔。


国立 :「なんだ、深沢も一緒か。アメフト部大集合だな」


深沢さんがこっちを見てにこにこ笑って寄ってくる。


深沢 :「はあ~い、3人とも一緒なんだ。今年一年よろしく。修君、連絡もらってたのに返事できなくてごめんね。ちょっと旅行行ってたんだ。それと引っ越しで忙しくって。ちょ~とバタバタしてるの。あ、千秋と理恵が待ってるから、またあとでね」


田村 :「ほらみろ、ちゃんと来てるじゃないか。心配しすぎなんだよ」


心配して損したといった顔で良介は俺を見る


修  :「違う、あれは麻奈じゃない」


田村 :「はあ、どっから見ても深沢だろう」


修  :「ちがう。あれは麻紀だ」





放課後になった


麻紀が俺のところに来る。


麻紀 :「ごめん、今日買い物があるんだ。千秋や理恵と一緒に。だから、今日は勘弁ね」


修  :「麻紀、麻奈をどこへやった?」


麻紀 :「ほえ? 何言ってるのよ。ここにいるわよ。私が麻奈じゃない。どうしちゃったの?」


修  :「え?」


宮島 :「麻紀、いくわよ~」


麻紀 :「は~い、じゃあ、修君、また明日」


宮島 :「相川さん、麻紀借りるわね。邪魔してごめんね。でも、二人の仲、応援してるわ」


そういって3人は帰って行った。


国立 :「どうした、浮かない顔して。」


修  :「麻奈が麻紀に入れ替わった」


国立 :「はあ? どういう意味だ? 良介わかるか?」


田村 :「わからん」


修  :「ふたりとも気付かないのか?」


国立 :「何が?」


修  :「深沢の性格が全然違うだろ。前はもっと暗かっただろう。それが、あんなに明るく、積極的になって。まるで、別人だ」


国立 :「そうか? そんなに変わらないとおもうぞ」


田村 :「うん、確かに明るくなったかもしれないけど、久しぶりに修に会えたからじゃないのか? それに積極的という意味では、昔も変わらない。修にあんなにアプローチしてたじゃないか」


国立 :「うんうん」


修  :「でも、藤原さんや宮島さんと名前で呼び合うほど親しくなかった。それどころかいじめられるほど仲が悪かった。それに、麻奈と付き合うなって言っていた宮島さんがなんで応援するんだ」


田村 :「仲直りしたんじゃないか? それで、急速に親しくなって、今まで反対していたけど、応援できるようになった。そう考えれば不思議じゃない」


修  :「それに、宮島さんは麻紀とよんでいる。彼女の本当の名前は麻奈だ」


田村 :「おいおい、修、お前この頃変だぞ。彼女の名前は深沢麻紀。お前が一方的に麻奈とよんでるだけじゃないか?」


修  :「え?」


田村 :「去年の学級名簿。連絡用に持っているけど、ここにちゃんと深沢麻紀って書いてある」


修  :「そんな」


田村 :「麻奈って呼んでるのはお前だけだ」


僕は名簿を見て愕然となった。


--------------------------


それから数日、麻紀はクラスの中心人物になっていつも人の輪の中にいた。昔のように休み時間に教室の片隅でポツンと一人本を読む姿はない。おとなしく控えめな麻奈の姿はどこにもなかった。


昼休みは藤原さんと宮島さんとで仲良く食べている。外の庭の木の下で一人本を読みながら食べている姿はなかった。


僕は購買でパンを買い、中庭の木の下で一人でパンを食べた。ここ2,3日のわけのわからない生活に落ち着きを取り戻したかった。麻奈との思い出の場所で、静かに考えたかった。一人、物思いにふけたかった。


修  :「麻奈はどこに消えた。そしてなぜ皆は気付かないんだ。麻奈が麻紀に入れ替わったことを」



次の日。


今日も麻紀は引っ越しの片付けで忙しいからといって宮島さんと先に帰って行った。


僕も今日は部活がないので教室をでて帰ることにした。校門のところまで来ると忘れ物を思い出しあわてて教室に戻った。そこには一人の女子生徒が残っていた。


修  :「藤原さん」


藤原 :「ああ、相川君。どうしたの忘れ物?」


修  :「ええ、教科書を忘れてしまって」


藤原 :「ちょうどいいわ。麻奈のことで伝えたいことがあったから」


修  :「僕もです」


藤原 :「先にどうぞ。何?」


僕たちは窓の桟によりかかり話し始めた。


修  :「麻奈が入れ替わっています。麻紀という人物に」


藤原 :「はい?」


修  :「この春休みに麻奈が消されてその代わり麻紀という子が乗っ取ったんです」


藤原 :「入れ替わる? 相川君、頭大丈夫? どこか打った? ああ、そういえば春休み直前に本当に頭打ってたわね。その後遺症?」


修  :「藤原さんは気付かないんですか? 彼女は別人です。 麻奈でない、麻紀という別人です」


藤原さんはそんな僕をやれやれといった表情で見る。


藤原 :「ちゃんと麻奈と話した? 新学期になって」


修  :「いや」


藤原 :「あのね、ちゃんと本人と話してからそういう話はするものよ。あらためていうのも変だけど、麻奈と麻紀は同一人物。あたりまえだけどね。本名深沢麻紀、あだ名は麻奈。といっても、あだ名で呼んでるのは私と相川君だけだけどね」


修  :「え?」


僕は二人が現れて麻紀が麻奈を連れ去ったことを説明した。


藤原 :「ばっかね~。そんなことあるわけないじゃない。そうそう、明日からお弁当作ってくるから一緒に食べよって伝言預かって来たわ。妬けるわね~あなたたちの仲は。その時にでもゆっくり話したら今の話。麻奈はけらけら笑って『大丈夫』って聞くと思う」


修  :「あ、ああ。そうするよ」


藤原 :「そう、私からもお願い。終業式の前の晩の話。彼女覚えていないの。あの時は情緒がすごく不安定だった。だから、彼女には話さないでほしいの。せっかくあそこまで元気になったんだから思い出させるようなことは言わないでほしいの」


藤原 :「大変だったのよ~。情緒不安定な麻奈の気分をほぐすために旅行に連れて行って。携帯も取り上げて修君と連絡付かないようにして。やっとここまで戻ったんだからね」


修  :「ああ、言わないって約束するよ」


藤原 :「じゃ、あとは二人で仲良くね。あはは」


そういうと藤原さんは窓の桟からポンととび下りて教室を出て行った。


--------------------------------


次の日昼休みになり、僕は中庭にいった。そこには先客がいた。白い縁取りのある帽子を被った女の子だった。木陰で本を読んでいる。僕は思わず目を疑った。麻奈だ。


修  :「麻奈!」


僕は声をかける。女の子はゆっくりと僕の方を見る。


女の子:「相川さん?」


少し憂いのある趣でとろんとして僕を見る。麻奈だ!


修  :「麻奈?!」


女の子:「あ、修くん、ごめん。ちょっと、本に夢中でぼ~としてた。おなかすいたよね。お弁当すぐだすね。」


女の子の顔は生気を帯び、明るい笑顔に変わる。一瞬麻奈に見えたのは勘違いだった。麻紀だった。


修  :「麻紀」


麻紀 :「ん?」


修  :「何、読んでるの?」


僕は麻紀が読んでいるハードカバーの本を指差した。前に麻奈はあわてて隠した。「アンの青春」という本だいうのは、しばらくしてから教えてくれた。麻紀も隠すだろうか。


麻紀 :「アンの幸福」


麻紀は僕に読んでいる本を素直に見せてくれた。


麻紀は木陰に座っているところを少しずれ、僕に座るように促す。


麻紀 :「アンシリーズの中で一番はやっぱり、『アンの幸福』だと思う。この巻はギルバートとアンの手紙のやり取りをベースにした形式で、他の巻とは違うのよね。それに、レベッカ・デュー。彼女の毒舌さ、面白さってぴか一だと思う。修君もそうは思わない?」


麻紀 :「それにプリングル一族とか副校長のキャサリン・ブルックとか敵役がいっぱい出てくるじゃない。おかげで下宿先とか見つかんなくなっちゃって。」


麻紀 :「でも、そのおかげで柳風荘とかレベッカデューとかにで会えるのよね~。人生って何があるかわかんないわよね。苦労も役に立つことがあるのよね。修君もそう思わない?」


まるで、麻奈が話すようにアンの話を夢中でする。この姿を見ると麻紀と麻奈は同じだという、麻紀や藤原さんの言い分が正しいように見える。それに、僕自身もこうやって麻紀が話をするのことが楽しくて落ち着いていられる。まるで、ここが僕の居場所のように。


だけど、理性は警告を発する。この子は麻奈を乗っ取った。決して受け入れてはいけない。


修  :「アンシリーズの中で一番は『アンの青春』でミス・ラベンダーじゃないのかい?」


僕は答える代りに、意地悪な質問をした。麻奈が好きだったのはミス・ラベンダーだ。


しかし、麻紀はそんなこと気付かずにこたえる。


麻紀 :「ミス・ラベンダーもいいけど。自分の気持ちを20年も言えずに心の中に秘め隠遁生活送ってたんでしょ。私はいやだな。私だったら、告白して、幸せな生活送りたい。修君もそう思わない?」


修  :「まあ、そうかもな。でも、時代背景的に難しいのでは。それに、麻奈はその奥ゆかしさが一番だと言っていた。それに僕も『アンの青春』は読んだけど面白かった」


麻紀 :「ほい、それじゃ貸してあげる。読んだことないでしょ」


そういって、読んでいた「アンの幸福」を差し出す。


麻紀 :「読まず嫌いはいけないわ。読んでみてその感想を聞かせて。修君も絶対こっちの方が面白いって言うから?」


修  :「大事な本じゃないのか? それをあっさり僕に貸してくれるのか?」


麻奈は自分の本を大事にする。それはその本は自分の分身であり大事に取っておく。お気に入りの作品はもう一冊買って僕に渡す。そういう癖があった。それをあっさり渡すなんて。


麻紀 :「あたりまえじゃない。本はみんなに読まれてこそ幸せなの。書庫の奥底に置いておくなんてかわいそう。ボロボロになるまでみんなに読まれるのが幸せなのよ。修君もそう思わない?」


修  :「でも、麻奈は大事にしまっていた。それを…」


麻紀 :「修君、新学期に入っておかしいよ。事あるごとに『麻奈』『麻奈』ってまるで昔は良かった的なことを持ち出して。前はそんなんじゃなかった。ちゃんと私を見ててくれたあ」


僕はその質問に少し怒りを覚えた。


修  :「君が麻奈を乗っ取ったんだろう? 麻奈を返してくれ」


その時だった。がたいのでかい二人の男の子が現れた。見たところ新入生だ。


蒲田 :「麻紀さん、お久しぶりです!」


大森 :「中学卒業以来ですね。また、麻紀さんと同じ学校に入れてすれしいっす」


麻紀 :「あ~、蒲田君に大森君。この学校に入ったんだ」


大森 :「うっす。また麻紀さんとアメフトできるのうれしいっす」


麻紀 :「二人ともアメフト部に入るの」


蒲田 :「はい。正直迷ったのですが、活動が週2日なので地元のクラブと両立できるので入部希望します」


麻紀 :「良かった。あなたたちが入れば百人力ね。鉄壁のディフェンス、『京浜東北ライン』の完成ね」


修  :「えっと?!」


麻紀 :「ああ、彼らは私の中学の後輩で、地元のアメフトクラブに所属してるの」


大森 :「うっす。麻紀さんはその地元のアメフトクラブのマネージャでありました」


蒲田 :「それで、高校で麻紀さんがマネージャやってるって聞いて、俺たちも一緒にがんばろうって思ったんです。」


大森 :「うっす。麻紀さんは伝説のマネージャでありました!」


蒲田 :「ガサツですけどね。」


麻紀 :「こらこら、そこでおとすんじゃないの。ちゃんと持ち上げてよ。彼氏の前なんだから。それに正確にはマネージャじゃないわ。ときどき御手伝いしてるだけ」


蒲田 :「失礼しました。相川先輩ですよね。麻紀さんの彼氏。人気者でいろんな人から言い寄られたけど、頑として受け付けなかった麻紀さんが選んだ彼氏ということで凄い尊敬しています」


大森 :「うっす。私も同じ思いです」


修  :「ちょっと待ってくれ。君たちは中学時代の彼女を知っているのか?」


蒲田 :「はい。明るくってみんなの輪の中にいて一緒にいて楽しい人です。もう少し、落ち着いてガサツさをなくしてくれると最高ですが。」


大森 :「うっす。蒲田と同じです。中学に入学した当時あこがれの女性でした。だけど、まるで口うるさい姉みたいですぐに幻滅しました。でも、一緒にいるとすごい楽しいっす。」


麻紀 :「はいはい」


修  :「つかぬことを聞くが深沢麻奈を知っているか?」


大森 :「しらないっす」


蒲田 :「どなたですか? 麻紀さんの親戚ですか?」


修  :「控えめなおとなしい子で、まるで深淵の美少女って感じの子だ」


蒲田 :「麻紀さんと真逆ですね。わからないです」


大森 :「あったことないっす」


麻紀 :「ごめんね~、変なこと聞いちゃって。あんまり気にしないで」


大森 :「うっす」


蒲田 :「全然。気にしてないです」


キーンコーンカーンコン。昼休みが終わる予鈴が鳴る。


麻紀 :「あ、もどらないと。じゃあね、大森君、蒲田君。修君も一緒に急いで戻りましょう」


修  :「ああ」


わけがわからなくなった。中学時代の麻紀を知っている奴が現れた。そして麻奈を知らないという。まるで麻紀が本当で麻奈が嘘だというのか? 僕の記憶が違うというのか。コンカッションの影響なのか。


いや、僕は確かに麻奈と付き合っていた。麻奈と一緒にいることで心が救われていたんだ!


つづく

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
トリックエンジェル第一部第一章へ

お気に召しましたら応援クリックお願いします。とても励みになります
小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ