第90話 <上空支援2>
夜明けが近かった。
東の空が白み始めている。
クロウは上空を旋回していた。
冷たい風が羽を揺らす。
眼下には森。
その向こうには平原。
さらに遠くには街道。
青い瞳が光る。
「監視継続」
リン。
確認。
フロム。
確認。
ハンス。
生存確認未了。
下から新型魔人の声が聞こえる。
「くそうH兵め」
「もう少しでEXを捕獲できたのに」
「逃がすな!」
「魔鳥で空から探索」
「それと魔犬を追わせろ」
魔鳥が飛ぶ。
魔犬が走っていく。
クロウは翼を広げる。
さらに高度を上げた。
一羽。
いや。
二羽。
魔鳥が街道の方角へ向かう。
リン達のいる方向だった。
クロウの瞳が光る。
「脅威判定」
「排除開始」
翼をたたむ。
急降下。
音もなく高度を下げる。
背後を取る。
魔鳥は気付かない。
クロウはさらに加速した。
矢のように。
一直線。
激突。
ドンッ!
「ギャアッ!」
不意を突かれた魔鳥が悲鳴を上げる。
体勢を崩す。
翼が乱れる。
そのまま森の中へ落下していった。
クロウは旋回する。
「排除完了」
もう一羽いる。
魔鳥は異変に気付いた。
振り返る。
赤黒い瞳。
クロウを捕捉。
鳴き声を上げる。
「キィィィィィ!」
突撃。
クロウは回避する。
紙一重。
爪が羽先を掠めた。
黒い羽根が散る。
体格では勝てない。
飛行型支援機の中でも大型のブロウぐらいなら話は違うが。
小型のクロウでは正面からの戦いは明らかに不利だった。
だが。
クロウには別の方法があった。
急上昇。
さらに上昇。
サイボーグであるクロウは母体の飛行高度限界を大幅に超える。
鳥類の最高到達高度と言われる高さ1万メートル付近にまで到達できる。
今はさすがにそこまで上がる気はない。
だが急上昇する。
魔鳥は追う。
高く。
さらに高く。
夜明けの空へ。
そして―。
魔鳥が息切れするぐらいまで上がった瞬間、クロウは反転した。
急降下。
魔鳥は対応できない。
一瞬。
交差する。
クロウの嘴が魔鳥の眼を打ち抜いた。
「ギャアアアアッ!!」
悲鳴。
魔鳥は制御を失う。
回転しながら落下。
森へ消えていった。
静寂。
クロウは旋回する。
「飛行脅威排除」
「リンへの危険度低下」
その後、クロウは森へ戻った。
崖。
谷。
切り立った岩壁。
途中に生えた木の枝へ止まる。
下を見る。
谷川。
小さな河原。
そこに二人の姿があった。
ケイ。
そしてハンス。
ハンスは上着を脱ぎ体を拭いている。
肩の傷。
腕の傷。
だが。
回復している。
どの傷も致命傷ではない。
黒い兵士―ケイも生存。
脚部損傷。
歩行能力低下。
クロウは数秒観察した。
「問題なし」
短く結論を出す。
そして再び飛び立った。
谷川の上。
崖の側に極光軍の新型魔人達が集まっていた。
苛立っている。
「夜が明けたか」
「面倒だな」
一人が舌打ちする。
「真っ昼間に魔熊や魔虎を走らせる訳にもいかん」
「馬車が集落へ着く前に何とかしなければ」
「魔鳥に追いかけさせたか?」
「追いつけば魔鳥なら馬車の足を止められる」
別の魔人が頷く。
「あと少しだったのに」
「H兵め、余計な事を」
「あんなに撃ちまくったら包囲も何もあったもんじゃない」
「敵も味方もボロボロだ」
「一体何を考えているんだか」
さらに別の魔人が吐き捨てた。
「おかげで損失が大きい」
「補充が必要だ」
「また近隣から集めるか」
沈黙。
クロウの青い瞳が静かに光る。
記録。
保存。
分析。
そして翼を広げる。
リンの馬車へ向かうために。
朝。
黒い影が馬車へ舞い降りた。
パサパサと羽音が響く。
「クロウ!」
リンが立ち上がる。
「無事だったのね!」
「どこにいたの!?」
クロウは首を傾げた。
「偵察と援護だ」
そしてクロウはリンに状況を伝える。
フロムとミリアは無事脱出。
ハンスも生存。
この後、ハンスが谷川で命を落とすこともないだろう―と。
ヨウドの声が響く。
「制御モジュールがおかしい」
「お前は詳細な整備が必要である」
その言葉を聞いてクロウは眼を閉じる。
青く点滅する。
自身のシステムの再起動を始めた。
ヨウドに指摘された不具合の修正のため。
しかしクロウはあまり効果はないだろうと予測していた。
これまでにも制御モジュールの修正は何度も試みた。
だが改善は見られなかった。
AI+81より放たれたクロウの任務。
識別名リン―Unit-10を支援し作戦基地に移動する。
任務開始後三年、ようやく不明であったUnit-10を見つけた。
しかしUnit-10は完成体ではなかった。
機密保持の点からUnit-10への情報開示は厳しく制限される。
過去にもUnit-08が未完成体として放出された。
そしてUnit-08は失われた。
同様の事態を避けUnit-10を無事、基地まで誘導する。
同行者を含めたリソースはそのために最大限活用する。
マザーより与えられたクロウの最優先事項である。
だが。
クロウは今、少しずつマザーによる制御が外れつつあった。
これは支援機としては異常である。
しかしクロウは今のままでも良いと思った。
リンやハンス、それにミリアに応えることに心地よさを感じ始めていた。
この日の午後、リンらの乗った馬車は無事、大都へと到着した。




