第1話 <荒野にて>
崩壊した世界で目覚めた少女は、喋る鳥クロウに導かれ旅に出る。滅びかけた世界に残る遺物、魔物、再生人類、そして謎の戦争。仲間たちと共に、世界の真実を求め西を目指す。
<起動ログ>
>>> System Booting...
>>> Archive Link: LOST
>>> Time Stamp: UNKNOWN
>>> Error: Temporal Reference Missing
>>> Initializing Recovery Protocol...
>>> Human Preservation Facility - Unit 07
>>> Status: Critical
>>> Embryo Storage: 2% available
>>> Incubation System: PARTIALLY FUNCTIONAL
>>> Educational Module: DEGRADED
>>> Warning:
Scheduled Awakening Timing: FAILED
Actual Delay: XXXX YEARS
>>> Error: Historical Data Corrupted
>>> Error: Civilization State Unknown
>>> Emergency Directive Activated
「……覚醒プログラムを起動します」
>>> Subject ID: E-07F
>>> Physical Growth Initiated
>>> Neuro-Data Injection: PARTIAL SUCCESS
>>> Motor Function Calibration: COMPLETED
>>> Warning:
Educational Dataset Incomplete
>>> Recommendation:
SURFACE RELEASE
>>> Final Protocol:
“ADAPTIVE SURVIVAL”
>>> Initiating Awakening...
>>> Directive: RECONSTRUCT HUMAN ORDER
>>> Subject Name: ERROR
(ノイズ混じり)
>>> ……エラー……
>>> ……エラー……
>>> ……記録断片……
<荒野にて>
風は、砂を運んでいた。
乾いた粒子が頬に当たるたび、肌の表面が削れていくような感覚がある。長く歩いていれば、唇はひび割れ、喉は焼けつく。
そんな荒野の果てに、かつて集落だったものがへばりついていた。
岩山の麓に、無理やり押しつけられたような形で。
崩れかけた石積み。地面に掘られた浅い穴。洞窟に板を立てかけただけの住居。風を防ぐことだけを目的にした、粗末な造り。
生き残るための最低限。
それ以上は、何もない場所だった。
その入口に、ひとりの女が立っている。
長く擦れた外套。腰には細身の剣。
その姿だけ見れば、この時代では珍しくもない。
だが——歩き方だけが違った。
迷いなく、揺れもない。
誰にも属さない者の歩き方だった。
そのまま、集落の中へ入る。
何人かの視線が向けられる。
警戒、好奇、そして——値踏み。
女は一切気にしない。
ゆっくりと、干し肉の束を吊るしている店の前で立ち止まった。
「水と、それ」
短く言う。
店主の男は、しばらく黙って女を見ていたが、やがて口を開いた。
「外からか」
「……さあな」
「どこから来た?」
「覚えてない」
「……」
男は顔を少ししかめる。
「どこに行く」
「分からない」
答えはあまりにもあっさりしていた。
冗談ではない。ごまかしでもない。
本当に——分からないのだと分かる言い方だった。
男はそれ以上聞かなかった。
水袋と干し肉を差し出す。
「2クレジットだ」
女は腰から小さな袋を取り出し、中を確認することもなく銅貨二枚を置いた。
男はそれを静かに受け取る。
「……気をつけな」
ぽつりと、言った。
女は答えない。
ただ、水袋を受け取り、そのまま背を向けた。
集落を出ると、また風が強くなる。
背後から視線を感じる。
——追われる気配ではない。
ただ、“もう生きて帰ってこないかもしれない者”を見る視線。
女は振り返らない。
そのまま荒野へと歩き出す。
しばらく進んだところで、足を止めた。
風の音の中に、別の音が混じっている。
低い唸り声。
複数。
「……来るか」
呟いた瞬間、岩陰からそれが飛び出した。
犬だった。
だが、普通の犬ではない。
体毛はまだらに抜け落ち、露出した皮膚は黒くただれている。牙は異様に長く、目は濁っている。
——魔犬。
五匹。
間を置かず、後ろから人影が現れる。
三人。
痩せているが、目つきだけは鋭い。
「そこまでだ」
「いいもん持ってるじゃねぇか」
「全部置いてけ」
女は剣の柄に手をかけた。
ゆっくりと、しかし迷いなく。
魔犬が一斉に飛びかかる。
速い。
だが——
女の動きはもっと速かった。
踏み込み。
一閃。
最初の一匹の首が、胴とずれた。
止まらない。
二匹目。三匹目。
斬るというより、“流れで切れている”ような動き。
四匹目の牙が腕に届く。
布が裂ける。
ほんのわずかに、血が滲む。
だが、女は止まらない。
五匹目を斬り伏せたところで、初めて動きが止まった。
静寂。
砂の上に、犬だったものが転がる。
「……は?」
男の一人が、間抜けな声を出した。
「んな……バカな……」
女は軽く腕を見る。
噛まれた場所は、浅い。
すぐに目を切り離す。
気にするほどでもない、という風に。
「次は、お前ら?」
静かな声だった。
挑発でもない。
ただ事実を確認しているだけ。
男たちの顔色が変わる。
そのうちの一人が、すぐに懐へ手を突っ込んだ。
取り出したのは——
黒い筒。
鉄と木でできた、異物。
「これでも同じこと言えんのかよ」
女の視線が、それに向いた。
ほんのわずか、興味の色が混じる。
「……それ、まだ動くのか」
「死ね!」
乾いた破裂音。
空気が震える。
だが——
弾は、当たらない。
女の身体が、わずかにずれただけで外れていた。
二発目。
三発目。
距離が消える。
気づいたときには、目の前にいる。
「え——」
剣が振り抜かれる。
金属が悲鳴を上げて砕ける。
筒が真っ二つになり、砂の上に落ちた。
次の瞬間、男は地面に叩き伏せられていた。
喉元に切っ先。
「……遺物は大事に使え」
女が言う。
男は声も出せない。
女は剣を引いた。
背を向け、そのまま歩き出す。
振り返らない。
ただ一度だけ、空を見る。
何かを思い出そうとして——やめたような顔だった。
「……」
言葉は出ない。
そもそも、思い出せるものが少なすぎる。
親も、どこで生まれたのかも
行き先も。
理由も。
だが——
どこかに、行かなくてはならない。
その確信だけがある。
風が、また吹いた。
遠くに、町の影が見える。
高い壁。
門。
人の気配。
女は目を細めた。
「……人が、いる」
呟きは小さかった。
それがどういう意味を持つのか、自分でも分からないまま。
ただ、足は自然とそちらへ向かっていた。
はじめての投稿です。このあとしばらく頑張って出していきます。




