↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鋼鉄の戦火 〜第502特務戦車大隊第4中隊従軍記〜  作者: 夢追い人
第3章 復讐者のオルゴール
41/191

死神の檻 3

 敵が先にゴール地点についてしまうが故に、なんとかしてその敵を壊滅させなければならない。これを達成するべくヴォルフが提案した作戦は、別に難しいものでもなんでもない、ごくありふれた普通の作戦でしかない。


 ティーガー2両を森の中に隠して敵をやり過ごし、地形的に有利な場所にて残る部隊が抑え込んで、そこを背後から強襲する。要は挟み撃ちだ。


 もちろん、いくら背後からの奇襲だと言ってもその効果に限度はあるし、しっかり敵を迎撃する準備も欲しい。だから残り2両のティーガーは遅滞戦闘を実施し、敵戦車を減らしつつ時間を稼いだのだ。


 そして今まさに、ずっと廃村の村で雌伏の時を耐えた411号車と412号車が牙を剥いたのだ。迫撃砲小隊がT-34に護衛されていたのは流石に想定外だったが、そんなものはこの状況では些事でしかない。とっくに鉄屑と化した2両を他所に、迫撃砲小隊と思われる敵を蹂躙するだけだ。


「フェヒター2、援護頼む!! 行くぞ、迫撃砲陣地に吶喊!!」


 護衛役と思われる戦車2両を失い、碌な対戦車火器もない迫撃砲小隊など、普通の小銃小隊以上に戦車の敵ではない。どの道、そこは敵戦車部隊を叩くための通り道だったのもあり、停車した412号車が榴弾や機銃をばら撒いて次々に敵兵と迫撃砲を制圧していく中、411号車が吶喊する。


 敵の行動は様々だ。悲鳴をあげて何もかも放りだして逃げる者。効きもしない小銃を我武者羅に撃ってくる者。飛んでくる弾丸から身を守ろうと伏せる者。何を思ったか、この期に及んで迫撃砲を分解して運ぼうとしている者。


 だが、それらに等しく機銃掃射が浴びせられ、榴弾が炸裂し、抵抗しようがしまいが一方的なまでに制圧していく。


「前方に迫撃砲だ、ぶっ潰せ!!」


「了解、小隊長!! おらァッ!!」


 逃げ惑う敵兵を何人か轢き殺しつつ、411号車は迫撃砲に体当たりした。いくつかの弾薬箱やら測量機材などが滅茶苦茶になり、迫撃砲自体もその巻き添えでガラクタとなる。


 何人か手榴弾やら小銃やらで反撃してくるが、そんなものでは戦車は止まらない。411号車のばら撒く機銃が、無謀な反撃を試みた敵兵を容赦なく薙ぎ払う。


 横合いから戦車の上に飛び乗ろうとした奴もいた。或いは、死角からエンジン上部に手榴弾を投げ上げようとする奴も。


 だが、前者は案の定登るのに失敗して履帯に巻き込まれて死ぬか、後者の連中と纏めて機銃掃射に打ち倒された。


 それらの被害は、412号車によるものも結構多い。というのも、機銃では戦車の装甲を絶対抜けないことを知っている412号車にとっては楽なものなのだ。411号車に当たるの覚悟でばら撒くだけでも、411号車へと接近戦を試みる敵は雑草でも刈るかのように制圧できるし、離れているなら榴弾を撃ち込むだけなのだから。



「く、くそ!! おい、手伝え!!」


 迫撃砲小隊長が叫び、3人の兵士が走ってくる。


「お前、砲身を持て!! お前たちは弾薬箱を!! 急げ!!」


 自らは迫撃砲の台座を手に、小隊長は走り出す。目指すは一番手近な稜線、きつめの傾斜があるところだ。ただのこんもりとした盛り上がりで、観測隊員の―――一番目立つ場所だったが故に、真っ先にチーグルの榴弾に吹っ飛ばされて全員死んだが―――配置に使っていた場所だ。


 小隊長はその急斜面に乱暴に台座を置き、踏み固める。本来、弾着を正確にするために真っ平らな平地に置くのが重要な迫撃砲の取り扱いからすれば、最早暴挙とも言えるその行為。


 だが、付き従った隊員たちはすぐにその意図を悟る。迫撃砲は、普通に置いてはどんなに頑張っても水平射撃できない。だってそんな使い方は想定外だからだ。


 でも、砲身が横にも向くようにすることはできる。このように台座を斜面に置けば。


「榴弾を出せ!! 信管を調整、着発信管!!」


 砲身を持った隊員が台座の穴に砲身を差し込み、元から付いている迫撃砲の脚を地面に食い込ませ、小隊長と二人で支えている所に榴弾を箱から取り出した隊員が駆け寄る。


 着発信管、即ち弾着の衝撃ですぐに炸裂するように先端のダイヤルで調整された榴弾を砲身にあてがう。


「変に傾けてるから自重だけじゃ雷管が作動しないかもしれない。勢いよく入れろ!!」


 砲身の先には暴れ狂う鋼鉄の怪物の右側の側面装甲。照準器なんてものはない。外したら人力で修正だ。滅茶苦茶なやり方だが、今この場にある火器で一番強いのはこの迫撃砲なのだ。これでどうにかできなければ、いよいよ持ってどうしようもない。


「今だ撃て!!」


 小隊長に言われた通り、弾薬手により勢いを付けて、砲身内に弾薬が放り込まれた。雷管が作動して、装薬が炸裂。砲弾が撃ち出され、小隊長と砲身を支える隊員の手と身体に衝撃と熱が伝わり、革手に包まれた彼らの掌が流石に痺れる。


 撃ち出された弾は―――なんと初弾で命中。チーグルの側面装甲に当たった榴弾が炸裂する。


「足を止めたぞ!! 次だ!! ……よし、発射!!」


 いきなり何が爆発したのかと驚いたのだろうか。それとも何かしら被害が出たのだろうか。チーグルが足を止め、砲塔が敵を求めて旋回する。


 その間に2発発射。またしても命中。砲塔が右旋回を始める。気づかれたのだろうか?


「次、発射!!」


 砲身の向きを少し変えて発射。命中。砲塔旋回は止まらない。流石に焦燥が湧き上がってくる。


「発射!!」


 命中。その直後に足を止めている所を勝機とばかりに、手榴弾片手に飛び乗ろうとした味方がいた―――が、後方にいる支援役のチーグルの機銃により、またしても打ち倒される。


「くっ、発射だ!!」


 命中。チーグルのキューポラから手榴弾が落とされた。近寄ろうとした味方が容赦なく足を吹き飛ばされ、悲鳴を上げてのたうち回る。


「発射!!」


 命中。そしてそれが最後だった。砲身は完全に小隊長達を捉え、ぴたりと旋回が止まり、砲身が最後の微調整を始めた。


「たっ、退避!! 退―――」


 発射される榴弾。機材をほっぽり出して走り始めた小隊長たちだったが、爆発の衝撃が勇戦敢闘した勇士たちを問答無用で吹き飛ばす。傍らにあった弾薬箱の爆発が、より彼らに与える被害を拡大させた。


 一人は実質直撃により、ズタズタになって即死した。


 残る二人は奇跡的に生き残ったが、一人は顔面が焼け爛れ、目が見えないと悲鳴をあげてふらふらしている間に機銃で蜂の巣になった。もう一人は失われた自分の左腕を泣きながら探し回り、そしてこちらもやがて蜂の巣になった。


 そして小隊長は―――


「はあ……はあ……」


 うつ伏せにひっくり返った彼は、左腕以外の四肢がなくなっていた。


「ば……化け物……め……」


 完全に意識が闇に落ちる直前、無念そうに呟いた彼が見たもの。


 それは生身の人間なら何回でも死んでいたであろう迫撃砲の直撃を受けておきながら、まるで何事も無かったかのように彼の部下を再び蹂躙し始めたチーグルの姿だった。



 完全に戦意喪失し、かろうじて生き延びた敵の迫撃砲の兵士たちが逃げていく。


「フェヒター2、予定通り右回りで詰めてくれ。こちらも予定通り、左回りで詰めに行く」


<<フェヒター2了解>>


 それを他所に411号車と412号車は分かれて前進を再開。迫撃砲陣地跡から稜線伝いに移動する彼らの視線の先では、川を挟んだ稜線に張り付いて村の中の味方と撃ち合う敵戦車隊や、なんとか突入経路を作ろうと奮闘する敵歩兵の姿があった。


<<イェーガー1よりフェヒター1!! KVの一部が勘づいているぞ!! 方向変換して前進しているの、確認できるか!?>>


 中隊長からだ。素早い情報提供は流石といったところか。


 割と派手にひと暴れしただけあり、敵も迫撃砲陣地で何かしらの異変があったことには気付いているらしい。3両のKV-1が慌てて向きを変えて、1列の隊列を組んで迫撃砲陣地の方向へと動き出していた。


「フェヒター1、認識している。フェヒター2は?」


 だが、ヴォルフはあくまでも冷静だ。そのくらいは想定できている。


<<フェヒター2確認しています。KV-1が3両>>


 クラリッサの落ち着いた、綺麗で涼やかな声。雪で視界不良がやや心配だったが、杞憂に終わったようだ。


「フェヒター1了解。先に隊列から叩くぞ」


<<フェヒター2了解>>


 しかし残念ながら、本格的に振り始めた雪に紛れて稜線伝いに移動した411号車と412号車は、とっくの昔にそのKVたちの移動径路右側面と左側面をそれぞれ挟む形に機動を終えていた。


 むしろ、なまじ急いで一直線に向かおうとしたがばかりにお互いの動きが悪く噛み合い、KV-1の隊列は2両のティーガーから見れば多少レベルとはいえ斜め後方を晒しているような形になってしまった。


 ハッチから顔を出して双眼鏡を覗くヴォルフはその姿を捕捉している。


「フェヒター2、先に撃て。先頭を撃って足を止めろ」


「小隊長、どれ狙います?」


 バッヘムが問う。射距離は約800m。彼の腕なら外すほうが難しい。


「王道を行く最後尾で」


「了解、装填的に2両目は412譲りですな?」


 不服そうというよりは、ややからかう様な口調だ。中隊随一の砲手に活躍させてくれないんですか、という彼なりの冗談である。


「心配せずとも、敵はまだいますよ。バッヘム上級軍曹」


「そうですな。なら、この場の栄誉はあの若造砲手に譲りましょう」


 席の位置からして仕方ないが、こちらに背を向け照準器を覗いているので見えないものの、きっと不敵に笑っているのだろうことが容易に察せられる声音。そのベテランの風格に応えるべく、ヴォルフも頷いてみせた。


「期待してますよ、我が頼れる砲手」


<<フェヒター2、目標捕捉>>


 クラリッサからだ。もうこっちはいつでも撃てる。躊躇う理由はない。


「フェヒター1了解。こっちは最後尾をやる!! 2両目は先に仕留めた方が射撃だ。フェヒター2、撃て!!」


 降り注ぐ雪の向こう側で、発砲炎の輝きが走り、砲声が木霊した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。