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ゾンビになんてなってたまるか!  作者: 夜凪
エピソード1〜そして始まる

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15/15

「やれやれ。今回ってまさかただ働きとか、ないよなぁ」

体力的にも精神的にもぐったりとした気分で座り込む。

 

隣のビルに首尾よく入り込んだと思ったら、再び始まった鬼ごっこにおじさんはもう疲れたよ。

いくら若い女性でも、顔色悪いスプラッタな状態で追いかけられてもうれしくもなんともないね。

あ、おっさんは言うまでもない。


オフィスビルだし、時間的にも大丈夫かと判断した自分が悪いんだけどな。

日本人の勤勉さと善良さを甘く見てたよ。

いくら同僚が襲われてるからって戦う術も持たないのに、未知の化け物に立ち向かっていくなんてどうかしてるとしか思わない俺が冷たいのかね。


でも、それで返り討ちに合ってたらしょうがないだろう?

やられた挙句に今度は自分が敵側に回って仲間に牙をむくことになるんだし、本末転倒だろう?


辺りを見渡せば、結構な数の死体が転がっている。

スーツに身を包んだ老若男女は、このビルで働いていたサラリーマンたちだろう。


それぞれに頭部損壊してるのは、まあ、俺の仕業だな。

そうしなけりゃゾンビ化してるやつらの動きを止める事ができないからしょうがない。

最後の情けで顔面だけは極力傷つけないように配慮はしたけど、それを喜んでくれる肉親が残っていたらいいなぁ。


「里中のおやじ、いったい何をおっぱじめたんだよ?」

自分を日本に呼び寄せた元凶を思い出して、思わず恨みがましい言葉がもれる。

厄介な案件なんて言ってたけど、メインは数人により実践的な戦闘訓練を施してほしいって話だったんだよ。


「こんな化け物とやりあうなんて聞いてないぞ?」

もしくは、()()()()()()か、だな。

たかが一般人との電話回線での会話でさえ気を遣うとか、嫌な予感しかしないな・・・。

俺が知るだけで、トレインジャックから始まって駅ビルの中を化け物だらけにするような奴ら相手って事だから、まあ、お察しだわな。


「さ~て、つらつらと考え込んでいる間にちょっとは回復したことだし、もうひと踏ん張りしますかね」

ため息とともに立ち上がる。

こっちのビルに移ってからも生き残りを数人ピックアップしてるから、そこの対処もしないといけないし。


「この町だけの現象なら、そろそろ救助の手が差し伸べられてもおかしくないとは思うんだけど、全国で同じような事が起こってる場合は、どうしたもんかねぇ」

なのに相変わらず電波は通じないし。

そう!駅ビルから抜け出してもスマホどころか普通の電話すら不通になってたんだわ。

どうしろってんだよ。


ブブブブブブ!

「うわ!ビビった」

ため息をついた瞬間、胸の内ポケットに突っ込んでいたスマホが震えた。

反射的に取り出したスマホの画面には見知らぬ番号の表示。ちなみにアンテナは立ってない。


迷ったのは一瞬。

「だれだ?」

「やっと見つけた。動きが早すぎて追いかけるのが大変だったよ。電話とってくれてよかった~」

短い誰何(すいか)に返ってきたのは、ずいぶんと可愛らしい声だった。


「いや、まじでだれ?」

「あ、ごめんなさい。幸村雪という者です。里中さんにはお世話になってます」

死体が転がる殺伐とした光景に響き渡るにはあまりにものん気な言葉に、思わずこっちまで肩の力が抜ける。


「オヤジの差し金かよ」

「今、駅ビルの方で救助作業に入ってます。堤さんの助けた人たちも保護したので、安心してください」

「おう。ついでにおっちゃんも保護してくれ」

中性的な柔らかな声に乗っかろうとしたが、やっぱり世の中そんなに甘くはないわけで。


「それが、人を向かわせようとしたのですが、要救助者が意外に多く生き残ってまして、そちらまで手が回らないんです。申し訳ないですが、堤さんには自力で合流していただけると助かります」

「マジ?」

あっさりと自力でどうにかするようにとの指令が下った。


「ついでにそちらで保護している方たちも、連れてきていただけると助かります。そちらのビルの屋上まででいいので」

「いや、まあ。ここまでの道はあらかた掃除してきたから不可能じゃないけどさぁ」

安全確保した部屋に閉じこもっているように指示を出して置いてきた面々を思い出したら、ため息が出る。


「怯え切ってたお嬢さんとかもいたから、素直に移動してくれるかなぁ~?」

「そこはどうにかなだめすかすなり、何なりで。そろそろ国も動きそうなので、最悪置いてきても大丈夫とは思いますが、その場合は、いつ救助が来るか不明な点の説明と籠城している部屋から出ないように徹底させてください。」

首を傾げると、それが見えているかのように返事がくる。

そういえばさっき、()()()()って言ってたな。

どこからか見てるのか、もしかして。


「あ、左側の監視カメラです」

キョロキョロと辺りを見渡すと、少し笑いを含んだような声がネタ晴らしをしてきた。

商業ビルっぽいし、監視カメラもそりゃあるよな。


「ついでに言うと右側突き当りの非常階段からゾンビが数体向かってきてますので、気を付けてください。一階に生存者は見当たらないので、そちらの防火扉は締めて大丈夫です」

「情報どうも」

しかも、ビル丸ごと把握済みか。

かわいい声して頼もしい事で。


「じゃ、そっちに向かうわ。なんかあれば連絡よろしく」

「はい。お会いできるのを楽しみにしてます」

短い挨拶と共にあっさりと通話が切れた。


普通のスマホだし、イヤホンなんてしゃれたもんもってないから通話しながら移動ともいかないからな。

しょうがない。

とはいえ、こちらを見守っているだろうから、何かあれば連絡してくるはずだ。

やみくもに走り回る必要が無くなったし、情報源をゲットできたのはありがたい。


「じゃ、戻るか」

立ち上がると、警告通りに元来たルートへ踵を返す。

指令は生存者を回収しながら、屋上へ向かう事。


「終わりが見えてると楽でいいな」

おれは呟きと共に、とりあえず防火扉を閉めた。

隔離完了、と。

お読みくださり、ありがとうございました。


おじさんとようやくつながりました(笑)

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