ニューイヤーフェスティバル 2
上期末試験が終わると、学院も長い休みに入る。
ロアの帰郷を見送り、治療院にソルを迎えると、ニューイヤーフェスティバルの準備も佳境となっていた。
屋敷の方は使用人たちが、慌ただしく準備に追われているが、私はやることがないこともあり、治療院の方に来ている。
こちらはガラハウの指図で、ラウラとリーザ、それにアナベルが忙しく動き回っていた。
私はガラハウが家事をしている間は、治療師としての仕事をするわけだが、患者もなく暇を持て余している。
「フリーデリケ様。今日は患者さんも来ませんね」
ラトーラがハーブティーを片手に、治療室へやってきた。
調薬の方も暇なのだろう。
「そう言えば、美容の方はどうなんだ?」
「紹介いただいたディアナも好評で、お客さんも途切れませんね」
ディアナ。
コアパーの二人に絡まれていたと勘違いし、手を出してしまった件で、名も名乗らずに去っていった娘のことだ。
ラトーラ指導のもと、貴族や商会の奥様方向けの美容セラピストとして、治療院で腕を振るっている。
「あの娘も頑張ってるようで、良かった」
「お金には、うるさいですけどね」
「手に余るようなら言ってくれ」
「その時は頼りにしてますわ」
ラトーラとの穏やかな時間を過ごしていると、患者さんがやってきた。
ニューイヤーフェスティバルで、治療院が休みになる前にと、年内最後の治療を受けに来たようだ。
「忙しさは、いつも突然ですわね」
ラトーラが冗談半分、ため息交じりに言った。
「そんなもんだ。よし、診ていこう」
ニューイヤーフェスティバル中は、宿屋は別として、大抵の店は休みになってしまう。
この治療院も例外ではなかった。
そういう事情もあって、自分の用事を終えた人から、治療院へ足を運んで来ているのだろう。
「婆さん。ラトーラの薬はどうだい?」
「飲み始めてから、体の調子も良くてね。寝込む日も少なくなって、助かってるよ……そうだ、みんなで食べなよ」
婆さんは、斜向かいの雑貨屋の古女将だ。
今は息子夫婦に店を任せて、悠々自適とはいかないものの、それなりに暮らしている。
そんな婆さんが、手荷物から焼き菓子の詰め合わせを出して、私の手に乗せた。
「ニューイヤーフェスティバルだからね。これでも食べて、ゆっくり楽しみなさいな」
そう言えば、カニアにいた頃は屋敷の料理人の作った菓子を食べて過ごしていたな。
「最近はバカみたいに騒ぐばっかりだけど、昔は美味しいお菓子とお茶で、新しい一年の話しをしたもんなんだよ」
「カニアにいた頃は、そんな過ごし方だったな……てっきり、田舎だからと思ってた」
「なんだい。先生もたまに面白いこと言うね」
「婆さんには敵わないな」
「昔はアーラス様の好きなお菓子をお供えして、日が昇るのを待ったもんさ」
「そうなのか?!」
アーラス様はお菓子が好きなのか。
しかし、そんな文献はついぞ、見たことはない。
「私らが子供の頃には、教会の神父さんが、そんな話をしてくれてたもんだよ」
「良いことを聞いたな。私もやってみよう……ほい。終わり。悪いとこはなかったよ、また、新しい年に」
「はいはい、ありがとさんね。先生も気をつけるんだよ」
婆さんはそう言うと、治療室を出てラトーラの薬局の方へと歩いていった。
「次は……ビルギットさんだね」
診察と治療は続く。
◆
「結城結奏!」
勢いでドアを開ける。
「な、何?ナニ。どうしたのよリケ!」
着替え中のようなことはなく、机に向かって文献を読んでいた。
「新しい年の日の出は、共に迎えようではないか!」
「そ、そうね」
「唐突であったな」
婆さんの話しを聞いて、些か興奮していたようだ。
「今日の診察でな、雑貨屋の古女将から面白い話しを聞いたのだ」
婆さんから聞いた、古くからのニューイヤーフェスティバルの風習を、結城結奏に話して聞かせた。
「なんだか、私のいた世界の年越しみたい」
「結城結奏のいた世界?」
上手くとぼけられただろうか。
「紅白見ながら、年越しそばを食べて……除夜の鐘を聞きながら、新年を迎えるの」
「紅白?そば……まぁ、なんだか楽しそうだな」
危うく紅白に反応してしまいそうだった。
「……。リケ、本当は……。」
「なんだ?」
「ううん。いいの……。年越しが楽しみだわ」
「新しい年の話しができたら良いな」
「そうね」
「忘れていた。魔女に会いに行かねば」
「魔女?」
「あぁ。薬屋を営んでいる」
「ほうきに乗って、飛んだりするのかしら?」
「それは分からんが、ポータルの魔法について、何か知っているかもしれない」
「そうなのっ!?」
「本当なら、その紅白とやらまでに返してやりたいが……。」
「新しい年に話しましょ」
「そうだな。まずは準備だな」
「お菓子か……。」
結城結奏が何かを考えているようだ。




