ニューイヤーフェスティバル 1
アルツナイ戦からの残党狩りと続き、そして、今の私を苦しめているのは……。
「ひぃ〜ん。助けて二人ともっ!」
そう、上期末試験のソル対応だ。
「お前。勉強する時間あっただろっ!」
パーペン家のスベロア。
口汚いが、文武両道を行く優等生だ。
「もしかして、結城結奏との魔法練習ばかりやってたのか?」
「だってボクの魔法じゃ、実技通らないよぉ」
「あのなぁ……。騎士課程の魔法実技は、末試験でも大したことないぞ」
ロアがため息とともに、試験の説明をする。
「それに、試験は自分の属性だぞ。無属性は今のところ、存在しないことになってるからな」
私がロアの言葉を、更に補足してみた。
「あぁっ!?」
ヴェッティン家の三男。ソルは頭を抱える。
「リケ。こいつ、どうしたんだ?」
執事服を着たエギーユが、頭を抱えるソルの出しっぱなしの教本をパラパラと捲る。
「おい。エギーユ」
「あっ!やべっ……お、お嬢様」
そう、晴れてアスカニア家の従士となったエギーユだ。
行儀見習いも兼ねて、学院でも付かせている。
「分かれば良い。それより、その本の内容はどうだ?」
アゴに手を当て、少し首を捻るエギーユ。
「これって王国の歴史ってやつだよな。ずいぶん前にハンスさんから、詰め込まれたやつ」
懐かしい名前が出た。
カニアの別邸を任されている執事のハンス。
エギーユ、ガラハウ、ラトーラの三人は、彼の手で算術と読み書き、それに王国史を詰め込まれている。
ラトーラは元々出来ていたので確認程度だったと、ハンスも太鼓判を押していた。
「えっ!?エギーユ。分かるのかい?」
「ソル。やべぇな」
ソルの驚きをよそに、エギーユが同情のような視線を向ける。
「そういうわけだ。ソルよ」
机に突っ伏したソルの肩に手を置く。
「それに、年越しの祭りも待ってるじゃないか」
『星屑メモリーズ』の世界には、三十路のリーマンとして生きた世界で言うところのクリスマスは無い。
その代わりではないと思うが、ニューイヤーフェスティバルと呼ばれる新年を祝う祭りがあり、年が変わったその時から三日三晩祭りが続くという、なかなかのはしゃぎっぷりだ。
私も王都での年越しは初めてなので、少しワクワクしている自分がいる。
「俺は地元に帰って、ゆっくりするぜ」
入学から巻き込んでしまい、色々と頼ったのだ。
休みくらいはゆっくりとして欲しい。
「ボクは居残り組だよ」
三男ともなると、旅費すら出してもらえないのか。
「それなら、治療院にくるか?」
「えっ!?いいの?」
「その代わり、家事は分担だぞ」
エギーユが久々に兄貴風を吹かせているな。
元々、カニアの街ではガキ共のまとめ役だったから、こういうのを放っておけないのだろう。
「さて、そうなる未来にむけて、勉強を始めようじゃないか」
二人の友情も尊いが、私も暇ではないのでね。
◆
「お嬢様。そろそろドレスのご準備をしませんと」
ハンネが風呂上がりの私の髪に、風を当てながら言った。
私専属のメイドで、子供のときから面倒を見てもらっている。
最近は白狼としての活動で、余り話す時間も取れていなかったが、アルツナイの件が終わったこともあり、ゆっくりとハンネの淹れるお茶でも楽しみたいものだ。
「ドレス?」
「はい。ニューイヤーフェスティバル中には、貴族主催のパーティーもございます」
「我が家も主催するのか?」
「いえ。公爵様は王家主催のものに、御参列なさいます」
「私もそっちか……結城結奏のドレスは?」
「既に」
抜け目のないハンナの答え。
どんなデザインのものであるのか、楽しみでもある。
「見知った顔があるのはいいな」
カニアの街に居た頃は、明けた日の昼間に治療院へと出向き、エギーユたちと夕方まで時間を共にしていたこともあり、初めての王都での年越しもそうしたかった。
だが、公爵家令嬢の身では、そうもいかないものなのだよ。
「フリーデリケ様。髪も乾きましてございます」
「さて、結城結奏のドレスでも、見せてもらいに行くかな」
「その間に、お茶を準備しておきましょう」
「嬉しいな。では、結城結奏も誘ってこよう」
◆
”コンコンコンっ”
「どうぞ」
部屋の中から結城結奏の声だ。
「遅くに済まないな」
非礼を断って、部屋へと入る。
「そこまで遅くはないでしょ?遠慮しないでよ」
聖女として異界より召喚された少女。
今は帰還するための魔法探しと、馴染めていない寮生活から脱却も兼ねて、アスカニア邸で暮らすようになっていた。
いや、私が強引に連れてきたのだったな。
「何。結城結奏のドレスを見せてもらおうと思ってな」
「あっ!ハンネさんから聞いたの?」
ドレス。
それも自分用に誂えられた物だ。女性であれば、そのことに高揚するものは多いことだろう。
結城結奏も、その一人であったようだな。
「お前なら私と違って、どんなデザインのドレスでも似合いそうだ」
筋骨隆々気味である私の身体と違い、諸兄のイメージする線は細いが女性らしいラインを持つ彼女だ。
ロングにショート。スカートがタイトであろうがフレアであったとしても似合うことだろう。
「そういう。イケメンなこと言うよね、リケはさ」
「イケメン……そうなのか?」
この時の私は失念していた。『イケメン』と言う言葉が、『星メモ』の世界にはなかったことを。
私の言葉に、結城結奏が怪訝な顔をする。
「どうした?ハンネがお茶を用意している。寝る前にどうだ?」
お茶の誘いをすると、表情が戻り頷いてみせた。
場所を変え、私の寝室のサイドテーブル。
ハンネの淹れてくれたお茶から、心地よい良い香りが漂ってくる。
「如何でしたか?」
「結城結奏のドレスは、当日の楽しみとするよ」
「そんな。楽しみだなんて……。」
照れているのか、手元のティーカップに視線を落とす結城結奏。
「お嬢様は、どのようなデザインになさいますか?」
ハンネは部屋のクローゼットを開け、中に掛かっているドレスをいくつか手に取っていた。
「この身体だ。前回と同じスタイルのものが良いだろうな」
「それですと背中もあいておりますし、お寒くありませんか?」
入学後のパーティで着た赤のドレス。
背中がざっくりと大きく開き、身体の線にフィットするようなシルエット。
ハリウッド女優がレッドカーペットを歩く、そのようなシーンが連想されるデザインだ。
「すごく大人っぽいデザインね」
結城結奏のドレスを見た感想。
「肩幅も腕の太さもあるからな……しかし、そうか。確かに寒いだろうな」
「いっそ、スーツとか?」
「結奏様っ!そのような……そのような……。」
ハンネが過剰に反応して、興奮しているのか、頬が紅潮している。
「白狼の衣装みたいな感じだと、すごくカッコイイわよね!」
確かに、カッコイイかは置いておいて、スーツならば着慣れてもいるし寒くもないか。
しかし、私を放って、私の衣装のことで二人が盛り上がり始めた。
「今夜のお茶も美味いな」
盛り上がる二人。
私のドレスはどうなるとこやら。




