悪いって? 2
「力だな」
何から取り掛かろうと思っていたが、そこはやはり力を持つに限るだろう。
「力でございますか?」
「幸いと言わざるを得ないが、家名という上げ底はありがたいな。だが、私自身の力だ」
公爵家令嬢という立場は、ありがたい。
だが、それを活かすためにも、自分自身の能力を高める必要もある。
八歳の小さい体だ。ひょいっと小脇に抱えられれば、簡単に誘拐できてしまう。
「体の使い方や、勉強が今のところできることでしょうか?」
「なんとか、魔法の才も開眼させられないものだろうか?」
「そればかりは」
「どこかの書物にかいてあるかもしれん。地道に探すさ」
翌日。お父様に願い出てみると、体の使い方を教えてくれる先生を付けてもらえることになった。
ゆくゆくは、公爵家騎士団に剣や槍を習うことにもなるだろう。
そして、魔法。
コレを伸ばせることが、自力を伸ばす最短ルートになるだろう。
◆
お父様にお頼みした、体の使い方を教えてくれる先生との初対面の日。
執事のハンスに連れられて来たのは、短い頭髪を後に撫でつけ、薄ら笑いを顔に貼り付けている男だった。
服装は動きやすそうで、何かに引っ掛かったりしないよう、体にある程度沿うような感じだ。
「へへっ。こちらが、そのお嬢様かい?」
「フリーデリケ・アスカニアだ。よろしくお願いする」
出自は平民らしいが、教えを請う立場でそれを気にしていてもしょうがない。
私は先生となるその男に礼をする。
「おっと!こんなオレっちに、そこまでしなくてもいいんだぜ」
礼を受けたことに慌て出す男。
「あなたが何者であろうかは関係ない。私を教える立場なのだから、相応に」
私の答えに、すっと落ち着きを取り戻す。
さっきの慌てたのも演技なのかな?
「ふーん……。オレはトーマスってんだ。街で軽業師ってのをしてたら誘われてな。で、なんて呼んだらいい?リケでいいか?」
「リケ!良いな。愛称ってやつだな先生」
周りが使用人ばかりだったので、生まれて初めてつけられた愛称に、嬉しくて取り乱しそうだ。
「おっと、先生はやめてくれよ。オレっちはそのまま呼んでくれって」
「と、トーマス」
「それでいい。オレっちとリケは、しばらくの間は相棒だ。だから、オレの技を教えるし、守ってもやる」
「相棒」
なんとも甘美に聞こえる言葉だろうか、三十路の時ですら相棒と呼べるような存在はいなかったし、できる前にこちらへと来てしまったのだから、当たり前ではあるな。
◆
トーマスに体の動かし方を習い始めて、三ヶ月が経とうとしていた。
教えてもらったことは、走る、跳ぶ、止まる。
この三つだけだったが、三十路時代でも運動経験のない私には、難易度も易く、楽しく続けられていた。
成長も日々感じられるので、自主的にも練習しているほどだ。
社交デビューに向けたダンスのレッスンも、トーマスの教えを繰り返していくうちに、ステップと言わず、ターンと言わず、格段に上達していると実感できた。
まぁ、まだまだなんですけどね。
あと、ヴィルヘイム兄様の冷やかしと野次も受けるが、それよりも成長が楽しく気にもならない。
「三ヶ月。本当に体を動かす基礎をやり込んだわけだけど……思ったよりできてんだよなぁ」
「どういうことだ。トーマス」
口調には慣れてもらった。
しかし、トーマスの予想を越えた成長と言うのは、どういうことだろうか。
「オレっち、鑑定持ちじゃないから分からんのたけど、もしかしたら、リケはなんか特別なギフトを持ってるかもな」
ギフト。所謂、加護と呼ばれるものだ。
そう言えば、白い部屋の男に何か言われていたような気がするが、思い出せない。
「そうだと、ありがたいな」
「今日からは屋敷の裏の特設会場でやるよ」
「分かった」
トーマスに続いて屋敷の裏側にある菜園の一角に、三十路の人生で一度だけ行ったことのある、フィールドアスレチック。しかも、それの安全帯無し版が出来上がっていた。
「トーマス。こんなもんでどうだ?」
親方が自信満々で腕組みをしていた。
「最高だぜ!親方ぁ」
今日からのトレーニングはこちらを使うというわけだ。
「先ずはオレっちが回るから、見ててくれ」
言うが早いか、トーマスはアスレチックへと駆け出す。
兎に角、その動きは最小限で右に左に翻り、アスレチックを一つ、また、一つと瞬く間にクリアしていった。
「なんじゃ、あやつは」
「軽業師って聞いてるが?」
「ありゃ、伝説のアサシンって言われても、信じてしまうな」
「アサシン……か」
私の今後に必要となる人材だ。
理屈が通じず、話し合いが進まない場合の最終手段ではあるが。
「ほれ。リケもやってみろ」
いつの間にか戻って来ていたトーマスが、私にアスレチックをやるよう促してきた。
どれだけ自分が動けるようになっているのか試したくて、トーマスがやっているのを見ていて、少し楽しみだったのだ。
しかし、結果は散々。
全種クリアまでに、小一時間もかかってしまっていた。
「初めてにしちゃ、上出来よ。オレっち、しばらく来れないから、コレをやっててくれよな」
「なんだ?冒険か?」
「そんなもんだね。昔の仲間に頼まれちまってね」
「みやげ話を楽しみにしとくよ」
「おうっ!」
◆
それが、トーマスとの最期の別れだった。
とはならず、半年後には元気に戻ってきて、私のアスレチックを見て、投擲とナイフコンバット、組打ちなんてのも教えるようになる。
そのころから三十路の私の記憶は、段々と、自分が忍者になっているような気がしてきていた。
アニメやマンガで見ていた、体術メインの軽戦士とでもいうのであろうか?
ならば、それに合わせた道具も、親方と作ろう。
トーマスの来ない時期があったので、勉強の方の教師もつけてもらっており、歴史に算術、法務といった官僚として必要な知識を教えてもらっていた。
算術は三十路の私の記憶があり、微分や積分までもできるから本当は必要なかったのだが、できる先生なので教えてもらっている。
後は魔法だ。
こればかりは、未だに発現の方法が掴めない。
ベッドに横たわり、寝入るまでの時間で、どうしたものかと考えていたところで、意識が白い世界へと旅立つ。
◆
高級そうな飾り彫りの入った、背もたれも座面にもビロードの布が張られた椅子。
久しぶりの白い空間だったが、私の向いにこの部屋の主とでもいうのか、見覚えのある男が座っていた。
「久しぶりだね」
「呼び出しは、事前に先触れがほしいな」
いつも突然の呼出しだ。皮肉の一つも言いたくなる。
突然なのは私の方なのか?
「辛辣!」
「今回、死んだ訳では無いから、何かあるのだろう?」
「魔法をお求めかい?」
私の求める力の一つだ。
「そうだ」
「君は発現しているんだけどなぁ」
「いや……。そうか!発現させるのは」
「属性はスキルポイントガチャでランダム。魔法はポイント取得だってこと、思い出した?」
「あぁ……そうだった。しかも、レベルアップ毎のボーナスポイントも忘れてた」
「もう、大丈夫かい?」
「アドバイスをありがとう」
意識が寝室へと戻ってきた。
目を開くと見慣れた天蓋が見える。
「ステータス」
そう呟くと目の前には、緑の枠に囲まれた幾つもの文字と数値が表示されていた。
そう、良くあるステータスウィンドウだ。
星メモは乙女ゲームには珍しく、自身のステータスや魔法属性が固定ではないので、成長によっては攻略キャラの難易度が変わると言うゲームだった。
だから、初期のキャラメイクは目指す攻略キャラによっては、リセマラするはめになることもしばしば。
基本ステータスは……。
脅威の三桁到達。レベルは四十だってのに、これ、人間辞めてる数値じゃん。
スキルも色々とあるが、既に上位スキルに変化しているものもあった。
恐らく、白い部屋の男がやっていてくれたのだろう。
そして、ボーナススキルポイントは余りに余っていた。
そりゃそうだ。なにせ、使っていないのだから。
今後、必要になりそうなスキルを取り、可能ならば上位スキルへと昇華させていく。
今夜のメインイベント。
魔法属性取得だ!
この世界の属性は、聖、闇、火、土、水、風の六属性。
狙いは精神支配系の魔法が多い闇だ。
念を込めて、属性ガチャをスタートされた。




