聖属性です。お疲れ様でした。
パンパカパーン!
鳴り響くファンファーレと共に、頭の中に属性のイメージが現れる。
白を基調とした背景に、光を放つ男性の姿。
属性ガチャの結果は『聖』。
はい。お疲れ様でした。
リセマラもできない仕様になっているようで、狙った属性にはできないようだ。
ゲームキャラとしてのフリーデリケは、火属性だったはずで、記憶が確かなら、魔力暴走で学園に火がついてしまい、水属性持ちの活躍で、ボヤ程度で収まったエピソードがあったはず。
何が悪よ。
とも思ったが、別に魔力属性が『聖』なだけで、生き方まで『聖』になることはないのだ。
某ゲームみたいにローフルグッドでなければ、聖職者になれないわけではない。
属性も決まったことで、スキルボードにウィンドウを戻すのたが、まさかとは思いスワイプしてみたら画面移動するとはね。
こういうことで、星メモの中にいるのだと実感する。
魔法属性を取得すると、属性に関係するスキルも取得するというゲーム仕様で、その他にも魔法系のコモンスキルも取得できるようにもなる。
「なぁっ!」
聖属性だっただけに嫌な予感はしていたのだが、その予感が的中してたことを示すスキルが、ウィンドウに表記されていた、
『星屑の御子』
聖属性を取得した際に得られるスキルで、段階として『星屑の使徒』、『星屑の導き手』、『星屑の聖女』とあり、『星屑の御子』は星屑シリーズの最上級スキルである。
「やっぱり、あの男の人が太陽神アーラス様なのか?」
こちらも星メモの世界の神様で、魔法属性と同じ六柱の神様がおり、聖属性であれば太陽神のアーラスの加護が強く、闇属性だと宵闇の神クヨーツクの加護を得る。
そういうシステムだったはずだ。
「太陽神アーラスの名の下に、悪事を働けって………いや、待てよ」
聖属性はバフ系の魔法も多かったはずだと思い、魔法リストを再確認する。
身体能力を活性化させ、ステータス全てを底上げする身体強化に、物理、魔法の防御力アップに、ダメージ遮断のシールドと、補助系魔法がてんこ盛りだ。
「やっぱり。これなら」
属性はこの際忘れて、目指すものになれれば良いと考えるべきだな。
色々と考えすぎて興奮気味ではあったが、子供のこの身体、昼間のアスレチックの疲れもあり、眠りへと落ちていってしまう。
◆
「リケ………。今日は一段と、ん?!」
翌日のアスレチックの動きを見て、トーマスは啞然としていたが、すぐに何かに気がついたようだ。
「リケ。戻ってこい」
アスレチックをこなす私に、大きな声で指示を出すトーマス。
なかなか珍しい。
「どうした?」
トーマスの元に戻った私の耳元に、顔を近づけ、小声で囁くように言う。
「魔法に目覚めたんだな」
「な!なぜそれを?」
いつもの距離に戻ると、顔もニヤけた表情を張り付かせた。
「お前ね。今、そういうやり方を覚えちゃダメなのよ」
「うむ」
「体の使い方ってのをマスターしましょってときに、魔力を使ってはダメだ。それに、魔力もダダ漏れで、消費も激しすぎる」
「手練となると、そこまで分るものなのか?」
「オレも使えっから」
トーマスは手のひらを上に向けると、その上で風を渦巻かせた。
こんな現象はイベント演出だけの見せ方で、あくまでも魔力は魔法リストの中で使うことが前提という、そういう固定観念があったが、ここはゲームの世界であって、ゲームそのものではないのだ。
「そういうことか!トーマス。ありがとう」
「おっ、おう。なんか分からんけど、アレをもっかいやって来いよな」
「応よ!」
腕を上に曲げ、二の腕を叩く。
「ほんと、子供っぽくないんだよな…。」
私を見送りながら、頭をポリポリと搔くトーマス。
「お嬢様でございますから」
ハンネがコーヒーの入ったカップを手渡し、私の行く先を見つめる。
◆
その日から、トーマスの教えに加えて、勉強、魔力操作の調査と実践をこなすようになる。
本を読みながら、サイドテーブルで寝落ちすることも多く、その度にハンネにベッドへと運ばれていたようだ。
そんな日々を過ごしながら、成長して行き十歳を迎える頃には、公爵家騎士団の修練について行けるくらいに、強くなっていた。
「いい踏み込みですが、それでは鎧に弾かれますぞ!」
騎士団近衛隊の副隊長ゲオルグに手ほどきを受けている。
ここではトーマスの修練で使うナイフやタガーではなく、ショートソードを使っている。
長さがある分、振り抜こうとするば、剣に振り回されてしまうし、重さもあるので切り返しが遅くなる。
「そんな切り返しでは、簡単に避けられますな」
ゲオルグは言ったとおりに、私の剣戟を軽く躱す。
重いはずの金属鎧を身にまとっていながらだ。
「どうしたらよい?」
「既に、トーマスから教えられていると思うのですがね」
ゲオルグの鋭い突きを避けたが、大きく避けすぎた。
突ききったまま、膂力に物を言わせて、私の避けた方へと剣を薙ぎ払う。
辛うじてしゃがむことで躱せたが、あんなのをもらってしまってはひとたまりもない。
「これが、今のお嬢様の剣です」
「私はゲオルグほどに…なるほど!ゲオルグでさえそうなるのなら、私ならさもありなん」
ゲオルグは背も高く、重い鎧や大きな剣を持っても素早く動けるだけの膂力を持っている。
そのゲオルグでさえ、無茶な剣を振るおうものなら、大きな隙ができてしまう。
今のも経験浅い未熟な私だったから、その隙を突くことが出来なかったのだ。
剣を振ることに必死になりすぎていた。
「分かっていただけましたか?」
「そうだな。今の私には体重も膂力もない」
「だからこそトーマスは、身体を上手く使いこなす修練をさせているのですよ」
「言っていた。ナイフは腕の一部と」
「ショートソードも同じですし、私の持つツヴァイハンダーもです」
そう言って、自身の身長と同じくらいある大きな剣を、軽く上げて見せる。
「よし。もう一本頼む」
ショートソードを引いて構え、ゲオルグと対峙する。
「どこからでも」
ツヴァイハンダーを担ぐように構えるゲオルグ。
私は速さを頼りにゲオルグの懐へ飛び込んだ。
◆
前日の騎士団での修練で、身体のあちこちが痛むが、朝というものはお構いなしにやってくる。
ハンネに全てを委ね身支度を済ませれば、家族の待つ食堂へと降りていくのだ。
「誕生日。おめでとう」
五月一日は、私の誕生日だ。
この世界では生まれ月の一日が、自身の誕生日となる。
暦がどうたらと、システムメッセージにあった気がするのだが、はっきりとは憶えていない。
「ありがとうございます。お父様」
カーテシーを華麗に決め、返答をする。
「お前も、教会で儀式を受けるのか…しょぼい魔法じゃなけりゃいいな。ヒヒヒ」
貴族らしからぬ物言い。ヴィルヘイム兄様の下卑た笑いは、段々と酷くなっている。
その理由と言えば、魔法であろう。
属性は風で発現しているのだが、スキルのせいで魔法の成長が遅くなってしまっている。
それで、思うように成長しなかったことを憂い、腐っているのだ。
今日、この場に、マクシミリアン兄様がいない事だけが救いだ。
マクシミリアン兄様の脳筋正論に、ヴィルヘイム兄様が粉砕されずに済むから。
粉砕された後の癇癪は酷いもので、被害を被った調度品は数しれず。
今では、陛下や有力貴族からの贈り物は、アスカニア家の宝物庫にしまわれてしまっている。
「食事をとったら、支度を済ませて教会へ行こう」
お父様はヴィルヘイム兄様には興味はなく、その物言いを歯牙にもかけない。
これも、ヴィルヘイム兄様が拗ねてしまっている原因でもある。
「はい。お父様」
◆
朝食の後で、ハンネと準備を整えていると、珍しくトーマスが部屋を訪ねて来た。
着替えは済んでいたので、中へと通し、何事かと訪ねてみると、スキル偽装を忘れるなとだけ言って出ていった。
そう言えば、齢十にして人間を辞めている数値の私だ、これを司祭が見た日には…。
それに、あのスキルも隠さなければならない。
今回は、儀式の前後でも、偽装フィルタを変えなきゃならないのでは?
魔法発現の前と後で…。
面倒だが、今日だけだ。
「お嬢様。そろそろ」
「分かった」
ハンネのステータスをベースにして、『聖』属性を持った後のステータスやスキル編成を作ることにした。
玄関前のエントランスに、馬車が停まっていたのだが、私は迷わず、お父様の従者が手綱を持つ馬の鞍に乗る。
「フリーデリケ。お前はこっちだ」
お父様が呆れたように私を見て言った。
「お前。それに、その格好は、まるで男の子じゃないか」
馬に飛び乗れる服装だけあって、今日の私はパンツスタイルだ。
しかも、騎士団の儀礼用衣装ときている。
「娘の晴れ舞台。ドレス姿を見たかったぞ」
「それは、社交デビューのときに、取っておいてください。今日はお父様のお付きの騎士として、帯同させていただきます」
「マクシミリアンも居ないことだ。良かろう。無事に先導してみせよ」
「仰せのままに」
馬上で礼をした。
本来は不敬であるが、そこは見逃してもらおう。
お父様とハンネが馬車へと乗り込むのを見届けて、隊列に号令を出す。
「先頭は私が務める。皆、よろしく頼む!出立っ!!」
我ながら良くできたと思う。
前進を始めた隊列の先頭に出るため、馬に拍車を当てる。
良く訓練された馬で、その意図を読み取り隊列の先頭目掛けて駆け出した。
馬の背で受ける風が心地よい。
◆
アスカニア家の膝元で、その隊列を襲うような無体を働く輩もなく、何事もなく教会へと辿り着いた。
先頭から馬車の扉前へと馬をつけると、鞍から降りてお父様たちの降車を待つ。
さすがに目立つもので、遠巻きにではあるが、人が集まりこちら見ている姿が確認できたので、隊列を待機から警戒に移すよう、手信号で合図する。
トーマスとの修練もあったが、騎士団での修練にも加わっていたこともあり、このくらいならできるようになってた。
スキルだけでは語れない、この世界のルールに、改めて触れたような気がしたものだ。
しかし、スキルの恩恵は多分に受けられている。
なにせ、小、中、高、大と運動と言えば、必須科目の体育だけで、毎度、赤点ギリギリの実技点で乗り越えてきた私が、アニメやマンガの忍者のように動けるようになったのだから、ゲームシステムには感謝しかない。
お父様が馬車から姿を現すと、周囲の人波がわっと沸く。
なかなか見られないご領主様の登場だ。沸かないわけがない。
その場で、周囲に手を振って応えるというサービス付。
お父様に手を伸ばし、馬車からの降車をサポート。
お兄様たちであれば、そんな歳ではないと突っぱねそうであるが、さすがに娘の手はそうはいかない。
大人しく手を取り、馬車から降りる。
「このまま行こう」
私の顔を覗き、手を取ったままに歩き出す。
これはやり返されたかな。
でも、父と娘が手を取り合って歩くなんて、この先何度あることやら。
◆
儀式は滞りなく終わり、屋敷へ戻る。
属性が発現してから、お父様の機嫌もすこぶる良いもので、スキルも改ざんはしておいたが、星屑関連のものは下位のものにしておいた。
それでも、それを発現するものは少ないこともあり、教会といい、お父様といい、あり得ないほどの喜びようであったことを思い出す。
あの場の勢いであれば、今日を祝日とするくらいは言っしまいそうな空気を感じた。
「お疲れ様でした。お嬢様」
部屋に戻り、屋敷用のドレスに着替える。
「冷や汗をかいたよ」
「それはそれは」
「なんだ?」
「いえいえ。いつも落ち着いていらっしゃる方が、慌ておりますと可愛いらしく感じるものですよ」
そう言って、クスクスとわらうハンネ。
耳まで熱くなるのを感じた。
「さて、無事に儀式も終えたし、お父様もしばらくは王都だな」
執政のお父様が屋敷にいることが珍しいのだ。
「そうだと聞いております」
「動き始めるならば、今がチャンス」
「私は何も聞いていないことに」
「よい。これは独り言だからな」
「そうでしたか」
「そうだ」
まずアスカニア家のお膝元であるカニアの街を掌握することから始めよう。
この街の表の顔はお父様だ。
ただ、裏の顔は傭兵崩れのギャングどもが、幅を利かせているらしい。
我が領なのだから、表も裏も全てがアスカニアのものでなければならないのだから。
「さて、始めよう」
気負いも何もなくいつも通り、ドアに向かってステップを踏んだ。




