オークさんの料理二種:前戯
「トーヤ! トーヤ! オ◯ニーしてないで話聞いて!」
「してねぇよ! んで話ってなんだよ」
「あれのこと!」
私の指差す方向には、立派なおち◯ち◯を持ったオークの死体が転がっている。あんなものをぶち込まれたらきっと壊れてしまうだろうっていう凶悪な形をした代物だ。もっとも、オークは死体だし屍姦は興味ないし、死体からじゃ精気は得られないのであれをどうこうしようとは思ってない。
ちなみにオークというのは豚の顔に人間の身体をした魔物で、でっぷりとした身体は脂が乗って豚肉のように重宝される魔物だ。もっとも、女性にはかなり不人気だが。
「あんな立派なおち……じゃなくて、凶悪なおち……でもなくて、あんな巨体のオーク、なんで私に言ってくれなかったの!?」
「隠しきれてねぇ! ……あれは冒険者の人に狩ってきてもらったんだよ。枝肉になったものを買うよりも、解体前のものを譲ってもらった方が安いからな。解体だってもう手馴れてるし」
枝肉よりも自分で解体した方が安いというのは、いわゆる手間賃がかかるかかからないかということだ。
一般家庭であればそう変わりはしないだろうけど、食堂みたいに大量に肉を使う必要があるのであればまとめて肉を肉屋で買うよりも、自分で解体した方が安くつくのは仕方のないことだろう。
さらにいうなら獲物を自分の手で狩ってくれば、冒険者に頼む必要すらなくなるのだが。
「そこらへんの男を引っ掛けるぐらいなら、どうしてマリーさんに頼まないんですか!」
「誤解を招くような言い方はやめろ!」
はて、マリーさんはへんな言い方はしていなかったと思うんだけど。
それはさておきオークの件だ。
「オークの1匹ぐらい朝飯前ですよ! むしろ朝飯どころかその前の夜伽前ですよ!」
「それお前にとったらどっちも飯だろ」
「そうとも言いますが!」
「てか、マリーさん戦えるの? そんな細腕じゃ、オークどころかゴブリンだって無理なんじゃ」
ゴブリンはアカリ嬢よりも少し身長の高い魔物で、人間の女をさらって繁殖をしようとするこれまた不人気な魔物だ。しかも全滅させても1週間後ぐらいにはまたどこからか沸いて現れるので、とにかく見つけ次第始末しろと言われている。
まぁゴブリンはとても弱い魔物なので、初心者冒険者でも簡単に倒せてしまう魔物だ。
そんなゴブリンにこのマリーさんが負けるだと? ……ふふふ、少々見くびりすぎではないのかね?
「おもしれぇ、じゃあちょっと手合わせしてくれねぇか」
そう言ってドアを開け入ってきたのは、筋骨隆々な男性だ。あそこの大きさもズボンの上からでもわかるぐらいおおきーー
「おま、どこ見てんだ! 痴女か!」
「マリーさん自重して!」
こほん。
あそこはともかく、背中に大剣を背負った大男だ。頭には犬耳が付いていて、獣人だということがわかる。……あれがアカリ嬢についていれば萌えポイントなのに、おっさんについていても全く萌えないな。
それはともかく結構強そうではあるが。ふっ、マリーさんの敵じゃあないな。
「とにかくだ! 俺はトウヤのところにちょいちょいオークを卸してやってんだよ! 仕事を取って代わろうってのがそっちの痴女だってんだから、少し揉んでやらねぇとなぁ!」
「揉むってそんな……いやん♡」
胸を両手で隠し腰をくねらせる私。
「そうじゃねぇよ! ちょっと怖い目に合わせてやろうってことだよ!」
「怖い目……まさか無理やり……」
「なんでもエロ方面に持ってくんじゃねぇ! おいなんなんだよこいつは!」
「最近住み着かんばかりに来店するサキュバスさんです」
とが呆れながらトーヤが答えていた。私は未だに腰をくねらせていた。
とりあえずこれ以上騒ぐと奥でお昼寝をしているアカリ嬢を起こしてしまうので、店内から外へと出る。
出て早々に大男は剣を構え、私のことを睨んでいる。そんな目で見つめられちゃうと、困っちゃうぞ。しかもいきなり剣を抜いて……この早漏さんめ☆
「なんか今すごくムカついたんだが」
「奇遇ですね、俺もです」
「ちょっとトーヤ! どっちの味方をしてるのよ!」
全く、これはマリーさんの力を見せつけてやらないといけないわ。
私は着ているいつものエロメイド服を脱ぎ去り、その下に着ていたエロボンテージ姿になる。
「「やっぱり痴女じゃねーか!」」
「な! これは由緒正しきサキュバスの戦闘コスチュームですよ!」
ボンテージは上はチューブトップで胸だけを包み隠し、腕には肘上までの長い手袋をしている。下はショートパンツだが足の付け根ギリギリまで短く、足は膝上のニーハイソックスを身につけ、さらにピンヒールを履いている。まぁ、見ての通り戦う姿には全く見えないだろう。
大男からはちょっとイヤらしい視線も感じるが、それ以上に敵対心が多く伺える。そしてトーヤはもうちょっとマリーさんに興味持ってくれてもいいんじゃないかなぁ!
まぁしょうがない。マリーさんの斧技で、魅了してみせよう。
「おいおいおいおい、そりゃあ、なんの冗談だよ……」
大男が慌てているけど、無理もない。
私が取り出したるはその身の丈の3倍はあるであろう巨大な大斧だ。特に銘はないけれど、巨人族の誂えた至高の一振り。これを振ってマリーさんは生きてきたのだから。
マリーさんはサキュバスで、生きるために精気を吸う、つまり男と寝ることも多いけど、何もそれで金を得ている娼婦の真似をして旅暮らしをしているわけではない。あ、娼婦は娼婦で毎日男性のお相手ご苦労様です。
マリーさんはサキュバスの変わり者。その腕っ節も、並のサキュバスよりも全然強い。そこいらの男にも負けないことを自負している。その腕っ節を活かして、冒険者として日々の路銀を稼いでいるというわけなのだ。
「さて、怖い目に合わせてくれるって言ってたわね? 胸を借りるつもりで、いくわ、よっ!」
片手で天に掲げた大斧を、一直線に大男に振り下ろす。
真っ二つ……になる前に、その顔面の直前で斧を止める。大男はその場にヘタレ込み、腰を抜かせて動けないようだった。
「ま、参った……」
大男はそれをいうのがやっとだったようだ。
もちろんマリーさんは無益な殺生をすることはないので、わざわざ殺したりなんてしない。殺すぐらいなら搾り取ってやろうというものだ。
「ま、マリーさん……そんなのどこから……」
「え? ああ、これ、極小マジックバックになってるのよ」
私は腰に下げた小さい袋をトーヤに見せる。
マジックバックというのは、その大きさに見合わない量でもどんどん入っていく不思議なカバンなんかの総称だ。私のこれも例に漏れずなんでも入るけど、無限に入るわけじゃなく容量にも限界はある。この小袋は大斧を入れるとそれだけでいっぱいになってしまうのだ。
なので本来は1週間ぐらいの旅荷物が入るそれを、大斧1つのために使ってて若干もったいないとも思っている。
「へぇ……そんな便利なものがあったのか……」
「ああ、アカリ嬢に隠れてエロ本仕舞っておくのに便利だもんね!」
「お前に聞いた俺がバカだった」
なんでかトーヤに呆れられてしまった。
大男ももう大丈夫なのか立ち上がり (別に股間の話ではない)、こっちに向かってきていた。
「いや、悪かった。こんなに強い人だなんて思わなくてな」
「いえいえ、私こそやりすぎた気がするし」
謙遜というか、実際やりすぎちゃったと思う。斧は私のメイン武器だけど、もっと穏便に済ませることもできたし。
そして私同様に、大男も何やら悩んでいた。
「しかしこんな強い人が一緒に住んでるんだったら、俺の仕事を取られてもしかたねーな。俺はまだCランクに成り立てで、討伐依頼はそんなに受けないからオーク1匹だけでその肉だけ欲しいって依頼は結構美味しい依頼だったんだがな」
冒険者はギルドの中でランクをつけられて、そのランクに見合った依頼しか受けることができない。
オークの討伐は1匹だけならDランクだが、オークは群れで行動することも多く、群れの狩だとCランクになる。Cランクになったばかりという彼には荷が重いのかもしれない。
「それなら、そのオーク肉、私が買います!」
「へっ!?」
「マリーさんあんた何言ってんだ!」
大男の彼がオークを狩り、その肉をマリーさんがトーヤが払っていた金額よりも高く買う。そしてそれをトーヤにプレゼントするのだ! 大男の彼は今まで通りオークを狩りお金をもらえて嬉しい。トーヤはタダでオーク肉が手に入って嬉しい。そしてマリーさんはトーヤからの好感度がうなぎ登りで絶頂しそうで嬉しい。
みんなハッピーな提案だろう!
「俺はいいけどな……」
「俺の店で使う食材なんだから俺が金を出すのが筋ってもんだろうが!」
真面目なトーヤならこう言うのはわかっていた。
だからこそ、私は次の一手を打つ!
「もちろん完全にタダじゃないよ。このオーク肉で、マリーさんが精気を取れる料理、作ってもらうのさ!」
マリーさんはアヘ顔、もといキメ顔でそう言った。