1人◯ックス茶碗蒸し:前戯
はてさて今回は一体何を出してくれるのだろうか。
条件はもちろん、『サキュバスでもお腹の膨れる料理』。ただし、前回の海栗は主題にしないこと、と伝えている。やっぱり同じものばっかりじゃ飽きるよね! セッ◯スもおんなじプレイじゃマンネリするしね!
そんな条件をつけてしまったものだから、材料の買い出しに出かけているところだ。材料費はマリーさん持ち。トーヤは料理を出す以上自分が出すと言って聞かなかったけど、こう言ってしまっては悪いがトーヤの今の手持ちじゃまともな材料は買えないだろう。そんな理由で美味しくない料理が出るのは我慢ならないからね。
「色々と悪いな……。アカリ、重いだろ?」
「いえいえ、これぐらいなんてことないわ。……プニプニの御御足が気持ちいし……うへへ」
「やっぱ俺が背負うわ」
背中に背負ったアカリ嬢を死守しつつ、市を歩いていく。トーヤの顔が怖いことになっているが、今は捨ておこう。というか、あんまり見たくない。怖い。
それに比べてアカリ嬢の寝顔は可愛いなぁ。ほっぺたとか突っつきたくなっちゃう。きゃわたん!
「起きるからやめろっての。それよりあそこだ」
トーヤが指差す方を見ると、市の外れにあるボロボロの店がある。マリーさん、あの店知ってるよ!
その店に近づいていくと、そこには海栗を捌いて食べているお爺さん、ゼベット爺がいた。
「おお、お嬢さん。その様子だとちゃんと店にはついたようだの」
「ええ、素敵なお店を紹介して頂きました」
私とゼベット爺は固い握手を交わす。……海栗捌いた後、手拭きました?
布巾を借りてベタつく手を拭き、今日の商品を見て回る。相変わらずよくわからない商品ばっかり並んでいるなぁ……。うげ、あの8本足まだいるんだ……。
トーヤは何やらゼベット爺と話し込んでいるご様子。
「ほお、お嬢さんサキュバスだったのか。そりゃあ、珍しい。その割には海栗を……そうか、あれはそういうものだものな。ほっほっほ」
「ええ、あれはよいものです」
美術品を語るように大仰にゼベット爺には伝えた。マリーさん美術品とかよくわからないけどね! あ、エッチな道具ならいっぱい知ってるよ!
そんなマリーさんの答えにトーヤは顔をしかめていた。むぅ。
ほおを膨らまし遺憾の意を表明して見せたものの、トーヤには無視されそのままゼベット爺と話を続けている。
「ふむ、サキュバスでも食べれるもの、か。それも海栗以外で……。よし、そういうことならアレを分けてやろう」
そう言ってゼベット爺は店の奥へと入っていく。
しばらくして、カゴに何かを入れて戻ってきた。……これは、卵?
「つまり、産卵プレイをご所望……?」
「自重してくれない?」
「ほっほっ、これはシーキャットの卵じゃよ」
シーキャット。海に近い岩場に巣を作る、中型の鳥である。キャットなのに鳥とはこれ如何に。
白い翼に黄色いくちばし、ニャーニャーと鳴くそれは海辺では珍しくもない光景だ。しかし、それらは害獣扱いで食用にするという話は聞いたことはないのだけど。
「ゼベット爺さぁ……いくらなんでも、そりゃあ食えねぇんじゃねぇのか?」
一般的に卵といえば鶏卵である。時折コカトリスなどの魔物の高級な卵が市に流れることもあるが、それは高級品なので現地で手に入れた冒険者か、金を持った貴族ぐらいしか食べれないものである。
なので、よっぽど飢えてない限り他の動物の卵を食べようだなんて考えの人はまず間違いなくいないのだけれど、そのよっぽどな爺さんが目の前にいるみたいだ。
「ふふ、実はの、シーキャットの卵は普通に美味しいのじゃよ」
「ほんとかよ?」
ゼベット爺曰く、シーキャットは世にも珍しい単為生殖の鳥であるらしい。1匹入れば雄も雌もなく勝手にどんどん増えていく。日によっては2、3個まとめて産むこともあり、ねずみ算どころの騒ぎじゃなくひどい勢いで増えていってしまうのだそうだ。故にあまり知られてはいないが国を挙げて害獣に認定されている。
その割に数多く見ないのは、そのほとんどが海にいる魔物に食われてしまっているかららしい。なんというか、生き物として哀れすぎるんじゃないだろうか。
「魔物共が何を思うてアレを食うとるかはわからんが、不味いもんをいくらすぐに捕まえられるからといっても食おうとは思わんじゃろ」
ゼベット爺のその言葉に、私は真剣にうんうんと頷いた。美味しくないものは積極的に食べようとは思わないもんね。
しかし、単為生殖の卵か……。
「それって有精卵、つまり◯ックス中の卵ってこと!?」
「いや、どちらかというと結果だろ」
トーヤが冷静にツッコミを返した。
確かにそうかもしれないけど、でも普通の卵よりは精気がありそう!
「有精卵だけあって普通の卵よりもコクがあっての、ワシはこっちの方が好みなのじゃよ」
「へぇ、料理人としても、未知の食材には興味あるな。食べて平気な人がいるなら食材としては問題ないだろうし」
ゼベット爺は食べ慣れているのかそんなことを言っている。トーヤも未知の食材に結構乗り気のようだ。
それにしてもそんな卵があるだなんて初めて知ったなぁ。普通に流通している卵は無精卵、雌鶏が1日に一度、交尾をしなくても卵を産んだもののことだ。……生理痛とか気にしてなさそうでいいよね。あ、サキュバスも一応生理はあるよ。子どもを作るには他にも条件があるけどね。
有精卵との違いは卵の中に精子が入っているかどうかの違いだけど、精子が入り命を宿そうとしている卵は、当然ながら夢精の卵よりも栄養価が高くなる。当然といえば当然だ。どんな生き物でも、生きるためには大量のエネルギーが必要なのだから。
だからこそ、精子と卵子のエネルギーの塊である有精卵。きっと上質な精気が摂取できるに違いないとマリーさんは考える。
「それでそれで、トーヤはそれでどんな料理を作ってくれるのかな」
「それは見てのお楽しみってな。あ、ゼベット爺、頼んでたものもそろそろできたんじゃないかなって思うけど」
「おお、あれじゃな。ほれ、できておるよ」
ゼベット爺がトーヤに促されて取り出したのは、……取り出したのは、なんだこれ? 黒くて、長い枯れ草?
枯れ草にしては何やら乾ききっていて、それでいてまるで木の皮のように硬くなっている。まったく見当もつかない得体の知れないものだ。性的には使えそうにないわね。
「うん、これならちゃんと日持ちもしそうだ。ありがとな」
「いや、これはちゃんと売り物として扱えるからの。ええってことよ」
このお爺さんだったらどんな変わり物も売ってしまいそうだけど。実際変わり物しか売ってないし。
必要な材料は揃ったのか、トーヤはシーキャットの卵と謎の枯れ草を買うとゼベット爺の店を後にした。私もその後についていく。
食堂に着くと、トーヤは早速料理を作り始めた。
私はやることがないのでアカリ嬢を長椅子に寝かせ、料理の出来上がりを待つ。マリーさんマジ良妻。
なんて思った瞬間に、マリーさんの顔面にナイフが通り過ぎそのまま壁に突き刺さる。
「なにするの!?」
「いや、なんかムカつくことを考えてそうだったからつい」
「ついじゃないですよ!?」
なんでか思わず敬語になってしまった。というか普通に命の危機ですよね!?
そんなことをしている間にお昼寝も終わったのかアカリ嬢が起き出した。
「……おねーたん、おあよー?」
「うっ!」
なんだこのかわいい生き物は! 天使か! 天使はここにいたのか!
天使は私が鼻血の止血をしている間にてててーと駆け、トーヤの足元に抱きついた。
「おにーたん! おはよー!」
「おう、おはよう。でも料理中は危ないからって前にも言ったよな?」
「あぅ……ごめんちゃい」
なんだこれなんだこれなんだこれ! 天使、いや、大天使か! 可愛すぎて死んでしまうわ!
「でも、元気に挨拶できたな。偉いぞ」
「……! えへへー!」
頭を撫でられて元気になった大天使はまた駆けて私の前の椅子へと座る。褒められたのが嬉しいのかにっこにこの笑顔だ。にっこにっこにーだ。
その後を追いかけるようにトーヤも料理を持ってやってきた。
「おまたせしました……っと。ほら、アカリにもな」
ことりと私の前に置かれたのは……陶器のコップ? その上に、木でできた小さい蓋が被せられている。
蓋を開けた中に料理があるのだろうとトーヤを見てみると、そうだと言わんばかりに頷いていた。
蓋を開けてみると、中から出てきたのは黄色いものだった。……これは、なんだろう?
「ぷりん!」
「はは、プリンじゃないよ。これは茶碗蒸しっていう料理なんだ」
チャワンムシ……初めて聞く料理だけど、美味しいのかな。
一緒に出された木匙を、そっとコップの中の黄色に入れる。するりと木匙が突き刺さり、持ち上げてみるとぷるんと柔らかいものが掬い上げられる。
「これ、あの卵?」
「そう、ゼベット爺のところで買ったシーキャットの卵で作ってるよ」
卵をかき混ぜると確かに黄色くなるけれど、けれどこんなプルプルとした形状になるものだろうか。匂いはいい匂いだけど……。
恐る恐る口へと運ぶ。
「っ!」
「おいしーい!」
味はなんというか優しい味だ。しかしそれ以上に口当たりがいい。口の中で解けるように、しかししっかりと口の中に味が残る。
卵だけじゃなくて、なにか他にも入っている。そうじゃないと、この味に説明がつかない。
しかし、食べ進めて見ても中に具は見当たらない。本当に卵だけ……?
「おいしい……けど、卵以外にも味を感じるのに、他のものが見当たらない。……いったいこれは!?」
「味の秘密はこれだ」
トーヤが取り出したのはゼベット爺の店で買った黒くて長い例のアレだ。……ちょっとエロい言い方。むふふ。
変なことを考えていたのがバレたのか、トーヤは怪訝な顔を見せたけど、すぐにそれの解説を始める。
「これはこの辺で取れる海藻で、干してから湯に入れて戻すといい出汁がでるんだよ。それを卵と一緒に混ぜて、蒸しあげたのがその茶碗蒸しだ!」
黒いそれはそんな効果があったのか。味は良くなってるけど、精気は感じなかったから私的には興味がなかった。
しかし、それよりもだ。
この料理からもしっかりと精気を得ることができた。材料を用意してくれたゼベット爺もそうだけど、やっぱり、トーヤの料理の腕はいい。こんなところで燻っているなんてもったいない。
「それで、今回の料理はどうよ」
「うん、やっぱりセ◯クス中の新鮮な卵だから精気もバッチリと得ることができた。そこに出汁も混ぜられ……まさに乱交だね!」
「お前もう帰れ」
解せぬ。




