1人◯ックス茶碗蒸し:前戯
突然だけど私、マリーさんの容姿のことを話しておきたいと思う。
サキュバスというのは男に抱かれて精気を得ないと死んでしまう生物だ。故に、その容姿も男に受けるよう美人なものが多いのは必然と言えるだろう。
自分で言うのもなんだけれど、私もサキュバスの例に漏れず美人だと言えるだろう。
毎日手入れを欠かさない桃色の髪は背中まで伸びたストレートに降ろしている。少しパーマがかかっているのはご愛嬌だ。
二重のお目目はパッチリと開き男を魅了して離さない。色白の肌に頬がほんのりとピンクに染まり、唇はぷっくりとして男のそれを受け止める。
胸も程よく大きく、サキュバスの中では巨乳というほどでもないが、綺麗な形を保ったそれは美乳だと自信がある。
くびれた腰は男に抱かれるのに最適で、しかしフリフリのお尻は肉付きが良く触っていて気持ちがいい。
足はカモシカのようにすらっと伸び、太ももは膝枕をするのにちょうど良い柔らかさだ。
サキュバスらしい身体的特徴として、背中に羽と、尻尾が付いている。これらは精気を大量に摂取した時には空を飛ぶこともできるようになるが、それをするには一般男性1000人分ぐらいの精気が必要になるので、適度な食事を心がけている私にはチャーミングポイントにしかならない。
そして着ている服も、先日に着て見せたエロメイド服をもうちょっとエロくないように改修したものだ。それでも珍しいミニスカートに膝上までの長いソックス。開けた胸元に肩出しの……ってあんまり変わってない気がしてきた。いやいや、今日はTバックじゃなくてOバックだからエロくはないはずだ。色も白で清楚!
まぁ一言で言えば超絶パーフェクト美少女マリーさんな訳なのだけど。
そんな私は一体何をしているのかというと。
「しょれ〜いくの〜」
「ぶひぃぃぃん♡」
幼女を背中に乗せて四つん這いで歩き回っております。幼女の指示の通りに歩き回り、高尚なサキュバスという種族でありながら両の足で歩くことを許されず、着こなした短いスカートのせいでプリティーなお尻は丸出しだ。
マリーさんの自慢のお尻だぞ。フリフリ。
「ねぇ……何やってんの……」
幼女様の指示に従っていると、居候先の食堂の店主であるトーヤがまるで汚物を見るような目で私のことを睨みつけていた。正直ゾクゾクします。
そのトーヤの問いに、私はキメ顔で答えてあげた。
「ふっ……雌豚ごっこよ!」
「めすぶたしゃんはひとのことばをちゅかったらめっ、なの!」
「ぶひぃぃぃぃん♡」
今日も閑古鳥が鳴いている。ぶひぃぃぃん。
ーーーーーーーー
海栗のパスタを食べて以来、私はトーヤの家に (勝手に)居候している。お金は入れてるので何も問題はないはずだ。
居候の理由は1つ。トーヤなら、私が求めるサキュバスでも食べられる美味な食事を作れると踏んだからである。
サキュバスは精気を食料とする。精気は性行為でしか得ることができない。それはサキュバスの生態として不変のルールである。
しかし先日、食べるだけで精気を得られる夢のような食材が見つかったのだ。それはまるでセック◯のような味わいで、サキュバスにとって夢のような食材だ。
そして、それを調理できる貴重な人材まで見つけたのだ。これを逃すマリーさんではない。
「というわけでマリーさんもここに住むので専属料理人になってください!」
「断る」
とまぁ、好意的に受け取ってもらえ、今では一緒に住む仲なのだ。
「認めてねぇよ!?」
そんな彼の家には彼だけではなく、彼の妹も住んでいたのだ。
妹君であるアカリ嬢はまだ幼く、歳の頃は3つでトーヤが仕事をしている間1人にしていることが難しく、私が訪れた時は教会に預けていたらしい。臨時託児所みたいなものだ。
そんなアカリ嬢と私をトーヤは会わせたくなかったらしく、私が来た日からしばらく教会に預けたままにしていたので今日の今日まで会うことはできなかったのだけど、アカリ嬢の方が我慢できなくなってしまい帰って来てしまった次第である。
調理場で仕込みをしていたトーヤはそれに気がつかず、私が出迎え教会のシスターには丁寧に対応し、そして冒頭の状態に至るのだ。
「あの、マリーさんほんとうちの妹に変なこと教えないでくださいお願いしますから」
「ぶひぃぃぃ……」
「喋れよ!」
アカリ嬢のご命令の通りにしていただけなのにトーヤに怒られてしまった。ゾクゾクするじゃない。
「わかったわかった、わかりました……」
「めすぶたしゃんはしゃべっちゃめー!」
「ぶひぃぃぃぃん♡」
「もういいよその流れは!」
トーヤによってお昼寝させられたアカリ嬢を布団へと寝かせ、食堂のテーブルの一角に互いに向き合って座る。キッと睨んだ目つきにゾクゾク……我慢しよう。うん。マリーさんやればできる子だから。
トーヤは怒っているようだけど、それでも私を追い出すことはなくお茶を用意しておいてくれた。ちょっと渋みのある変わったお茶だったけれど、美味しく頂きました。あ、飲み物はサキュバスでも美味しく頂きます。水分補給、大事。
「それで、あんたの目的は一体なんなんだよ」
「前にも話したと思うけれど、私はサキュバスでも食べられる、食べ物でサキュバスの栄養になる美味しいものを探しているだけ。それを、あなたが作れるからお願いしているだけよ」
マリーさんの目的は徹頭徹尾美味しい食事をするところにある。
サキュバスの身であるマリーさんではあるが、美味しい食事をしたいというのは世の常ではないだろうか。美味しい食事は人の心を豊かにし、そこから気持ちいいセ◯クスをすることで美味しい精気も頂ける。
しかしながら、精気というのはエネルギーだ。味があるものではない。もちろん精液なんかには味はあるが、それ自体は私は美味しいとは思わない。精気が取得できて初めて美味しさを感じ取れるのだ。
逆に普通の食事は美味しくは感じる。しかし、精気はないので腹は膨れない。例えるなら味だけを楽しんで食べ物自体は吐き捨ててしまったような感じだろうか。
そんな中で、トーヤの作った料理は素晴らしいの一言に尽きる。もちろん、海栗という食べ物ながらにして精気を得られるサキュバスの、いや、マリーさんにとっての救世主的食べ物のおかげというのはあるだろう。
しかし、その海栗を調理し、なおかつ味と精気を高めたその手腕。マリーさんが賛辞を送るのに、何を躊躇することがあるのだろうか。
だからこそ、私は旅を止めこの男の側にいることを決めた。旅に出て私がいない間に何かが起きてトーヤを失うのはマリーさんにとってあまりにも損失が大きすぎるし、この街には海栗もあるからね。根無し草だったマリーさんもこの地に根を貼ろうと決めたわけだ。
「無論タダでとは言わないよ。マリーさんはこう見えて結構お金持ってるから」
そう言って、テーブルの上にそっと金貨を忍ばせてみる。
金貨はここいらで使えるお金の中では最も価値が高く、金貨が5枚もあれば1年は働かなくても暮らしていけると言われている。
マリーさんに料理を出すだけで金貨だなんて、食堂を辞めても生活には困らないだろう。
しかし、トーヤはそれを受け取らなかった。
「あんたに頼る気はねぇよ。……そんな汚ねぇ金を受け取れるか」
最後の方はちょっと聞こえなかったけど、トーヤはお金を受け取るつもりはないらしい。
そりゃあそうだよね。なんでもお金で解決なんて、援交とか風俗みたいで嫌だよね。マリーさんはいつでも清いサキュバスでありたい。今日も白いショーツを履いてるから清さには自信があるぞ。
しかし、食堂なのに料理を作って欲しいという依頼でお金を受け取ってくれないのは……ってそうだ。さっきまでのはマリーさんがここに住むとかそういう話をしていたわけだ。
そこで私は金貨を下げ、銀貨を1枚出してみた。
「じゃあ、これで私が美味しいと思う料理を作って? もちろんお釣りは頂戴な? ここは食堂なんでしょう?」
食堂なんだからお金を払って料理を出して貰えばいい。そんな当たり前のことをすっかり失念していた。
どんなものにも段階というものはある。会っていきなりセック◯はしない。デートをしたりお金を払ったりするものよ!
ここまで言うと、トーヤの顔はちょっと悔しそうだった。
「……そういうことなら、受けないわけにはいかないだろうよ」