特務隊
「そういえば叔父さん、軍にいたことあったよな。特務って知ってるか?」
「特務隊か? 有名だから知ってるぞ。つってもありゃ戦力になる学生を特別扱いして任務に就かせるって意味で……おいまさか」
「うん、俺とクリス、あと友人の一人が特務少佐に任命された。そんで凜が特務大尉」
「まじか……」
少し悩んだような表情を見せる叔父さん。
まぁいきなり軍に雇用されましたって言われていい顔する人はいないだろう。
ある種の徴兵に近いからな。
「俺は万年軍曹だったんだが、特務隊の事は嫌って程聞かされてきた。馬鹿みてえに強いガキどもの集まり、素行はともかく作戦成功率と生存率が半端ない、中には生まれる前から身体改造されまくった奴もいたって噂だった」
「ほほう、そりゃまた物騒な噂で」
「本題はここからだ。まだ義務教育も終わってないガキを前線に連れて行くわけにもいかないからな。基本的に後方勤務だったんだが、15年前のスタンピード、覚えてるか?」
「流石にガキ過ぎて覚えてねえな」
嘘です、普通に知りません。
俺がこの世界に来たのつい最近なんで。
「准将クラスは宇宙の果てにあるっていうインベーダーの巣を潰しに行ってるのが常だったからな。そこで白羽の矢が立てられたのが特務隊だった。ひでぇもんだったよ。9割が死亡、残った1割もほとんど死んでるようなもんだった。一人だけどうにかこうにか回復したやつがいたが……200人近いガキが死んだんだ。そんで特務隊の情報は隠匿されるようになった」
「でも知ってる人は知ってると」
「緘口令はしかれてねえからな。それに当時は遺族が国と軍相手に派手に訴えたから探せばいくらでも情報は出てくる。それで、そんなもんに任命されたお前はどうするつもりだ」
「どうって……」
「言っておくが戦功をあげようなんて馬鹿なこと言うんじゃねえぞ。昇級ってのはそんだけ死にやすい所に連れていかれるってことだ。人間同士の殺し合いにだって参加させられる」
ふむ、叔父さんなりに気を使っているのだろう。
ただこの場合俺じゃなく凛の事、それと父さん母さんに対してか。
家族を失う辛さは俺が誰よりも知ってるつもりだからな……けど、俺だけ逃げるつもりはない。
「叔父さん、凜は美人だよな」
「あ? あぁ、身内のひいき目で見てもありゃいい女になる」
「クリスも、ここに来た時言ってたように別嬪だろ」
「性格までは知らねえけどな」
煙草に火をつけた叔父さん。
もう遠慮はしないといった様子だ。
「いい女だよ。俺好みな大和撫子じゃねえけど男の尻を蹴り上げてくれるいい女だ」
「そいつはなかなかじゃねえの」
「それにもう一人の友人ってのは坂月重工のボンボンだ。狙撃の腕は最高峰。性格も落ち着いていて、鼻持ちならない所なんか欠片もねえ」
「友人に恵まれたな」
「それだけじゃねえぞ。俺の無茶に付き合ってくれたメカニック連中はみんな気のいい奴らだ。エナドリ片手に奔走して、紙が足りねえってなったら学校中のトイレットペーパーすら持ってくるような連中だ」
「相変わらずみたいだな、そこは」
「おやっさん、技術中佐なんだが昔気質の職人でよ。人殴る用のスパナまで持ってる」
「はははっ、俺の代にもいたよ、そんなのが」
「そいつらを放っておけるわけねえだろ」
俺の言葉に叔父さんは紫煙を吐き捨てる事で答えた。
くだらねえ、そう言いたげな表情に続ける。
「それにさ、俺の将来の夢話してないよな」
「……言ってみろ」
「昇級して将校になって安全な後方勤務。凜を、望むならクリスと坂月のボンボンも手元に置いて悠々自適な生活だ」
「はっ、叩き上げでどこまで登るつもりだ?」
「どこまでも。政治家は俺一人じゃ無理だから他の連中に任せるにしても、俺はいわゆる最後の砦みたいな立場の将校になりたいね。真田准将みたいに最前線飛び回るのはちょっとごめんだけど」
「真田……? あぁ、あのガキ……」
「知ってるの?」
「さっき言った特務隊で唯一五体満足で生き延びたガキだ。まさか准将になってるとは思わなかったが……だがそういう事だぞ」
「どういうこと?」
「特務隊出身で、ガキの頃からのたたき上げでも15年かけて准将だ。扱い的には大佐と大差ねえ」
「たいさにかけた冗談?」
「お前……真面目な話している時に……」
「それこそ冗談だよ。真田淳書の戦績は見た。安全第一で自分が最前線に突っ込んで切り開くタイプ、死傷者が異常に少ない戦場で、敵の殲滅よりも見方が生き残る事に専念している。ワンマンアーミー気取りだ」
「……トラウマからくるもんだろ。一番ガキだったから可愛がられてたんだよ」
そういうのもあるかもしれないな。
けど、本題はそこじゃない。
「それさ、出世に向いてない戦い方でもあるよね」
「まぁ、言ってしまえば軍は結果主義だからな。死傷者が少なかろうが敵を取り逃がしたとなれば響く」
「なら俺は、死傷者を出さずに敵を殲滅してみせる。それができるくらい強くなって、強い機体を手に入れて、凜もクリスも良平も、みんな守り抜いて勝ち上がる」
「……普通なら夢見がちなこと言ってるなとか、うぬぼれるなってぶん殴る所なんだがなぁ」
「俺は普通じゃねえだろ?」
「そうだな。普通じゃねえ。だけど、普通じゃなくても俺からしたらガキだ。もっと大人を頼れ」
「そこはご安心を。ちゃんと軍の偉い人を頼るつもりだ。ガキであることすら利用して、いろんな大人の脛しゃぶりつくしてやるよ」
「はっ、なんだこれじゃお前の心配した俺が馬鹿見てえじゃねえか」
「実際叔父さんは賢くないだろ。例のパンジャンギアも仕入れたんじゃねえの?」
「おまっ、そりゃまあ……俺好みの機体だったから仕入れたけどよ。ったく、可愛くねえガキだな」
「叔父さんの甥っ子だからな」
「兄貴はもっとかわいげのある子どもだったぞ」
「俺が聞く限り結構やんちゃしてたらしいけど?」
母さんと話す時間ができた時にちらっと聞いた。
こう、プロポーズに至るまでのあれこれとかも語ってたけど結構やんちゃだった。
伊達男かってくらいに見えない所での女遊びも激しかったらしいが、母さんと出会ってからピタリと止めたらしい。
聞けば鼠径部を刺されたこともあるとかなんとか……。
「あー、まぁ兄貴は取り繕うのは上手かったからな」
「だろうね。今もそんな感じだもの」
「だよなぁ。おかげで俺だけちゃらんぽらんにみられて困るんだが……絶対に生きて帰って来いよ」
「凜たちも連れてきちっと無事に帰って来るよ」
「そうか……で、なんで特務隊の話したんだ?」
「特務少佐の給料っていくらくらい?」
「おまえ……」
「流石に無いわ……」
クリスまで呆れた表情……俺そんなおかしなこと言った?
給料は大切だろ!




