解放
それから数日して俺達は解放された。
まぁサモナーミストは病気の媒体になるような類じゃないからな。
もっと悪辣なのがいるから何とも言えないが、軍の対応は正しかったとだけ言っておこう。
「それで、結局どうなったの。新装備」
「あー、大将が持って行った。データだけだからコピーだけどな。あと正式にシミュレーターのデータを買い取りたいって事で契約書にサインしてきた。今後は軍御用達って名目で学園でも使うらしい」
既存のシミュレーションも基本操作を覚えるために使い続けるらしいが、実戦向きを名目としたシミュレーションとして前線行きのパイロットにやらせたり、あるいは性格や能力の一部は前線で使い物になりそうなんだけど腕がいまいちってやつを鍛えるのに使うとか。
「で、どこ向かってるのよこれ」
「俺の叔父さんの店。機体をコンペに出したこととか親を通じで知ったらしくてな。前に乗ってたボロあるだろ、あれの代わりになる自家用ギアを用立てる代わりに色々情報教えろって言ってきてる」
「なにそれ、結局コンペはやり直しじゃない。一般のディーラーが口を挟める領分じゃないわよ」
「ところがどっこい、株の乱高下が凄いらしくてな。俺達は会社じゃないから何も問題なかったが、ワイバーン相手にいい所見せられた会社の株は急上昇、逆は言うまでもなくだ」
「なんていうんだっけそれ……インバウンド?」
「インサイダーな」
クリスのボケに対してツッコミを入れるが、もしかしたらマジで言っているのかもしれない。
こいつ座学の方は苦手みたいだし。
「良平は?」
「坂月重工のボンボンはリムジンでお迎えが来てただろ」
「凜は?」
「あいつは学校に寄ってから帰るって」
「じゃあなんで私はここに?」
「俺が聞きたいよ」
何故クリスがついてきたのかはよくわからん。
ただ「あんたと同じ車でいいわ」と言われてしまった結果である。
タクシーじゃねえんだから別々でもよかっただろうに。
機体の方は各種点検が終わってから学園に送られるようになっているらしい。
まだスサノオとツクヨミ改のデータ取りが終わってないという事だったので、車を用意してもらったのだ。
「で、ディーラーの叔父さんに株の情報でも流すの?」
「そんな事はしない。ただ単純に俺が見たギアの性能を知りたいだけだろうよ。あの人その辺のマニアよりギアに詳しいぞ」
デスゲーム始める前は車のディーラーだったが、その頃もそこら辺のマニアや走り屋よりもよっぽど詳しかったからな。
ついでに言うとクッソマニアックな車とか仕入れてた。
どこかの会社が作った整備性がカスで、ガルウィング使ってるせいで狭い所じゃドア開けられなくて、女性用にポニテを修めるヘッドギアがあるせいで首を動かしにくくて視認性が悪いという試作機しかないようなのも仕入れていた。
当然熟れてなかったけど、資産だけはあったんだよな。
金をどこから調達してるのかは怖くて聞けなかった。
「ふぅん、あんたがギアの改造に熱心なのもその人の縁?」
「血筋は感じるが、俺は別口。実戦向きが俺の好みで、その人はマニアック」
「具体的には?」
「速度と近接戦だけしか考えてないゴミみたいなギアを知ってるか。スピード&スクラップインダストリアルの」
「あぁ……社名通りになったアレ?」
「そう、スピード特化しすぎてナイフしか持てませんって言う機体作った会社」
ちなみにインベーダーの皮膚に傷つける事も出来ず、ナイフを振り抜いたら衝撃で上半身と下半身、それから腕と頭がとれたというまさにスピード特化のスクラップを作った会社だ。
一部の熱狂的なマニアが新型を買い、そして速度違反で捕まるまでがお約束の機体と会社でもある。
「あそこの機体はたまにぶっ飛んでるけど、基本的にはいい機体作るのよね」
「一部の開発者は絶対に変な薬キメながら設計図書いてるだろってなるけどな」
「でも軍用に作った機体はなかなかよ。少なくともツクヨミ改ほどピーキーじゃないもの」
「そりゃそうだ。あれは俺専用にしたからあぁなっただけだ」
というかスサノオ作ったのも俺とおやっさんってことを忘れないでほしい。
一応原形留めたからツクヨミ改の名を名乗っているわけだし。
……まぁ、原型と言ってもコックピットシートくらいだけど。
中身ほぼ別物だからね。
「じゃあスサノオの話とかはするの?」
「教えたら学園に突撃してくるぞ。ちゃんとアポ取ったうえで」
「……そこは良識的なんだ」
「常識人だけど非常識も兼ね備えた人物だな。行動力だけなら俺以上だと思う」
「……それは、恐ろしいわね」
どういう意味かは聞かなくてもいいや。
俺も大概やらかしているから。
「ついでにクリスからも色々話してやってくれよ。Lの家系から見た機体の特色とか、面白い機体とかの話」
「いいけど……私正式な跡継ぎじゃないのよ?」
「そうなの?」
「流石に父さんに比べて弱すぎるもの。もっと強くならなきゃ跡継ぎなんて名乗れないわ」
「じゃあ跡継ぎ候補は他に誰かいるのか?」
「んー、親戚筋なら何人かいるけど……」
歯切れが悪いな。
ちらちらこっち見ながら顎に手を当てている。
「うん、全員幸助はもちろん、良平より弱いわ。ともすれば凜にも追いつかれるくらいかしら」
「それは流石に言いすぎじゃないか? 凜は素人だぞ」
「才能はしっかりあるわよ、あの子。それに授業でも言われたでしょ、接近戦に持ち込める場面なんて限られているって。大半が良平に狙撃されて落ちるし、あんたの射撃でも落ちるわ。仮に接近できたとしてもあんた相手だと間違いなく瞬殺されるわね」
「それはどうだろ……」
俺も苦手分野はあるから、そこ突かれたらちょっとヤバいんだけどな。
「私より頭一つ抜けて強い程度よ」
「あぁ……ならまぁ、なんとかなるかも」
「ほらね?」
「となると、結局誰が跡継ぎになるんだ。躍起になってるだろみんな」
「それがそうでもないのよ。家の名を継ぐのが面倒っていうのが大半で資産目当てが多いわね。特に親戚筋の一人は私達と同い年だけど、重苦しい肩書あると誰かを口説く時に邪魔って言ってるわ」
「……それは極端だな」
「みんな似たり寄ったり。だから暫定的に私が跡継ぎになってるの。というわけで特訓手伝ってよね」
「なんで俺が……まぁいいけど、見返りになんか貰えたりするのか?」
「私があなたを婿にしてあげるとか」
「そりゃ魅力的だが……うん、海外はちょっとな」
凜と会う機会が減るの嫌だし。
「あら残念。まぁ半分は本気よ。適当に考えておいて」
「半分は冗談ってことで考えておく。まぁ特訓は構わないが……何がいい」
「対人戦。幸助と戦ったのって入試の時くらいじゃない? だからアレからどれくらい強くなったか知りたいの」
「わかった。じゃあ互いに専用機でやるか、それとも量産機でやるかだが……」
「両方!」
「おーらい。学業再開したら実戦の授業は全部相手してやるよ」
「もう一声!」
いや、結構ぐいぐい来るな……。
「そうだなぁ……放課後暇な時間とか?」
「いっそのこと部活とかどうかしら。どこかの部が機体やシミュレーター貸してくれたりとか」
「無理だろ。そういうの専門にしている部活だと俺達が割って入る余裕はないよ」
「むぅ……じゃあ私達で作るのは?」
「部活を? だとしてもすぐに機材は手に入らないだろ」
「そこは任せなさい!」
胸を張って応えてくれたが……不安しかねえや。
気が付いたら目標の10万文字超えてました。
キリのいい所までかいたら週間にさせていただきます。




