実情と浪漫
反省会が終了して、俺達は暇な時間を持て余していた。
仮にも前例の少ない個体によるインベーダー警報の爆上げに、コンペ中に乱入騒ぎとなればそりゃ上も忙しいだろう。
そう思っていたのも数時間前、既に日も落ち始めていた。
「……腹減ったな」
「そうね」
「でも軟禁状態……」
「だねぇ」
「出前は流石に無理か?」
「お兄ちゃん、ここ軍の施設」
「そうか……」
そう、コンペ会場に併設された……というかコンペ会場が併設された施設で俺達をはじめとする参加者は待機を言い渡されていた。
実質的な軟禁、裏も表もなく軍のいい分は「未確認インベーダーとの遭遇による健康状態の様子見」である。
実際その通りなんだけど、今後のスケジュールが一切伝えられていないので暇でしょうがない。
なんなら軍の施設という事もあって男女の区分けすらろくにされていないのだ。
クリスはどうでもいいが、良平が凛の着替えでも覗こうものなら俺はツクヨミ改のリミッターを全部外す自信がある。
血煙など生ぬるい、粒子のひとかけらも残さずこの世から消滅させてみせようぞ。
「誰か暇つぶしの道具持ってないか?」
「あいにく、電子機器は全部取り上げられちゃったからね」
「トランプとかの類もないわ」
「すぅ……すぅ……」
凜が寝息を立てている。
早くも諦めて睡眠に移行したようだ。
眠れるときに寝ておく、軍に入るなら重要な資質ではあるんだが……即断即決で即効過ぎる。
「もういい、不敬とか今後の事とか知らん! ちょっと内線で聞いてみる!」
そう言って部屋、というかテントに用意されてた受話器に触れた瞬間だった。
「食事を用意しました」
防護服を身にまとった集団がやってきた。
トラックで食料を運んでいるのだが、被災地とかで見る巨大な炊き出し用の道具がずらりと荷台に積まれている。
一人が前に出て、他の人は皿によそっていくだけである。
あまり接触しないようにしているのだろう。
「こりゃどうも」
「内線を使おうとしていたようですが、なにかありましたか」
「いえ、食事含めたスケジュールを聞きたかっただけです。あと僭越ながら、何か時間を潰せるような物が欲しかったのですが……」
「そうでしたか。では我が隊で使用している娯楽用品の提供と、必要ならば書籍の取り寄せくらいならばできますが……スケジュールは後程紙で用意いたします。日程までは流石にわかりかねますが」
「ありがとうございます。ちなみに電子機器は……」
「現在解析中です。明日には元通り皆さんの手元に戻る予定です。外の発電機で充電も可能ですね。テントの内側に配線を用意しておきます。Wi-Fiも完備ですよ」
「そりゃありがたい。ついでに問題ないならどっかから使い古しのシミュレーターでも用意してもらえると嬉しいんですけど」
「シミュレーターですか……流石に大物なので上に相談しないと何とも……」
「ですよね。ほら、あそこで寝てるの。アレ俺の妹なんですけど、まだ中学生でして。先の戦闘じゃオペレーターやってましたがまだまだ未熟なもんで色々教えてやりたいなと思ってたんです」
事実だ。
凜は確かに優秀なオペレーティングパイロットだが、それでも荒は多い。
反省会でめっちゃ攻め立てたけど、最低限のラインがそこなので嫌われようと俺はお兄ちゃんを遂行する。
あと付け加えるなら良平やクリスばかりが教え込んでてずるいと思ったというのは余談だ。
いや、俺はずっと設計図やOSと格闘してたからさ。
クリスが近接戦、良平がオペレート込みの射撃を教えるなら俺は機動戦を教えてやりたいなと。
サラブレッドでも作る気かと言われれば、英才教育だと返すぞ。
ついでにある程度ギアの整備もできるようになってほしい。
これは簡単だから覚えるのに時間はいらないだろうけど、重機の扱いを覚えさせるのにちょっと時間が欲しいなくらいだ。
特にパワーアーマー、着こむというより乗り込んで操縦するタイプの小型ギアとでも言えばいいか。
体長は2mちょい程度だけど、並の重機よりよっぽど使い勝手がいいんだよ。
戦艦とかの狭いスペースで作業するのには必須だからな。
その癖ギアより操縦が難しいというか、小回りが利く分ちゃんと制御しないといけない。
当然オートパイロットとかバランサーとかついてないからな。
更に言うなら出力と排熱、それからサイズの問題でインベーダーとの戦闘には完全に向いてない。
t単位の物を持ち上げられても、それはインベーダーの最小サイズの重量と変わらないのだ。
で、ギアクラスの出力を出そうとしたら中の人間が蒸し焼きになりかけたという実験結果もある。
おやっさん達メカニックとは、言いかえるならこのパワーアーマー専用のパイロットと言ってもいい。
なお排熱問題は完全に解決されたわけじゃないので、夏場は中で気絶する奴もいるとか。
「ちなみに今日はカレーです。明日の朝は汁物と焼き魚の予定ですが、アレルギーなどは大丈夫でしょうか」
「俺は問題ありません」
「私も大丈夫ですよ」
「僕もです」
「私も!」
いつの間に起きた凛。
「そうですか。血液検査の結果は明日まで待たないといけないので……一応超特急でやってるんですけどね、こればかりは」
「そこは承知しています。あ、ちなみに健康関係のデータだけ後で貰えたりは……軍にとって隠しておきたい部分は除いて構いませんので」
「上に伝えておきます。それとテントの方も増設しているので、明日には男女別れての休息が可能になります」
「それは助かります」
「お風呂の方は既に用意が進んでいるので、今夜中には男女別では入れるのでご安心を」
そっかぁ、今時はこういう状況でも風呂にはいれるのか。
ありがたいな、技術の進歩。
「ちなみに浪漫から聞きますが……」
「お湯はビームサーベルで沸かせてます」
「最高ですね!」
「でしょう?」
防護服の軍人さんが今日初めて感情を見せた瞬間だった。
いや、ビームサーベル風呂は浪漫だろ。




