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♤第十三話:俺にモデルのマネージャーなんて務まるわけがない♤





 「右代、ちょっといいかな」

 放課後の部室で、みやはそう問いかけたようだが、俺はそれに全く気が付かなかった。


 (・・・?)

 「おーい、右代ってば」


 「え?ああ、すまん」


 「―――どうしたの?今日はいつも以上に反応が悪いけど・・・気温が高いからかな?」


 「・・・俺を古くなったスマホみたいに言うのやめてくれる?俺だって実は、毎回結構傷ついてるんだぜ?」

 「――で、なんだ?さきに言っとくが、テトリスならやらないぞ。由々しきことに、古典の課題がまだ残ってるんだよ」

 



 「ごめんごめん」と感情のこもっていない儀式的な返しをしたみやに、提出期限が俺は今日までのプリントを強調した。


 「・・・それにしては、全然進んでないように見えるけど」

 「これは・・・ちょっと別に考えてることがあってな」




 「へえ・・・」

 みやは手持無沙汰そうに、椅子をキーキー鳴らしながら上半身の運動を始めた。

 

 「それって、咲菜のことかな?」

 俺は動揺を心の中だけにとどめておいたつもりだったが、みやにはバレバレだったようだ。彼女は「図星だね」と一言呟いた。

 

 「最近二人の様子がおかしいと思ってたんだ・・・喧嘩でもしたの?」

 「いや、別にそういうわけではないんだが・・・」


 咲菜のやつ、なにを怒っているのか、最近挨拶どころか、口もきいてくれない。俺は縁を切ろうなんて言った覚えはないんだが・・・。


 勘違い?いや、咲菜のあの感じ、やっぱり何かに怒ってるんだよな・・・。




 「まあ、謝るなら早い方がいいよ・・・女の子って敏感だからさ」

 「・・・・・」

 

 (謝るもなにも、あいつが怒ってる理由が分からん・・・)

 

 

 

 「まあ、じゃあ右代は今度咲菜に謝るってことで・・・ときに右代、きみにひとつ聞きたいことがあるんだけどいいかな?」

 

 「ん?ああ、質問なら別に構わないが」


 「・・・部員がボランティア部に、なにか頼みごとをするっていうのはOKなの?」


 みやから改まって質問なんてなにかと思ったが、その内容はある意味深いものだった。


 この問いに答えることで、いままで部員が俺一人だったこの部にとって、一つの活動方針が決まると言ってもいい。


 「それは・・・別にいいんじゃないか?俺たちだって部員である前に、一生徒なわけだしな」

 「そっか」




 「・・・そういえば、右代って文系科目得意じゃなかったよね?」

 「まあな、だから毎回課題には苦労する」


 「ふうん・・・それ、今日出さないと結構やばいだろうね」

 「そうなんだよなぁ・・・俺、前回もいろいろあって出してないし」




 「それはそれは・・・」


 みやはいつものクールさを保ちつつ、どこか笑顔をにじませ、小さく首を二、三回縦に振った。


 (なんでそんなにうれしそうなんだよ・・・)


 俺が苦しんでいるのを見て、楽しんでいるのかとも思ったが、どうやら違ったらしい。

 みやは少し課題を眺めると、「ああ、これか」とつぶやいて「手伝おうか?」と提案までしてきた。


 「え?まじで⁇」

 「うん、今日はちょうど仕事もなくなったし。なにより部員の危機だもんね」


 (なくなった?ない、じゃなくてか?)


 言葉の使い方に多少違和感を持ったが、俺も正直下校までに課題を終わらせる自信はなかったため、特に気にしないことにする。

 しかし、やはりこの決断が後に面倒を起こすことになるというのは、なんとなく予想がつくだろう。


 少なくとも、プリントをすらすら埋めてゆくみやを、ただ眺めている俺には想像ができなかったわけだが。





 「おお、がち助かるぞ」


 「気にしなくていいよ。その代わり、私からも右代に一つ頼みたいことがあるんだ」

 「・・・?」



 *・・・・・・・・・・・・*



 〈フォォーーン〉


 時々そう吠える鉄の箱は、三百キロ近い最高時速を誇るらしい。そうは言っても、車内はいたって快適で、窓からは朝日が映える海面をも覗ける素晴らしい乗り物だ。


 さて、俺がなぜ新幹線に乗っているのか・・・それは隣ですやすやと眠っている、インスタモデルに聞くのが早いだろう。

 まったく、寝ている自分を起こすのも、《《マネージャー》》の仕事とでも言いたげである。俺はそんな彼女に向かって声をかけ、覚醒を促す。


 「おい、そろそろ起きろよ。新幹線でリプ返?だっけか、するって言ってたろ?」

 「ん、うん・・・」


 多少の反応を見せるが、起きる気配はない。

 

 まあ確かに、朝起きるときとかも、こういう時間が一番気持ちいいんだよな。そう思いながらも、今度は彼女の肩を軽くゆすってみる。すると、みやの体が俺にもたれかかるようにすり動き、薄ピンクのきれいな唇が思わず視界に入る。


 目のやりどころに困った俺は、再び窓の外へと視線を移した。


 (はあ、やっぱり来るんじゃなかったか)


 大阪までただ、どころかバイト代まで出て、さらにまあ正当な理由ではないにせよ、学校もさぼれる。


 高校生にしては破格の条件に、思わず乗せられてしまったが・・・なんだかこれから、それ以上の忙しさが待っているような気がする。




 「―――だいたい、いくら担当のマネージャーが体調を崩したからって、同級生にそれを任せるものなのだろうか?」


 「・・・甘いよ、右代」

 「あ、やっと起きたのか」

 「ふああ・・・うん、ありがとう」


 「それで?俺をマネージャーに抜擢したのには、なにか納得できる理由でもあるのか?」

 「マネージャーっていうのは、私のことを把握して、代わりにいろいろ任せる人物だから。代役っていっても簡単に決められるものじゃないよ」




 なるほど・・・まあ一理あるかもしれないな。


 「だとしても、そこで俺か?もっと適役が居そうなもんだが」

 「まあそこは妥協なんだけど」

 「妥協なのかよ・・・」


 「でも、私はきみのこと結構信用してるよ」

 「あーそりゃどうも」


 (妥協云々がなければ、素直に喜べたんだがな・・・)





 「それで、今日の予定は頭に入ってる?」

 「ああ、一応周防さんから一通り連絡をもらったよ」

 周防さんというのは、みやの本来のマネージャーだ。彼女が予定を立てたり、いろいろと準備をしてくれているので、俺はその通りに動けばいい。




 「そっか、じゃあ二日間よろしく、右代」

 「ああ」

 (まあ、なんとかなるだろ)



 *



 ―――まったくをもって居心地の悪い空間である。



 大阪の事務所で準備をした後、俺たちは撮影スタッフや写真家と一緒に大阪城まで移動した。なるほど、これが大阪まではるばる来た理由か。

 聞けばみやが専属モデルを務める雑誌“リープリッヒ”では、近いうちに大阪特集が行われる予定らしい。そりゃたいそうなことで。


 しかし、なにもこんな「ザ・大阪」の観光地で撮影しなくてもよいのではないだろうか?大がかりな撮影セットに周りから好奇の視線が常に浴びせられ、ファンからはサインや写真撮影を求められる。

 

 俺はまがりなりにも、改めてみやが有名人であることを実感する。

 

 (やっぱマネージャー大変だったわ・・・)

 

 こんな状況、早く終わらせたいと思うだろ?しかし、そうもいかないらしい。


 どうやら癖の強いカメラマンを引いたらしく、注文の数々にスタッフが戸惑っている状況だ。ここ以外にもあと二か所あるっていうのに・・・時間もだいぶ押している。


 「うん~そうだなぁ・・・なんか違うよなぁ。髪型変えてみよっか、みやちゃん。スタッフ~、青いリボンでいい感じにまとめてくれる?」




 「青い、リボン・・・ですか?」

 カメラマンの要望に、あからさまに動揺するスタッフ陣。


 「おい、どうした?まさか持ってきてないんじゃ・・・」

 現場監督が叱責するように若いスタッフを問い詰める。

 「すみません・・・ヘアゴムやセット用の道具も一式持ってきたんですが、リボンは・・・」

 

 まあ、常識的に考えて、いきなり打ち合わせで決まったモデルの髪型変えようとは思わないよなあ。


 ―――しかし、芸術家を相手にするのだから、それくらいは想定しておくべきとも言える。

 



 「あの、事務所にあったアクセサリーケースなら一応持ってきましたが」

 俺は車からアクセサリーケースを取り出すと、スタッフに手渡した。

 

 「おお!助かったよ、榮倉君‼」

 

 「いえ。あと、一度休憩をはさんだ方がいいかと。時間も押していますが、みやもああしてずっと立っていますから」

 「そ、そうね」

 

 いちマネージャー、しかも代理なのだが、俺の提案はずいぶんすんなりと受け入れられた。


 ずいぶんバタバタしているが・・・あのカメラマンも俺と同じで今日が初見なんだろうか?




 「・・・ほら、水だ」

 「どうもありがとう、右代」

 「似合ってるな、それ」


 「・・・本当に思ってる?私はそんなにだと思うんだけど」

 「いやほんとだよ。もっと自信持てって、まあ、俺も前の方が良かった気もするが」


 「マネージャーとして、一言余計だと思うけど?」

 「臨時だからな・・・それにしても、あのカメラマン、いつもあの人が撮ってんのか?」

 

 「さあ?実は私も大阪で撮影するのは初めてだから」

 (そうだったのか)

 

 「それにしても、結構活躍してるね。さすが私の選んだ代役マネージャー」

 


 「そこに関しては、俺が活躍しているというか、なんというか・・・」

 俺はこうしている今もどたばたと動き続けている撮影スタッフ陣を一瞥した。

 

 「ま、頼まれたからには完遂するのが俺のポリシーだしな」

 「それ、前も言ってたね」

 「そうだっけか?」

 

 

 

 そんな他愛もない話を続けていると、現場監督がこちらに近づいてくるのに気が付いた。どうやら彼も手持無沙汰の様だ。


 「いや、待たせてすまないね、二人とも。カメラマンの秋野さんの要望がなかなか難しくて・・・しかし、榮倉君の機転には驚かされたよ。みやちゃんとも仲がいいみたいだし・・・いっそ本当にマネージャーになっちゃう?」

 

 彼からもみやと同じように賛辞の言葉を受け取る。俺としては、ただ早く終わらせたかっただけで、特別なにかしたつもりはないのだが。


 「いや、お気持ちはうれしいですが、俺はまだ高校生ですし・・・それにマネージャーなら周防さんがいるでしょう?」

 「はは、確かにそうだ。彼女に怒られるな、いまのは忘れてくれ」


 「じゃあ、専属の付き人として雇ってあげてもいいよ」

 

 「絶対にお断りだね」

 「そう?右代はそういう仕事と、結構相性良いと思うんだけど」

 

 「合う合わないの問題じゃないだろ・・・」

 「ふうん、そっか」


 少し残念そうにしながら、みやは再び撮影へと戻っていった。


 (・・・まさか、本気で誘ってたわけじゃないよな?)


 普段表情を崩さないだけに、彼女の些細な変化も気になってしまう。

 まあ、だとしても、こんなハードワーク当分御免だ。そうだな・・・もし次に雑誌が北海道特集をすることになったら、そのときは雑用係として帯同してもいいが。



 *






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