36 『造形』しましょ。そうしましょ
「それが、この魔石?
『サンダー』持ちえげつないわー。森林破壊しよってからに」
夕御飯のあと、図書室で魔石を加工していると、ヨウルと一緒になった。
何時ものように情報交換すれば呆れられる。
無精してトレント魔石を、魚でも入ってそうなトロ箱で積んでいたオレが悪い。
いや、ちょうどいい箱がこれしかなくて。
「わたしもやってしまったと思ったが、建材を卸したら喜ばれたぞ。森は一晩で元通りになるそうだし、現在建築ラッシュだし」
「えー。これだけ乱獲してもか」
これだけ乱獲してもです。
「沢山狩った気がしたが、要求量にはまだ足りないんだ。尽きない資源は頼もしいな」
「あー、白玉用だよな。悪い」
「うちでも使い始めたからついでだ。それに作る先から売れるから、ダンジョンの運転資金用に稼がせて貰っている」
ダンジョンマスター用寄付金を独りで使ってしまうのは忍びない。ぼちぼち補填していきたい所存。
「なら、いーけど。
そーいや、出先でクレープをしこたま買い込んできたけど、おやつ何かと交換する?」
よしきた。
「しよう。甘いのなら、シュークリーム。しょっぱいのなら唐揚げ、コロッケが出せる」
「オレ唐揚げな!
あとシューと、コロッケは5つずつ欲しい」
ヨウルなら肉か、やっぱりな。
「1袋500グラムなら、いくつ欲しい?」
取り敢えず試食用にとお盆の上で1袋開けて、爪楊枝を刺す。
「やっぱり鳥肉しか勝たん」
もぐっと一口。ヨウルは重々しく宣言する。
ニンニク抜きで生姜たっぷり。
揚げたての熱々の唐揚げは、白い米が恋しくなる。あと飲み物。
ここは塩握りに海苔を巻いたのがいいなと、もうひとつ盆を出して乗せておく。
夕飯の後でも魔力をがしがし使うから、揚げ物、炭水化物も余裕でぺろりだ。
「唐揚げは3、いややっぱり4袋欲しい。あとお握りも余分あったら!」
ずっしりとした大箱4つ渡される。この重みからして、詰まっている。
「多くないか?」
「いーの、いーの。リュアルテはいっぱい食べておけって!
白い箱が甘いので、緑の箱がおかず系な」
ヨウルは軽快に唐揚げを減らしていく。
よし、気休めにリンゴジュースも出してやろう。人参とかも入っているやつ。
オレはただの麦茶にするけど。
「よし、ではわたしもサービスだ。他にナゲットとポテトと蓮根フライらも入れておく」
メンチカツとか牛蒡スナックとか。
フライヤーの試運転をしてたから、ついつい買い込んでしまった品だ。
いいオイルで揚げてあるから美味しいぞ?
「いいの?やったー!」
お互いに『体内倉庫』があると出来立てを交換できて嬉しい。
「オレも今日はここでやろーっと」
ヨウルは魔石の他に金属の塊を取り出した。
虹色がかったそれは、生体金属特有の煌めきだ。
「なにをするんだ?」
「生活スキル用のピンバッジ制作。そのまま発動媒体になるから、生体金属のは簡単よ?
この『洗浄』が『エンチャント』してある魔石をこう『造形』で、うにょーって爪のとこで固定してー、あとはピンと止め金作るだけー。
ほら、ポイントカードの景品用にするやつ」
「ああ、例のか。もう生活スキル覚えたのか?」
ヨウルは生活スキルなかったはず。
「まだ練習中。これはエンフィに外注したの」
生体金属がヨウルの魔力に融かされて、変形するのが面白い。ついじっと見入ってしまう。
【クエスト報酬】
クリア報酬がまだ受け取られていません!
ヨウルの『造形』をコピーしますか?
あー、あったな。そんなの。
スキルを教えて貰うのがトリガーなのか。
ここは【はい】だ。
メモリ消費は5。それならとるべき。
「いま、教えてもらったらスキル生えた」
「おめ!簡単な無料レシピいる?
ギルドとかに行けば誰でも見れるやつだけど」
「是非頼む」
手帳を見せて貰えたのでそのまま書き写していく。
んん?
なかなか読み終わらないし、自動書記も時間が掛かる。そう思ったら、いま作れる無料レシピだけでも5000種以上あった。
……ヨウル自分でこれを調べたのか。勤勉だ。
これ自動書記がなかったら、大変だったな。ざっとした斜め読みでも、きちんと書き込んでくれるの本当に助かる。
生産道は果てしない。
その一端を垣間見てしまった気がする。
なにせ、毎日日記をつけているのに、手帳の収集率が埋まらなくて。
0.1パーセントから動かないのってバグ?
そういぶかしんでいた数字がようやく壁を越えて0.2パーセントまで上昇したからして。
バグじゃなかったのか、そっかぁ。
情報が激しく足りなかっただけか。
これは時間が掛かるぞ。
書き込みの途中だけど、先にMPを消費してしまいたい。
「ヨウル、また後で見せて貰ってもいいか?」
「いーよ」
ヨウルは唐揚げをモシャモシャしながらピンバッジの量産を始める。
その横で美人秘書のヘンリエッタ女史が『検品』、『洗浄』をしてから化粧箱に箱詰めをしている。
これだけ魔石を扱ってると感覚が麻痺するけど、秘書さんの白手袋と化粧箱を見ると貴重品扱いなのを思い出すな。
ものを食いながら作業するなと言われないのはそれだけ魔力を使うからだけど、なんとなく申し訳ない気分になる。
「教官、生体金属って取り寄せできますか?」
「ヨウル用のが在庫あるな。一番手軽のでいいんだろ?」
ゴトゴトとインゴットが並べられる。
「あ、それな。『精製』で純度上げるとなんか作りやすいっぽいぞ?」
ほほう。いいこと聞いた。それは試行錯誤しがいがありそうな。
粉が落ちてもいいように作業用のトレイを引き寄せ、よし『精製』。
んー。確かに邪魔そうなものがあるな。
ぺいっと排出。
こんなもんか?
見た目はあんまりかわりないけど。
「お前さんらはまたそんな、贅沢なスキルの使い方をする。査定する身にもなれよこん畜生。
道理でやたら道具の質が良かったはずだわ」
「教官ー。たぶんオレらのスキルって金属加工とかに向いてませんっすかね?」
「雫石を『加工』出来るスキルだぞ。向いてるに決まっとるわな」
つまり『加工』さんは色々兼ねている上位スキルだと。
木材を全部査定してしまったのは失敗だったか。いや、どうせまた直ぐ魔石が足りなくなるからその時でいいか。
んん?
違った『魔石加工』だから木材は範囲外か。早とちりだ。
生体金属は魔石に近い性質があるから『魔石加工』が通ったわけだな、そうか。
武具も生体金属だと他より『エンチャント』のノリがいいもんな。
納得したところで、白玉の魔石を『精製』する。
そして『洗浄』を『エンチャント』。
ここまでは慣れた作業だ。
スーツに付けても良さそうなピンブローチのデザインレシピがあったので、それを使って『造形』する。
オルレアの花といったら白だけど虹がかった銀色でもいいよな。
生体金属は金属のように強度がある。そして光沢もしなりもあるが、生物由来の物質だ。
なので人体に触れてもアレルギー反応は出ないし、錆びないが、金属が溶けるような高温に晒されると燃えて灰になるし、長時間魔力に触れないと朽ちていく。そんなファンタジー素材だ。
オレが選んだピンブローチは、銀のオルレアの花の下に魔石が顔を覗かせている複雑なデザインだ。
なのにヨウルが言った通り、レシピそのままの物作りは簡単だった。
『造形』は感覚として、3Dプリンターの出力と、プラモデルの組合わせだ。
初めてだけど、これは上手に出来たのでは?
いいな『造形』!面白そうだ。
「難しくなるのはオリジナルデザインからか?」
「そうそう。線が!歪む!『製図』が欲しいー!」
「まずは『計算』からだな。頑張れ」
「へーい」
「教官。針蜥蜴の魔石ってありますか?」
「あるぞ。サリーにか?」
赤い魔石をゴロゴロと渡される。
そのサリーはジャスミンに確保、連行されての飲ミニケーションだ。存分に羽根を伸ばしてくるといい。
「そうです。裸石とアクセサリーにしたのを幾つか作って選んで貰おうかと」
『精製』して、次はいつの間にか覚えていた『加工』系スキルの『圧縮』を掛ける。
すると、うずらの卵ほどの大きさの石が小豆程度のサイズになった。
石の色合いもより深い赤に変わる。
よし、これなら大きな石で野暮ったいってことにはならないだろう。
1ダース渡された石を同じように『加工』して『魔力の心得』を『エンチャント』していく。
一端手帳に取り込めば、ステータスからもレシピが見れた。
つつっとスクロールしていく。
へぇ、自分で作ったとものはスクショして画像を取っておけるのか。コレクション集めるの好きな人には堪らんな。
魔石の弾ごめは単調な作業だったから、レシピを選ぶのは心が浮き立つ。
特に宝飾品は造形が凝っていて目の保養だ。
サリーはゴテゴテしたの苦手そうだからピアスとか、シンプルなのを中心に………あ、これ鎖と留め金の形が面白い。
これも作ろう。
スカルチェーン、こんなのもあるのか。禍々しいな。絶対選ばないだろうけど、作ろう、作ろう。
薔薇デザイン。似合いすぎるな。よし、これもだ。
ドラゴンリング!超格好いいけど、これをつけるには勇気いる!
これは作っておかないと。
さて、どれを選んでくれるな。
遊び過ぎたから、ルースのままがいいですときっぱりやられてしまうかも。
ありえる。サリー、クールなところあるし。
……。
やっぱり、大人しいデザインのも入れておこうっと。