37 レベル5野良ダンジョン
10日目の今日は畑を造る。
………なんか今までで一番簡単だった。
廊下と階段以外は土だし。ホースで散水出来るように水道と、根腐れ対策に土の3メートルくらい下に1メートルの砂利の層を敷いたことくらい?
「よい土ですねえ。黒くてふかふかで団粒構造もしっかりしている。
豆や堆肥で土づくりからの予定だったんですけどねえ、まいっちゃうね。どうしようかなあ」
畑班のリーダー、オギさんは困り眉をいっそう下げてニコニコしている。
「土の酸度はph6.2。トマト、きゅうり、大根、カボチャ、キャベツ。使い勝手がいい野菜が好きな塩梅だ。これはいい。
一通り試してみますんで楽しみにしていて下さいな」
オギさんは柔らかな物腰で押しが強い。
有無を言わさず畑エリアから追い出されてしまう。
農作業手伝う気満々でいたのに!
「すいません。オギは悪いやつではないのですが如何せん不調法もので。
あれで育てる野菜は格別なんですよ」
お前らもう用済みだと、一緒に追い出されたオルレアが頭を下げる。
「いや、待ち望んでいてくれたみたいで良かった。落ち着いた頃に話をしようと伝えてくれ」
オギさんはアレだ。
野菜の病気は一目で見抜く癖に、娘の盲腸はまったく気付かず離婚寸前になった母方の伯父の匂いがする。
どうしよう。あの手のタイプは断固とした態度が必要なのに、困り麿眉の柴犬とか卑怯だろ。オレはオギさんに強く物申せないかもしれない。
オギさんは声からして結構なおっさんだろうけど、ビジュアルが強すぎる。
くるりと巻いた尻尾とか、愛らしすぎやしないか?
1階の応接室に通される。前は何もなかった部屋だ。
アースカラーの内装で、教官が座ってもものともしないソファーセットが設えてある。
この世界、【ちょっと大きい】人も多い。数字で言うなら220センチ越え。
「どうぞ」
オルレアは手ずからコーヒーをサーブしてくれる。
お茶請けは某老舗国産チョコレートメーカーの定番商品だ。
そういや企業進出してたな。もうここまで浸透しているのか、流石は老舗。
「オープンしたてで物珍しいということもあるでしょうが、温泉も好調です。
通常営業は朝10時から夜10時までで、バーベキュー場、豆とキノコのフロアと同様ですが、温泉は以前に相談した通り10時から12時の間は獣人専用として営業させて貰ってます」
「従業員だけではなく?」
「毛が多いとどうしても湯船を汚してしまうので、獣人には評判いいですね。
夜遅くでも源泉のかけ流しで湯は綺麗ですし。
風呂場は朝にダンジョンリセットがあるのが、やはり気兼ねがないです。
従業員はバイトを含め夜間は無料でいいってお話でしたから、有り難く使わせて貰ってますが本当にいいのでしょうか?」
「問題があっただろうか?
なければ好きに使ってくれたらいい。その代わり、これぞという要望が出たら報告を頼む」
存分にリピートして問題点を探して欲しい。
「畏まりました。
温泉フロアの開設に伴ってマッサージの組合から誘致の声がありましたが、お受けしても構いませんか?」
「オルレアから見ていい話なら」
「はい、とても。では、そのように取り計らいます。
次に増設する食肉用フロアですが、こちらはお客さまを入れないのでしたよね?
バイト以外でも研修生を入れても構いませんか?」
「研修生とは、どのような?」
「『解体』スキルや料理スキルを上げたい戦力外の子達です。いずれはこちらに務めさせたいのですが、まだ修行が必要で。
食材やらのロスが増えると思いますが、スキルは人生の宝ですので」
「大歓迎だ。怪我のないよう世話をしてくれ」
「それと、こちらでは白玉狩りはしないのかと問い合わせが……………」
疲れた。
いや、なにもしてないけどさ。
頭がパンクしそう。報告受けているだけなのに気力が尽きた。
甘いチョコレートが染みるわぁ。
体を動かすほうが、向いているんだよな、性格からして。頭脳労働は苦手だ。
「お疲れさまです」
「いや、任せてしまってばかりだ。
いつもありがとう。オルレア」
あっぶね。忘れて帰るとこだった。
桐箱を取り出す。
「これはオルレアに」
「…開けても、宜しいでしょうか?」
「ああ」
「これは、オルレアですね」
オルレアはハートが2枚重なるような花びらの可憐な花だ。
「『造形』を覚えた時、初めて作ったんだ。
レシピ通りにしたから、可笑しい出来ではないと思う。
精石には『洗浄』が『エンチャント』してある。オルレアが『洗浄』持ちなら誰かにあげてしまっても構わないから」
そういうことでボーナスです。
報告だけ聴いてもオルレア目一杯働いてるわ。作っといて良かった。
「とんでもない!大事にします!」
「本当は欲しいスキルで作れたら良かったのだが、このレシピはオルレアだって気がついたら作りたくなってしまってな。
なんなら石を変えてもいいんだぞ?
同じ『洗浄』ツリーでも『洗口』とか」
「いいえ、これがいいです」
オルレアは胸元にピンブローチを刺す。
黒い背広に銀色の装飾が華やかだ。
「どうでしょうか?」
「うん。オルレアは可愛いから花が似合うな」
でっかいけどサモエドは愛らしい。
「リュアルテ」
教官にそおっと小突かれる。
「お前さんはそうやってその気もないのに人を口説くな!
オルレア、すまんな。
こいつ、見ての通り子供なんだ。全般的に」
「はい。いいえ、はい。
……少し動揺しましたが、悪い気分ではありませんよ?
私だって女ではありますから、醜いと唾棄されるよりも可愛いと思われたいですし。
ただ、マスターは罪な男になりそうですね」
オルレア女の子だったんだ?!
つい、凝視してしまう。
そりゃ教官よりはスマートで、背も低いけど!2メートル越えてるじゃん!
クラシカルなスーツ姿も様になっているし!
「はい、女ですよ。お気づきではなかったようですので、黙ってましたが。
他種の方はよく間違われるのでそういうものです。
ですが、たまには間違われてみるものですね。おかげで素敵な贈り物を頂けました。
流石にマスターも女性に装身具を贈られたりはしないでしょう?」
「……よし、給料以上に働いてくれるうちの子はボーナスに装身具を贈ろう。そうしよう」
うん、最初からそのつもりだったし!
ウソじゃないよ、ホントホント。
「駄目に決まってるだろーが。精々、社内割引で得に買えるぐらいにしとけ。
サリーやオルレアはお前さんの側近だからいいが、他の連中に渡してみろ。愛人候補になっちまうぞ」
「そうなのか?」
「ふふ、はい。そうですね。
『エンチャント』してある装飾品を買えるなら、皆の励みになりますよ?」
「そんなことがあってだな。獣人の見分けって付くものなのか?」
【ノベルの台所】から直行で、ギルド前広場で待ち合わせだ。
先に来ていたヨウルとエンフィに相談する。
「オレに聴いてもわかるわけないだろ」
「それよりも差し入れは消えものの方がいいだろう!
アクセサリは重いのではないか!」
「『エンチャント』した道具なら便利だし、スキルも覚えるスイッチになるしでいいと考えたんだが」
「心情じゃなくて値段もでしょ。趣味じゃないブランドもののアクセとか処理に困るわ。オーナーからの貰い物を古物に売れるタマの子ばかりじゃないでしょーに」
痛い、正論が痛い。
「『造形』が、楽しくて、つい浮かれてしまった。『精製』とか、わりと単調だったから」
「わかる!独りでやっていると空しくなる!」
「独りって言えばジャスミンは?」
「今日はまだ寝ている日らしい!サリーさんもだろう?」
「そうだな。8日のうち3日起きられたらいい方だと聞いた。わたしも最近は起きれているが、少なくなるリズムもあるだろうな」
「ヨウちゃん!みんな、おまたせー!」
「おう、おは。いっぱい寝たかー?」
「アリアン嬢はどうした?」
「今日はねてる。起きない日みたい」
「おう、揃ったな。今日は軍とその予備役の冒険者と共同で、レベル5野良ダンジョン4Fでの下草刈りだ。
一般的な冒険者の活動を見学してくれ。
お前さんらの作業としては主に休憩所で作業員に『ヒール』やらバフを盛ることになる。
後はレベル5ダンジョン内4Fまでに沸いた0レベルダンジョンの沸き潰しだ。
野良ダンジョンは何が起きるかわからんからな。絶対独りで行動しないように。特にヨウル」
「わざとじゃなかったんですって!」
ヨウルの弁明。
そうか、なにかやらかしたんだな。後で聞こう。
教官の訓示が終わると、そそっと寄ってきたメイドさんらに囲まれる。
今日は6人1班の3班体制だ。
保護者が付いているのはオレだけではなく、クロフリャカ嬢は村メンバー冒険者のグループが囲んでいるし、エンフィはガチガチ軍人さんメンバーが、ヨウルは若手の冒険者グループが側に居る。
…人、多くないか?
気軽な感じで来たけれど、大事っぽいぞ?




