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101 称号の可視化



 散々飲み食いして、歌って、露天を冷やかして。

 夜になってからは花火も上がった。

 枝下た柳のような金の花が夜空を彩る。


 ロケット祭は火祭だ。

 夕暮れともなると、あちこちでかがり火が焚かれ、今日のために『調合』された香が甘やかに香った。


 組まれた櫓には炎が灯り、ナノハナでも護符付きの富くじが悲喜交々、盛大にお焚き上げされている。

 これらの発表は昼間にあった。

 うちの子に配った富くじは、当たりがでたりしたんだろうか。

 お祭りだ。一喜一憂を楽しんでくれたらいい。


 空気に浮かれたオレなんて、瀟洒なガラスのランタンなぞを、使う機会もないのに買ってしまった。


 ロケット祭は昼間は健全に騒いで、夜は恋人や夫婦が仲良くするのが基本だそうだ。

 でも夜が浅いうちはまだ、子供の姿も多い。そしてあぶれた独身男どもがいたるところで自主的なビアガーデンを形成している。

 その一方。灯籠やぼんぼりがいたるところに飾られて、夜を幻想的なものにしていた。


 もっとも見惚れてボンヤリしていると、横から跳ね踊るネズミ花火に襲撃されるので要注意。

 今季のナノハナの流行は、動く花火だ。


 広場で数百の火ネズミをいっぺんに走らせるとか、馬鹿なの阿呆なの。

 足に当たってもゲラゲラ笑いこけ、気にもとめない冒険者どもよ。

 チビッ子が真似するから止めて欲しいって……ちょっと楽しそうだよな?

 オレも仲間に入りたいなー。とそわそわしているのがバレたのか、サリーに手を繋がれてしまう。

 手を繋ぐと大人しくなるって、バレているな、これは。

 リュアルテくんは純情ぞ?

 利用するのはよくない、サリー。


 まだ外は賑やかだが、日が完全に落ちてしばらく経てば、もうこれからは健康な大人たちの楽しむ時間だ。

 良いムードが目の毒だからと、オレらは早々に退散させられた。


 夜はテルテル教官にあてがわれた部屋で、それぞれ別れてプライベートダンジョンに引っ込むことになる。


 アスターク教官?

 熊さんは新婚ほやほやの奥さんいるから、周りの配慮があって帰された。

 結婚一年目のクリスマスやバレンタインを、仕事で顔も見せないとかね。不味いよな?

 いいお祭りを過ごして欲しい。


 しかしヘンリエッタ女史とヨウルって仲良しだけどさ。どういう関係なんだろうか。

 オレとサリーぐらい仲良しだったら、吃驚だけど。


「それでは教官、おやすみなさい」

「うん、また明日ねえ」

「オレら朝はゆっくりかもー」

「わかった。おやすみ」

「おやすみなさいませ」

「よい夢を」



 作成時に、サリーの薬草園は昼夜をつけた。


 『ライト』を浮かべて敷石を踏めば、緑が香る。

 祭で買ったランタンが、意外に役に立ってしまった。

 中に『ライト』を入れると、色ガラスが光の蝶の群れを描き出す。


 サリーの手によって薬草園は少しずつ整備されて、着々と草木を増やしていた。

 その緑の茂みに光の蝶が散る。


 休憩用のテラスデッキを指し示す。


「風呂の前に外のテーブルで石を弄っていてもいいか?」


「こんな日にもお仕事ですか?」


「いや、遊びだ。大公殿下に、面白い『魔眼』を付与して頂いただろう?

 それで、サリーを一番に見てみたくて。夜になるのを待っていた。

 ……いいか?」


「構いませんが。いえ、私にもリュアルテさまを見せてくれるなら?」


「そうこなくては」

 『魔眼』と言えば、第三の目。サークレットにでもしてしまうか。

 石の格が高いから、生体金属も一番良いのを使ってしまおう。

 うーん、『魔眼』か。

 『魔眼』なら、ウジャトの目とか?

 だったら、デザインは蛇かな。連想ゲーム的に。

 つつつと、デザイン帳を検索していく。


 よし、こいつにしよう。蛇が可愛い顔している。サリーにも身に付けさせるんだったらあまり変なやつも嫌だしな。

 グリグリと3D画面を上下左右、回して確認。よしと頷く。


 サークレットは艶消しの金の木の枝の輪っかに、銀の蛇が絡んでいるデザインだ。

 それで嵌める石が赤だから、華やかな美貌のサリーには似合いそう。オレには微妙だけどいいや。サリー優先。

 丁寧に下処理した生体金属で、うにょうにょと『造形』をしていく。

 サークレットなら、曲がりに強くて、よく伸び縮みしてくれる生体金属がいいよな、やっぱり。フリーサイズで使いたいし。


 んー。こんなもんかな。

 海で大物作ったあとだと、『造形』ツリーの『形状記憶』やら、色々混ぜて作ってもMP消費が軽く感じられるな。


「終わりましたか?」


「うん。早速いいか?」

 どうぞ。と許可を貰ったので、わくわくと嵌める。



 サークレットに魔力を通した途端に、見える世界が変わった。

 その姿に息を飲む。


 『魔眼』で見たサリーには、大きな角が2本あった。


 踝からは、雲かオーロラのように光の渦が吹き出している。だからか、足元の影が濃く暗い。


 肩から腕にかけては盾のような、鎧のような、銀翼の装甲の幻影が重なった。


 サリーは数種のキメラだ。

 『転変』した姿は狼のように精悍だったが、称号を纏うそれは他の種族の影響が強いようだ。


 角は。

 そう、これは竜の角だ。

 しかも木竜。


 木竜系の鱗族なんて存在したのか。寡聞にして知らなかった。


 大きく枝分かれした真珠色の角は先端に銀の葉や若芽を付けている。

 もしこの角が成長し花が咲くとしたら、銀の花に違いなかった。

 ふしくれだった角の幹には、幾つものリングや宝玉が嵌められている。

 この宝玉こそが称号だ。


 それは目を凝らし、読み取ろうと思えば紐解ける。

 サリーを飾る幾重もの栄誉、寄せられる称賛。

 あるいは失敗して、失ったもの。

 サリーの影に散る暗い星は、掴めなかったものの写し身だ。

 それは数少ないものではなく。


 そして。


 影の中には、蛇も住む。暗い眼差しでサリーをひたりと見詰めていた。

 その冷たい悪意。


 彼の辿ってきた道が平坦なものではなかったと、それらが囁き教えてくれた。


 普段はけして目に見えぬ努力や苦労が、そう、つまびらかに可視化される。

 ああ、なんて。目映い。


「綺麗だ」



「大丈夫ですか?」


「ああ、うん。佳いものを見た。…大公に感謝しなくては」

 くらりとして、サークレットを外す。

 情報量が多すぎた。


 感動に、心臓がとくとくしている。

 どうしよう。

 サリーはとても素敵だということに、今さらながら気付いてしまった。


 大公が恋多きとされるわけだ。

 こんなものを生身の目で見せられて、他人に好意を寄せないのは難しい。


 しばらく目を瞑った。

 蛇の情報を忘れないよう心に留める。


 …思わぬところから、伝手が出たな。


「私も拝見してもよろしいでしょうか」


「ああ。…わたしが、サリーに嵌めてもいいか?」

 気を取り直して、接触を増やしていこうキャンペーンだ。

 無言で触れるとサリーがぴゃっとなってしまうから、許可をとってのレッツトライだ。


「はい。お願いしますね」

 照れて、はにかむ。

 うん、可愛い。いつものサリーだ。

 良かった。さっきの姿は、心臓に悪い。



 そっとサークレットを嵌めると、ややあってサリーは目を見開いた。


 数歩、下がり、上から下まで、視線が動く。

 そのまま、ぐるりと後ろに回って、頭より大分上の方や、離れた地面までじっと見詰める。


 オレ、どんな風になってんだろ?

 範囲広くね?


「サリー?」


「は、すみません。…なんていうか、衝撃的で」


「分かる。サリーのは、幻想的だった」

 まるで神代の生き物のように、美しかった。


「とんでもない。

 リュアルテさまに比べられるものではありません。

 嫉妬しますね。

 大公は、貴方のこんな姿を既に見ていたなんて」

 どんな姿だ。

 えっ。脱いでいたりするの?


「恥ずかしい姿なんだろうか?

 だったら、サークレットを外して欲しい」


「まさか!

 月光紡ぐ宝冠に、地面にまで広く波打ち揺れる守護のヴェール。

 それだけでも目が潰れそうですのに、リュアルテさまが歩くと、足跡から光の花がぽうっと咲いて。

 まるで月の世界からお出ましになったような麗しさですよ」

 なんかのパレードか、SFチックにピカピカしてるんだろうか。

 そういや、かぐや姫って日本最古のSFだって聞いたことがあるぞ。


「それは賑やかなことになっているな?」

 こうなると他の人のも見たいものだ。

 自分では自分の姿が見えないのは残念だけど、そんなもんだろう。


「ああ…無念です。スクショには写りませんでした。写真に残ったら家宝にしますのに!」

 そんなに悔しがらんでも。

 でもサリーのだったら欲しいから、人のことは言えないか。



「リュアルテさまが成人の暁には、この目を使ったまま、そのままの貴方を見せてください」


 ……。


「…その。御手にも見事な紋様が入ってまして。それの続きがとても気になりまして」


 おっ、驚いた。

 一瞬、呼吸が止まったわ。


 リュアルテくんはオレよりずっとウブなんで、サリーは刺激が強すぎる。






「称えよ、雛よ。団体戦は我の勝利よ!」

 トロフィー代わりの景品を掲げ、高らかに笑う大公は今日もお元気だ。


 そんな41日目。

 団体戦のレースも終わり、オレも趣味の一仕事を終えたところだ。


「おめでとう御座います、おじさま。

 それと昨日はお酒を召し上がらなかったのですか?

 酒保のものがカザンの方々のお気に召すものがなかったのかと心配しておりました」


「これから呑む!酒は勝利してから浴びるものよ!」

 それは健全な。


「なるほど。大人になったら、見習わせて頂きます。

 …時に、おじさま。おじさまの目を使ってみました。

 おじさまの世界があまりに美しくて、くらくら目眩がしてしまって。ほんの少しだけですけど」


「良いものだろう?」

 大公殿下は、にっと笑う。


「ええ、とても。おじさまは、どんな風に見えるのですか?」

 なにせ当事者だ。

 ふと、気になったので聞いて見た。


「見たことないからわからん!

 気になるなら見てもいいぞ?」


「ええと。

 …………それではお言葉に甘えて?」

 お偉いさんなのにいいのかな?

 まあ、でも許可は貰ったし。


 おっさんもなにやらワクワク顔だ。そっか、自分で見れないならそーなるか。


 サークレットを嵌めて大公を見る。



 すると大公の隣には、一柱の神さまがご降臨されていた。



 空から鉄の天蓋が降りている。

 その方と大公を取り囲み、地面を五角形に柱が立つ。


 きらびやかなのは、天高く突き上げる形の王冠だ。

 称号たる宝石をタイルのように敷き詰めて、冠は目が眩むほどに光輝く。


 王冠からは優雅な歩揺が、曲線を描き、幾重にも伸びて華やかだ。

 その豪華さを引き立てる黒髪は腰まで流れ、白くほの光るベールによって半ばほどは隠される。

 その人はなんの理由か目隠しをして、口許にあるかないかの微笑みを浮かべていた。


 よく鍛えられた体を包むのは、ゆったりした白絹の服だ。

 その姿は典雅で、柔らかそうな布の靴を履いている。


 でも、やはり目立つのは、白いベールだ。

 まるで周囲を守るように海のように広がって、その裾をダイヤモンドの様に光る無数の石で飾っていた。


 ただ、下から延びる影も濃い。

 ベールの裾を引きちぎろうと延びる、幾つもの手。

 その悪意の触腕が、宝冠から放たれる光に辛うじて押さえられている。


 あれ、でも、この顔って。


「頬髭がなければ、似ている?」


「ええい、勿体ぶるな!感想を言え!」


「おじさまにそっくりな、神さまが側にいらっしゃいます。

 黒髪で、おじさまよりは背が高くて、少し細身の。

 そして宝石の王冠と、海のように波打つベールを纏っています。

 おじさまは、神さまにお知り合いが?」

 彼を人と呼ぶには、少し、いや大分、神威が過ぎる。


「海のような、ベール?

 星が波間に浮かぶような?」

 大公は、愕然としたように掠れた声を捻り出した。


「はい」


「すまぬ。雛よ、確認したい。サークレットを借りてもよいか。…部下に見せる」


「どうぞ?」

 なにか、あったん?


「かたじけなく、お借りいたします」

 サリーに手渡したのを、更にサリーが部下さんに預ける。


 サークレットを身に付けた、部下さんは愕然と大きく目を見開いて、涙を溢した。


 なにごと?!


「…お美しい。間違いありません、陛下に御座います」


「なんだと、みせろ!交代だ!」


「順番だ、検証は多いほどいい!」

 代わる代わる、部下さんらにサークレットが渡されていく。


 陛下ってカザンの?

 でも。


「おじさまより、ずっとお若く見えました」

 双子ちゃんじゃなかったの?


「兄上のような威厳あるお方ならともかく、我は髭を剃ると幼くなってしまうのでな」

 やば。聞こえてた。


「お2人は、仲良しさんなんですね」

 苦笑して誤魔化す。

 大公の称号部分の本体。

 その鉄の天蓋からして、お兄さんをすっぽり招き入れている形で顕れていたし。


「雛はそのように思うのか?」


「わたしはおじさましか、カザンの方は知りません。

 ですけどおじさまの口振りと『魔眼』で見た限りでは凄く仲良しですよね?」

 やっぱり双子でいいのかな。絆強そう。


 遠い目をした大公は、独り言のように述懐する。


「……兄上は。

 我の大事な兄上は、損なお方なのだ。

 聡明で、義理硬い故にいつも悪路を選ばれる。

 あのような毒にまみれた王座など投げ捨ててしまえば、余程心豊かに生きられたのに。

 父祖より譲り受けたものだからと、いらないものほど大事になさってな。

 我が外に誘っても、1度も頷いてはくれなんだ。

 なのに、何故」

 ああ、なるほど。


「本当は、いっしょに来たかったんでしょうね」

 現代日本は皇室外交してるけどさ。

 絶対権力者だった時代のトップなら、他所の国にはいけないだろう。

 もしそこでなにかあったら、周りの首だけじゃなくて戦争不可避だ。

 理性が強くて争乱起こしたくないタイプの為政者だったら、やらんわな。


「口では断っていても誘ってくれたのが、嬉しくて。影だけついてしまったんですね」

 称号って割りとフレキシブルなのかな?

 人の思いの欠片とか、GMの称賛とかご褒美で出来ているから、なんとなく納得。

 生き霊よりはよっぽどマイルド。


 【思へども 身をしわけねば 目に見えぬ 心を君に たぐへてぞやる】


 つまりはそーいうことだろう。

 遥か昔の人は、素敵な詞を詠んだものだ。


「…まだ十代のころ、心は共にあると仰ってくれた」


「わあ、有言実行」


「我は好きに生きよと、許されたのは。

 ……不出来な弟よと。見捨てられたのでは、なかったのか」

 それは酷い。


「それは酷い」

 しまった。漏れた。


「なにがだ?!」

 そんなに睨まなくてもいいじゃん?


「わたしも妹がいますので。妹らがわたしをそう思ったのなら、すごく、すごく、悲しくなります」


「そ、そうか?」


「覚えてはいませんけど、住んでいた村が崩落して、わたしは独り生き残ったので。

 後から妹たちは巧くダンジョンから救出出来たのですけど、あの時は見捨てたとか思われたら、ここがきゅーっと」


「なるほど!我が悪いな!」


「そうです。悪いおじさまは、おじさまの兄上ときちんとお話すると約束してくださいね?」

 そして大公は早くお国に帰られるといいよ。

 亀狩りの人員をこっちに送り込む大事な仕事もあるでしょ?

 交易しよ?


 おっさんと話していると、ヨウルに回れ右で避けられるんだもん。辛い。

 たった今、踵を返して見捨てたことは忘れんぞ、ヨウル!


「わかった。その、兄上のご機嫌は、どうであろうか?」

 しらんがな。


「さあ?不機嫌のようには見えませんでしたよ。

 無垢な白絹の服に、布の靴で軽やかな印象でしたし」


「なっ。下着か、寝巻きではないか!見るな、お前ら!」

 見ろって言ったり、見るなと言ったりで方針ブレブレで部下の人、可哀想。


 あれは寝巻きだったのかー。

 言われてみればそうかも。


「寛ぎの時間の象徴ですかね?

 むしろ気になるのはベールをむしろうとする触手みたいな渦が足元にあったことで」


「なんだと?」


「…………仰るとおりです。殿下、一先ず国に戻ることにいたしませんか?」


「当然だ!」


「あ、サークレット」

 持ってかないで。返してー。


「ふむ、雛よ。同じのをもうひとつ作ってくれるか?

 対価に、これを」

 サークレットが返される。

 共にごろりと渡されたのは一抱えもありそうな大きな魔石だ。

 女王クラスには届かなくても、モブ家亀より見るからに格は高そう。

 それを3個。

 きゃー、大公ったら太っ腹!


「地竜の魔石よ。貴様なら役に立つよう使えるであろうて」


「いいですよ。ルースのままでいいですか?」

 家亀の魔石を『精製』『圧縮』の順でかける。

 ぱらぱらと光を溢し、魔石が小さく濃密になる。

 あとは自分で付与をどうぞ。


「うむ、助かった。誉めてつかわす…ではないな。

 ありがとう、感謝する」




 クエスト達成!



 クエスト 双子星のひとつが墜ちて

 ※このイベントは消失しました!



 カザンはこの世から竜を封じる守護の国。

 天にあり、人には届かぬその星の。

 ひとつが剥落し堕ちた今、災禍の蓋が開かれる。

 



 クエスト 皇都襲撃 このイベントは凍結されます!



【竜の狂乱によりカザンは滅びの危機にあります!

 カザンの地から竜を出せば世界に厄災が振り撒かれることになります!

 今戦わねば父祖の土地は踏みにじられ、麦は実らず、水は腐るでしょう。

 勇者たちよ、今ばかりは心をひとつに!】

 ※凍結中




 称号 インターセプト が贈られます!


 何気のない、ささやかな好意が、世の中を変える切っ掛けになることもあります。

 貴方、嘴が長いとか言われませんか?


 ※この称号は『探索』の効果を一段階上げます。



 おわー。

 大公のお兄ちゃん、どれだけ有能なん?

 彼になにかあったら亡国どころか世界崩壊トリガーとか。

 人間ばなれしてなぁい?



「おお!宝冠が光った。今、世界の声を聞いたな?」

 冠ってアンテナなの?


「この先、お国元におじさまが居ないと、なんか辛いことが起きるかもです」

 大公が国に戻ると表明したとたん、クエスト達成が流れたもんな。そゆコトであってると思う。


「まさか!我が兄上はそのような軟弱者ではないわ!」

 そのわりには嬉しそうだな、おっさんよ。呑気か。


「辛い目に合うのはカザンです。

 何かしらの理由で【双子星のひとつが墜ちて】、地獄の蓋が開くみたいな?」


「…まことか?」

 ぐるりと視線を向けられたのは1人の女性。無言でこくこくと頷いている。

 この人、プレイヤーを部下に抱えているのか。なるほど【耳】ね。


「私は殿下の部下ですけど、どちらかが墜ちて国が滅びるなら、その、陛下ではないか、と」

 その声は可哀想なくらい震えている。

 彼女がカザンの人ならば、通りすがりのオレとは違い、GMはもっと詳しい情報を出したんだろう。


「ただの友人なら許されるでしょうから言います。

 どんなに強いお方でも、家族の支えがあると心頼もしいこともあるでしょう。

 …もし、なにもなくてもそれはそれで。

 兄弟水入らずで過ごすのもいいんじゃないですか?」


「むう。それだと我が嬉しいだけぞ?

 我が、兄上に寄与するものなど戦功ぐらいなものしかないが。

 ……そうか、そうだな!寝屋の番犬にはなるか!」

 はいはい。

 酒でも呑み交わして長話でもするといいよ。

 いい年した大人なら、それだけで時間が潰せるんだろ?


「リュアルテ」


「なんです、おじさま?」


「我が愛称はマットと言う。貴様は我をそう呼ぶといい」


「後宮には入りませんよ?」


「貴様みたいな硬いばかりで素っ気ないのを食ったら顎が疲れる。冗談はよせ。

 まして我がいくら世間知らずでも、友を後宮に入れたりせん。

 宮廷道化としてなら誘って良いが」

 失礼な。

 なんか告白もしていないのにフラれた挙げ句、代案を出されたんだが?

 だからカザンには行かないってば。辿り着くまで何十日掛かるかわからんのに。


「あれはプロの仕事ですよ。教養と面白いことが言える頭の良さが必要ですので。

 わたしは世にありふれたことしか言えませんし駄目です」

 ド突き合いやノリツッコミ芸に頼らないタイプのお笑いの人とか、あれ絶対地頭がいいよな。

 誰にも分かりやすく面白い話を提供できるとかさ、機転が違うもん。はー。羨ましい。


「友とは可愛くないものよ。ふん、まあ良い。

 それではな、いつかまた。リュアルテ」


「ええ、マット」

 バイバイと手を振って見送ると、部下さんたちに美しい所作で頭を下げられる。


 無言だけど、なんか目茶苦茶感謝された気が。


 ひょっとして、ろくに国に帰らない放蕩大公だったんだろうか?

 そりゃあ兄ちゃんも、あいつなにを今やってるのかなと心配するわ。



「なんか、新しい友達ができました?」

 くるりと振り向くと、サリーは苦虫を噛み潰し、テルテル教官は冷たい壁と仲良くしている。


「マジ、かー。リュアルテくん大物すぎて、ちょっと理解しきれない。

 少し、待って?」

 テルテル教官はレイプ目だ。

 誰がそんな酷いことを!………って、すみません。ご心配かけてます。


「エンフィよりは大人しいですよ、わたし」

 多分。

 ヤツは安全マージンをとったとしても、自ら囮猟を嗜むくらいだし。

 案外、攻勢防御をとるよなあいつ。

 殴ろうとするまでは穏やかなのに、気配がしたとたん一瞬でスイッチ入るタイプ。


「ああ、あの子はね。

 ……。

 大丈夫。俺の役目は子供たちの健やかな成長を守りつつ、危険を払い、考える知恵を与えること。

 友達が出来るのは喜ばしいよな。よし、オッケー!問題なし!」


 おお、立ち直った。

 オレ、テルテル教官も結構好きだな。



 誤字報告、いいね、評価、コメントありがとう御座います。


 誤字は不治の病です。特にお手数掛けています。



 リアルでも夏祭りは解禁ですね。

 わっしょい、わっしょい。



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― 新着の感想 ―
[一言] わあ……魔眼、称号という名のフラグ目視装置だったんですね カザンにもサリーにもまだいろいろ不穏なフラグがありますが、何とかなって欲しいところ しかしリュアルテ、中の人の前世の経験からなのか…
[良い点] 今回も面白かったです! 称号を見ることができるのいいですね~。美しい。 そして流士くんの性格が好ましい。 しかしホント油断ならないですね撹拌世界。 ヤバいイベントがまた一つ無くなって良か…
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