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嫁が最強スペックすぎて戸惑うんだが。  作者: tetoc
■ 嫁暗躍 編 ■
8/25

【06】俺と嫁と亀裂。後編

 

 ああ…、やっちまった。

 転ばせる気はなかったにしろ、結果的に倒れたレイリア。

 俺は嫁に手をあげてしまった…。



「妃殿下っ!お怪我は…!?」

「…っ、リリー…大丈夫、です…。」



 リリーと呼ばれた侍女に支えられ、上体を起こしたレイリア。軽く振り払うだけのつもりが、悪い方へ転がってしまった事態に、思考が停止した。

 いくら好かないと言えど、相手は俺よりか弱い少女…その少女を転ばせてしまった。


 思考が緩やかに動き始める。

 怪我は?していないよな、変な所を打ったりしては…の、前に謝らないと。流石に今のはダメだ。


 流石の俺も動揺しているものの、謝罪をしようと口を開くが、そのままの体勢でレイリアは俺の方を見て、ふっと微笑みながら声をかけてくる。



「わ、悪いのは私です。殿下に断りもなく、いきなり御身に触れてしまいました…。殿下は悪くなどありません、私が全て悪いのです。そう、そうなんです。殿下…どうか、どうかお許しを。」



 なん、だ…それ…?


 妙に胸に引っかかる。まるで、澄み渡る青空に1つだけ浮かぶ雨雲のように、もやついた何かが胸に宿る。


 なんだよ。その言い方。

 まるで()()()()()()()()()()()()()()()()って言われているように感じる。

 その気がなかったとは言え、力の弱いお前を転ばせてしまったことを悪いと思ってる。…そんな言い方をしなくたってもいいじゃないか。この上なく不快に感じる。


 …あ?ああ、そうか。俺はコイツを嫌ってるのか。だからコイツの姿も見たくないし。声も聞きたくない。だから自分の妃だと認めたくないのか。


 大人気ないのは十分承知。そんな言い方するなら、それ相応に返してやる。



「全くだ。此度は許してやるが、次からは私に気安く触れぬように。」



 侍女達に支えられ、立ち上がったレイリアに、吐き捨てるようにそう言った。本来なら手を差し伸べて謝る所だが、先程の親父達の件も相まって、俺はそのまま自分の部屋へと歩き始めた。


 レイリアの侍女から名を呼ばれるが足を止めない。

 妙に苛立つこの感覚。ダメだ。

 苛立ち過ぎてるせいか、吐き気もしてきた。部屋に戻ろう、戻って少し横になろう。




 ────────

 ──────

 ────


 ── レイリア side.



「お頭本当に大丈夫なんですか!?」



 リリーの横に立つ、私とそう年が変わらないエリーが声を荒らげた。と、同時にリリーが彼女の脳天に、まあまあの威力の手刀(チョップ)を見舞います。



「おバカ、声が大きい。」

「っー…!!!痛いよぉ、姉さん…!」

「お黙り。」



 平和ですねぇ。本当。魔法のメガネを外しながら、しみじみそう思う。


 あれから()()()()()()自分の部屋に戻って来ています。

 ご安心を、グレイズ殿下ご自身がセーブしていらたので、大した威力ではなかったし、()()()()()()ので怪我はしていませんよ。


 リリーとエリーは姉妹。しっかり者で頼りがいのあるお姉さんのリリーに比べると、妹のエリーは少し甘えん坊でどこか妹って感じがします。

 エリーは私より2つ年上のはずですが、人の成長と言うのは千差万別ですからね。



「リリー、エリーも私を心配してくれてのことです、私に免じてそこまでにしてあげて下さい。」

「…御意。」

「流石お頭!姉さんと違って優しいっ!」

「エリーもです。心配してくれるのは嬉しいけれど、今は身を偽っているので、あまり不用意に大きな声でお頭と呼ばないで下さいね?」

「うっ…。御意、ごめんなさい…。」



 ふふっ、2人を見ているとほっこりするので、この姉妹って大好きなんです。天涯孤独の身である私にとって、兄弟とか姉妹とか、そう言う人がいないので心底思うのですが、姉妹っていいものですよね。



「ところでお頭、本当に大丈夫なんですか?」

「そう!そうですよ、大丈夫なんですか?」



 リリーとエリーに心配され、私は肩を竦めた。

 本当にこの姉妹は、優しくてよく気遣ってくれます。


 私はソファーに腰を下ろし、テーブルに魔法のメガネを置いて、心配そうな2人に視線を向けた。



「はい、大丈夫ですよ!心配をかけてしまってごめんなさい。」



 彼女達は、転んだ私を心配しているので、安心させるように笑って見せた。すると、2人から不安の色が消えていくのが見て取れる。



「しっかし!女の子を転ばせる王子様って初めて見ました!王子様ってもっとこう、レディーを大切に扱ってくれるイメージでしたけど、エリーはガッカリです!」

「エリー、そう怒らないで。殿下のお力も強くなかったし、予想外のことだったのでしょう。驚いた表情(かお)をなさっていましたよ。」

「でもー…。」



 ぷんすかと怒るエリーは何か言いたげにするものの、リリーがお茶をいれるようにエリーに仕草で促した。

 腑に落ちないまま、お茶をいれにいったエリーを見送り、リリーは私の方を見る。



「お頭。」

「はい?」

「わざとああしたのでしょう?」

「と、言うと?」

「殿下をわざと追いかけて、わざと触れて、わざとああ言う言葉をかけたのでしょう?」

「流石ですね。」



 テーブルを挟んで、私の前に座ったリリーは何度か頷きながら独り言のようにそう言う。

 そんなことはないと思うけれど。



「それにしても、殿下の中のお頭はよほど嫌な位置にいるようですね。」

「1ヶ月と少し会わなければ、悪い印象の人なんて、どうでもいいと考えず立ち位置が変わらないか、勝手に位置が悪化するかですよ。」

「後者ってわけですか。」

「その通りです。嫌って下さって結構。それが今回のお仕事ですから。」



 テーブルの上に常に置かれている、お菓子が入ったカゴから一口サイズの焼き菓子を手に取って食べた。

 食事もほどほどにして殿下を追いかけたので、お腹が微妙に空いているんですよね。



「お頭の割り切りの良さは相変わらず神レベルですね。」

「ふふっ、そうでもなければこの年でDの頭目なんてやってられませんよ。」



 実際にそうです。

 私が率いる"D"は当然ながら年上が多い。そんな中で()()の私が指揮をするのですから、この口調(喋り方)だってそうし、年上の方々に認めてもらえるように誰よりも仕事をこなします。本当に、気を使うことってたくさんあるんですよね。


 だから、ある程度の割り切りをしないとやっていけないのがです。いつの間にかそれが普通となってしまったんです。



「そうですけど、あたしがお頭くらいの年の時と比べると…雲泥の差ですよ。」

「そうですか、やはりリリーはその時から優しかったんですね。」

「なんっでそうなるんですか…。」



 いきなり褒められて照れるリリー。

 照れ臭そうにしながら彼女も焼き菓子に手を伸ばし、気を紛らわせるように口に放り込んで咀嚼している。


 殿下は決して悪い方ではない。

 この1ヶ月、私への背徳感や罪悪感から完全に私を嫌うことはなかったでしょう。それだと少し困るので、今日は急遽、亀裂を入れに行ったわけです。


 亀裂がきちんと入ったかは定かではありませんが、ルーリス殿で一緒に生活するとなれば、それは何もせずとも分かること。

 確か、国王陛下が言うには、同等の穴埋めをする為に明日から1ヶ月の間、ルーリス殿での生活が始まる。

 予定していたよりは少し早いけれど、そこで勝負をかけよう。


 そんなことを考えていると、自分のネックレスが光るのに気づいた。4種類の宝石の内、光っているのはオレンジの宝石、ということは思念を利用して行う通信だ。


 よほどのことがない限り、これが光ることはないので、私は手早くネックレスを右手で包んで目を閉じ、意識を深く落とすように集中した。


 この感じは…ギルメキア軍皇国にいるルディーですね。



『すみません、お頭。』

『いえ、どうかしたのですか?』

『それが…その、ギルメキア皇帝がお頭に会いたいと。』

『殺す勢いで急所でも蹴り上げておいて下さい。』

『…叶わないのなら話したいと申されていますが。』



 あのバカ皇帝は、またうちの者を困らせているんですか。それも緊急用の連絡手段を使わせるなんて…。



『…あの、お頭。どうします?』

『皇帝陛下に言伝を。』

『はい。』

『"緊急通信を乱用しないで下さい。今度そういったことをなさるなら、今後ギルメキアに分隊をよこしませんよ"と。』

『そ…は、…がに… ちょ!?………。』

『厳しい言葉発するそなたも極上に愛らしいな、レイリア。』



 ノイズが走ったかと思うと、ルディーの声は掻き消え、背筋にぞくりと悪寒が走る。この聞き覚えのある低い声は…。



『ゾディアス皇帝陛下…。』

『久しいな、レイリア!相変わらず耳に…いや、頭に心地良い声であるな。ルディーには、しばし眠ってもらったぞ。』



 迂闊だった、ルディーはゾディアス陛下のそばに居たんだ。ってことは、渡してある通信用の宝石も今陛下が持っていることになる。

 しかも、私が許可した者しか使えない通信用の宝石なのに、膨大な魔力を使って強引に話してるし。



『通信を切ったらルディーを火山に放り投げるぞ。』



 先手を打たれてしまった。

 私はため息をついて、仕方がないと自分に言い聞かせる。



『……。私との会話がご所望でしたね。』

『その通りだ。レイリアよ、いつ余の妃となりにこちら(ギルメキア)に来るのだ。』

『陛下には美しいお妃様(公妾)がたくさんいらっしゃるではありませんか。ましてや皇太子様もお生まれになったと聞きます。私の出る幕などありませんよ。』

『余はそなたが欲しいのだ。もちろん、そなたとの子も欲しい。そなたの為に皇后の座は空けておるし、皇子が産まれたのなら、問答無用でそなたとの子を次の皇帝にするぞ。』

『皇后の座も、陛下との子もいりません。』

『遠慮はせずともよい。だから素直に妃になれ。』

『妃の座など結構です。』



 この人は本当にゼアル陛下と同じ王なんだろうか…なんだか頭が痛くなってきたような気がします。

 すごい人だと思うけれど、なんなんだろう、本当に。



『……。そなたは余だけではなく、ギルメキアの民もを助けてくれた。』

『はい。民メインで。』

『礼に余の妻、皇后として迎えようぞ。』

『お断りします。』

『何故だ。』

『結婚しました。』

『…誰と?』

『お教えする義理はありません。』

『よし、祝ってやろう。だからギルメキアに夫と共に来い。夫を殺して未亡人となったそなたを妃にする。』



 何言ってるんですかのこの人。



『やめてください。』

『ならば俺の妃になれ。』

『絶対に嫌。』

『では、会いに来い。』

『今は無理です。』

『なら、いつならいいんだ。』

『分かりません。』



 もう、お互いに口調が崩れてる気がするけれど、毎度の事だから別段気にすることもないんです。

 とりあえず、気を取り直しましょう。このままでは埒が明きません。



『それよりもルディーの身は安全なんでしょうね?』

『案ずるな、魔法で眠っているだけだ。』

『そのまま傷付けず解放して下さい。』

『お前が迎えに来い。そして俺の妃になれ。』

『話が進まないので、あの手この手で私を妃にしようとするのやめて下さいません?』

『お前が真摯に受け止めないからだ。妃云々は置いて、一度ギルメキアに来い、本気でそなたへの愛を説こう。』

「何度も言ってるいるように、私はまだまだ子供ですし、陛下とは14歳もの年の差もあります。」

『年の差を気にしていたのか?俺は気にしないぞ。むしろ、そなたがより美しく、より愛らしく成長する様をより近くで体感できる…。なんと素晴らしい!』



 何を言っても無駄だ…。しかも、私が2ヶ月前に結婚出来る年になったことで拍車がかかってる…。

 もう面倒臭いし、頭痛も酷くなってきたからギルメキアを滅ぼそうかな。レイリアさん、今なら頑張れば出来ると思います。



『ゾディアス陛下。私は今、ある重要な仕事をしております。ルディーを解放して下されば、機を見てそちらに参りましょう。』

『それは誠か!?』

『私が陛下に嘘をついたことは?』

『ない。』

『ならば信用して下さいますね?』

『うむ!即刻ルディーを解放しよう。状況などは逐一報告せよ!色々準備があるでな!』



 一方的に切られてしまった。絶対何かやるつもりだ。


 ゾディアス陛下のことです、ただでは帰してくれないでしょう。

私に嫌われて憎まれてもいいから、監禁でもしてそばに置くって言う、危ない方へ走りかねませんからね。あの人。


 もちろん、"訪問する機会がなかなかない"と言う理由で、行かないと言う選択肢もないです。

 ある程度の先延ばしは出来るでしょうが、機を見誤ってしまうと、フローリアに軍を率いて来かねません。

 実際、私が連絡をよこさないという理由だけで軍をおこした前科もあります。


 よし、ギルメキアを訪問する時は、国盗りでもする気で行こう。



「お頭…緊急の通信があったようですが…。」

「大丈夫ですか?お茶いれてきたんで飲んでください。

 」


 疲れている私を見て、ずっと様子を見守っていたリリー、いつの間にかお茶をいれて帰ってきたエリーの2人が心配そうに声をかけてきてくれた。



「大丈夫です。ありがとう。」



 大丈夫だと示す為に2人に笑いかけ、エリーが入れてきてくれたお茶に手を伸ばす。


 はあ、疲れた…。





【06】俺と嫁と亀裂。後編 END.

■エリー・マーヴェル 18歳

リリーの妹。黒髪のショートヘア。姉のリリーは豊満だが、エリーの胸は控え目。年相応の活発な女の子!って感じですが、普段着はボーイッシュで、たまーに男の子に間違われる時があるとかないとか。



■ゾディアス 30歳

ギルメキア軍皇国現皇帝。皇帝になると名前だけ名乗る。黒髪、短髪だが襟足だけ伸ばしてリングのようなものでまとめている。淡いオレンジの瞳でちょっとタレ目。

かなりやり手の魔剣士で、膨大な魔力を有する。よほどレイリアを皇后にしたいのか、食い下がり続ける。行動力と思い切りが、とにかくえげつない。

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