第壱弁
出会いは柘榴。
一面の朱の世界でたった二人で紡ぐ物語。
柘榴【ザクロ】…庭に植える落葉高木。六月頃に赤い花が開く。皮にはタンニンという毒が含まれており、大量に摂取すると発熱・眩暈・局所的な痙攣や筋衰弱・呼吸器障害を起こす。
花言葉は愚かしさ。
明治××年。
初夏。
年号が明治に変わった。
世の中は文明開化だの何だのでやかましい程浮かれてる。
だけど、いくら時代が変わっても貧しさも身分差も無くならない。
孤児である俺も例に違わず、ゴミを漁り盗みを繰り返す日々。
空腹で胃がキリキリと音を鳴らした。いや、もはや空腹じゃなく痛みに近い。
七日か…十日はまともに食っていない。おまけに、頭上に昇る太陽が蒸した熱気と刺すような日差しをぶつけてくる。
「……」
日差しのせいなのか、視界がぼやけて白くかすんで見えた。
聞こえていたはずの喧騒もやけに遠くに聞こえる。
段々と、意識も思考も薄れていく。
何でもいい。
この空腹を満たせるなら。
何か…何か…。
鉛のように重たい身体を引き摺って、俺は死にかけの虫のように宛てもなく這いずり廻った。
そして---
「見つけた」
霞んだ視界に映る鮮烈な一色。
それは血肉のような、赤。
「…柘榴」
実はまだ成ったばかりで、まだ、一際映える赤い花が咲き誇っている。
俺は迷うことなく駆け出して、実の成る木に登った。
俺が動く度に赤い花が揺れて、花弁がポツポツと雨のように降りかかる。
やっとの思いで実のある位置まで登りきると、目に入った一つを手に取ろうとした。
「食べてはダメ」
唐突に、聞こえた声。
それは硝子みたいに透き通った声で。
思わず、声のする方へ視線を向けた。
柘榴の木の下、廃れた寺の跡。
辛うじて形を成している崩れた建物の中に、声の主は居た。
……歳は十四、五。俺と同じくらいだろうか。
よく手入れされた長い黒髪と、見たことのない柄をした煌びやかな着物を着た少女だった。
「その柘榴には毒がある。死にたくなければ手を出さないことね」
柘榴と同じ、血を塗ったような赤い唇が動いて、
射抜くような瞳を向けて少女は俺に言った。




