夢 2
はぁはぁと呼吸を整える暇もなく、
少女は走っていた。
銀色の美しい髪を振り乱し、
右腹に負う傷と体力の限界に顔を歪める。
月光をささない薄暗い森は彼女の視界を妨げ、
手入れをされていない獣道は彼女のほっそりとした手足を赤く染めた。
「ーー魔女が逃げたぞ! 追え!!」
という男たちの怒声がそう遠くはない距離から聞こえる。
「逃げて!!」
エレノアは叫んだ。
先ほどとは打って変わった光景に戸惑う暇もなかった。
少女は自身の胸に抱く小さな赤ん坊を力強く抱きしめ走りつづけた。
眺めることしか出来ない。
止めろと言ってこの男たちを倒すこともできないのだ。
歯噛みしつつ逃げて逃げてと
呪文のように叫んでいると、
はっとして喉をすりつぶさんばかりに声をあげた。
「止まって!!」
刹那、少女は疲労しきった足を止めた。
この先には道がなかったのだ。
彼女の足元の数歩先に覗くのは、
漆黒の闇を思わせる日中のような明るさのない森と
ゴォォォと唸り声をあげる滝。
いたぞ! 追い込め!!
後ろを振り向くと無数の朱色に揺れる松明と殺意。
彼女にはもう後がなかった。
少女はゴクリと生唾を飲み込むと
覚悟したように滝を見据えた。
赤ん坊を抱く力に一層力を込める。
エレノアには、彼女がこれから何をするかわかった。
不意に父がメリッサに殺された時の光景がよぎる。
同時にエレノアは叫んだ。
「だめぇぇぇえ!!」
「ーーさようなら。○○」
囁くように愛おしげに呟くと
身を漆黒の闇へと投げた。
エレノアの意識もまた漆黒へと落ちていった。




