謎の青年
目がチカチカするほどのシャンデリア
室内のそこら中に飾られた銀色の花々。
貴族たちの笑い声
そして華やかさに隠れた憎悪と策略に渦巻く空気
エレノアにはその空気だけで酔いそうになった。
ルークの方をちらりと目をやると、
ルークはほんのりと頬を染めた貴婦人たちに囲まれてにこやかに会話していた。
エレノアは意味もなくイライラがふつふつと湧き上がる。
「美しい亜麻色の髪ですね」
エレノアはその声にはっとしたがすぐに眉を顰めた
中年の男が下心がありありとわかるニタリとした笑みを浮かんでいた。
エレノアの背筋にゾワッと悪寒が走った。
「……ありがとございます。」
エレノアはニコリともせず返した。
「つれないお方だ」
男は一歩エレノアに近づいた。
エレノアは後退する。
ぞわぞわと悪寒が走った。
危険だと本能が告げていた。
普段なら剣で胸を切りつけた後
急所を蹴るのだが……
ここは舞踏会。
各国の要人も集まっている。
「私連れがおりますの。
失礼いたしますわ」
エレノアは相手に失礼のない程度にそっけなく言葉を残し去ろうとしたが、
ガシッと強い力で腕を掴まれた。
触られたところがぞわぞわと虫唾が走る。
「滑らかな肌だ」
男は腕をもう片方の手でねっとりと触りまくる。
うん。これは殺るしかないな。
エレノアが調子にのるなと足を振り上げようとしたその時、
「彼女に触れるな」
鋭さのある冷酷なほど冷たい低い声が響いた。
「私を誰だと思っ……っ! 」
高慢に諌めた相手を威圧しようとした男は、
顔をあげ、その声の主を見るや否や
ひぃぃと情けない声をあげ一目散に逃げ出した。
「大丈夫ですか? 」
男は先ほどとは打って変わった優しい紳士的な声で、
エレノアの身を案じた。
「えぇ。有り難うございます。
おかげで助かりましたわ。」
令嬢が男を蹴り上げたというスキャンダルにならずに済んで
エレノアは心のうちにそっとつぶやく。
お礼とともに声の主を見て思わず息を飲んだ。
そこには見目麗しい妖艶な青年がいた。
青年は肩まで伸びた漆黒の髪を
銀色の紐で一つにくくっていた。
真っ赤な唇に弧を描き微笑んでいるが、
目は声とは違って氷のように冷めていた。
危険だな。
エレノアの中で何かが警告していた。
「そんなに警戒しないでください。」
「助けていただいたお方に感謝こそすれ警戒など……」
「まぁ、貴女ほど美しい女性なら警戒は必要ですね。
それに礼は入りませんよ。
助けたのは貴女が妻に似ていたからです。
ではこれで。」
青年は美しく微笑みエレノアの横をすり抜ける。
「それに、あなたは我々の同胞だ。」
「ーーっえ?」
エレノアが振り返るとそこには誰もいなかった。
***
「クロ様。」
青年の前にゴスロリちっくな漆黒のドレスに身をまとったツインテールの女が闇の中から姿を現した。
顔はベールに覆われ見えない。
青年は驚くこともなくテラスに寄りかかって月を見上げたままだ。
「あぁ、メリッサか。
今宵は種をまくだけでいい。
まだ時は満ちていないようだ。」
「承知いたしました」
女が再び闇に消えると
クロと呼ばれた男は妖艶な笑みを浮かべた。
そして色気のある低い声でささやいた。
「アメリア……待っていてくれ。
もうすぐで封印は解ける。」
月に照らされた男の瞳は赤色に変わっていた。




