戸惑い
「……ノア。エレノア! 」
エレノアは、はっとした。
「どうしたの?
パレードの間もずっと上の空だったじゃない」
淡い黄色のドレスに身を包んだシャラが心配そうに顔をのぞかせた。
「ごめんなさい」
エレノアは俯いた。
任務中なのにボーとしているなんて騎士失格だ。
気落ちするエレノアにシャラは気遣うように
やんわりという。
「責めてるわけではないのよ。
なにかあったの?
私で良かったら相談にのるわ」
「ありがとう。」
シャラの言葉に弱々しく微笑んだ。
自分が情けない。
「入るぞ」
ルークとカイルがノックもせずに入ってきた。
「……。」
ルークは二人の姿を見止めると
言葉を失った。
ルークの漆黒の瞳はエレノアを見つめていた。
エレノアもルークのはじめてみる王子らしい正装に
思わずじっと見入ってしまう。
漆黒の髪に合わせた黒いスーツに白いマント。
いつもの無造作な髪はきっちりと整えられ気品が漂っていた。
「ちょっと! ノックくらいしなさいよ!! 」
シャラの声で二人は我に返った。
私は何を……
エレノアの顔はさっと赤く染まる。
「シャラ。邪魔するなよ」
カイルは珍しく顔をニヤニヤさせてエレノアとルークを交互に見た。
「知らないわよ! まずマナーが大切よ! 」
「お前に言われたくない。」
ルークは呆れ顔で突っ込んだ。
「うっさいわね。ところで何の用? 」
「あぁ、今後のことだが、
俺は舞踏会では何か起こるまで動けないから
3人は舞踏会に紛れてしっかり見ててやってくれ」
ルークの言葉に3人は無言でうなづく。
「あとエレノア、もしものときのためにいつでも準備しておいてくれ」
ルークはエレノアを見ずに指示をだした。
何かしたかしら?
エレノアは不安になりつつも了解と返事をした。
ルークとカイルはそれだけ告げると部屋を出ていった。
その後ろ姿にふとリリーの言葉が蘇る。
『乙女祭が終わったらルーク様に告白しようと思います』
ルークはリリーに告白されたらどうするのだろうか?
美男美女の二人が寄り添う絵になる光景を想像して
エレノアの心はますます暗くなった。
**
ルークとカイルは無言で城内の廊下を歩いていた。
ルークの目に最も会いたくない亜麻色の髪の男が映った。
おそらく彼にはルーク達の姿は見えていないだろう。
「カイル。戻るぞ」
ルークは男に聞こえないように小声でつぶやくと
困惑するカイルを無視して踵を返した。
「ルークか。私を無視するなんて随分と偉くなったものだな。妾腹の子の分際で」
カイルはその言葉にピクリと眉をひそめた。
目ざといな。
あっさりと逃げることに失敗したルークは心の内で毒づいた。
男の神経質そうな瞳が眼鏡の奥でルークを見下した
「ヘリオス殿下、私がそんなことをするとでも?」
「お前はいつもそうだろう?
妾腹のくせに
おいっ、その大男はなんだ? 」
カイルに目を向けたヘリオスは高飛車に言い放つ。
「彼は私の部下です」
「カイルと申します殿下」
カイルは口元は笑みを浮かべていたが
瞳は怒りに満ちていた。
「主人に似て躾がなっていないな! 」
ヘリオスが嘲笑すると
ルークは鋭い冷徹ともいえる目に変えた。
ヘリオスの体が強張る。
「……ヘリオス殿下
時間が押しておりますので失礼します。」
ルークは冷淡な笑みを口元だけ浮かべた。
ヘリオスは一瞬身震いをしたが、
ルークはヘリオスに用はないとばかりに冷たい目で一瞥してカイルとともに踵を返した。
「……今に見てろよ」
残された静かな廊下でヘリオスの憎悪に満ちた声だけが響き渡った