春
雪が溶け出し、夜明けが早くなったのと、精霊達が増え出すのはどちらが先だったのか。
木々の雪帽子が音を立てて地面に落ちるのと競うように、地面の雪が溶けだし、増水した川は轟々と音を立てて流れる。
黒い地面が出た所から草が伸び雪を割って春の野草が花を咲かせた。
いつの間にか小鳥達がさえずり、広葉樹は木の芽を膨らませている。
皆が待ち望んだ春は駆け足でやってきた。
獣達はみんな無事に冬を越すことが出来た。
逢未も元気になった。ときどき未来と一緒に狩りに出かけている。
1人づつでは難しい狩りも2人で連携するとうまくいくらしい。2人とも堂々と獲物をくわえて帰ってくる。
時々他の狼達と一緒に狩りをすることもあるらしい。逢未は誰よりも獲物の位置を正確に把握して的確な指示を出すから狩りの成功率が高くなるのだそうだ。
集団で狩りをすると頭数が増えた分狩りをする回数が増えるが、失敗することが減るので同じだけ狩りに挑んでもむしろ獲得率は高いのだそうだ。仲間に認められて逢未もすっかり一人前の大人になった。
賢いのを見込まれて、北狐宰相のお仕事も手伝っている。
お母さんは鼻が高いです。
雪が全部溶けたらヤギや鶏達を外に出してあげよう。
ぽこぽこと卵を生み出した鳥達は食欲旺盛で油断していると餌と一緒につつかれてしまう。
山羊達も出産が近いものには新鮮な草を食べさせてあげたいし、畑に苗も植えたい。
少しでも早く収穫したくて、芋掘りのときに畑の土を木で作ってもらったプランターにいれておいて、温かい部屋で苗を作っている。
カボチャや豆、とうもろこし。精霊達のおかげもあってすくすくと育っている。種まきと合わせたら長い期間の収穫ができるとおもう。みんな、そのおいしさにびっくりしてたから。もっといっぱい食べさせてあげたいし、保存食にもなるし。出来るだけたくさん作りたい。
温かくなったら羊毛も刈りたい。それから、新しい赤ちゃんのお世話を手伝って、それから
「ユウ、また考えてるの?」
「あっ、ごめんね。スープ煮過ぎちゃったかな。」
「大丈夫だけど、火傷したら困るから気をつけてよ。」
「うん、ありがとう。」
今日はジークとアルは狩りに出かけていて、めずらしく未来と2人きり。
あれこれとやりたいことと、やらなくてはいけないことを考えて心ここにあらずの私が、ドアにぶつかったり、何もない所で転んだり、料理を失敗したりしたので心配らしい。
気をつけなくちゃ。
「ユウ、俺、アシュの国に行こうと思うんだけど。いいかな?」
「えっ?アシュの国ってカモウ国?見に行きたいの?」
「うん。国王や宰相にはもう許しをもらってる。」
「そうなの?知らなかったかったからびっくりしちゃった。わかるよ、私も行ってみたいって思ってたから。どんな動物達がどんな生活ををしているのか見てみたいよね。」
「明日行く。」
「明日?そんな急過ぎない?私準備出来ないよ。春になったら急いでやりたいこともあるし。もうすこし待ってくれないかなあ。そしたら一緒に」
「待てないんだ。ごめん。俺早く行きたい。」
「未来?どうしたの?なにかあったの?」
「ううん。だから明日先に行くよ。」
どうしたのかな。何かを強く決心したような未来の様子に何も言えなくて。
「危ないことはしたら嫌だよ。わからないことは周りの人たちに相談してね。私もなるべく早く行けるように頑張るから。でも、本当は1人で行かせたくないんだからね。」
「ありがとう、ユウ。危ないことはしない。約束する。」
「うん。わかった。」




