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第1章-9

馬が、

夜の道を――

必死に、駆ける。


とにかく、

走る。


ジンの背中に、

カイは、しがみついていた。


副団長エリカの背には、

気を失ったアスナ。


カイの身体は、

小さく――

止まらず、震えている。


自分の、実力のなさ。

自分のために、

気絶するまで戦ったアスナへの、申し訳なさ。


いくつもの感情が、

胸の奥で、絡まり合っていた。


アスナは、

気絶したまま――

静かに、涙を流している。


ジン

「……悪いな、カイ……」


ジン

「……すまねえな、アスナ……」


誰も、

多くを語らなかった。


団員たちは、

言葉少なに、拠点へと戻る。


それぞれが、

今日見た光景を、胸の中で反芻し――

自分が、まだ生きていることを、

噛みしめていた。


しばらくして、皆は静かに床に就いた。

しかしカイは、

アスナから、目を離せなかった。


震えは、

まだ、止まらない。


――その時。


アスナ

「……うっ……」


カイ

「……!?」

「アスナ……?」

「おい、アスナ……!」

「分かるか……!?」


アスナ

「……カイ……」


アスナ

「……カイ!!」

アスナの表情に力が込められる。


アスナ

「あんた……!!」

「自分が、何やったか……」

「分かってんの!!?」


聞いたことのない、

剣幕だった。


カイは、

反射的に、身構える。


――叩かれる。


そう、思って――

目を、閉じた。


だが。


次の瞬間。


カイを包んだのは――

暖かさだった。


カイ

「……?」

「……アスナ……?」


アスナ

「あんた……」

「……何、やってんのよ……」


カイを、強く抱きしめる。


その腕の中で、

アスナの目から――

大粒の涙が、溢れ落ちた。


アスナ

「あんたまで……」

「あんたまで、死んじゃうところだったのよ……?」


アスナ

「……なんで……」

「……なんで、そんな無茶するのよ……」


カイ

「……アスナ……」


アスナ

「あんたまで、いなくなっちゃったら……」


声が、

震える。


アスナ

「……私……」

「……私……」


嗚咽が、

止まらない。


アスナ

「……うっ……」

「……うっ……」


カイは、

何も――

言えなかった。


ただ、

抱き返すこともできず。


しばらくの間、

夜の中に――

アスナの慟哭だけが、

静かに、こだましていた。



ーーー

翌朝。

やかましいほどの、まぶしい朝日だった。


カイ

「……アスナ……」


アスナ

「……カイ?」

「おはよ」

「もう、お腹は痛まない?」


アスナは、

いつもと変わらない様子で、

一日の準備をしていた。


カイ

「……うん……」


アスナ

「そ」

「……よかった」


よく見ると――

アスナの身体は、

ひどく、傷だらけだった。


血色のいい肌は、

ところどころ擦りむけ、

赤黒く変色している。


……当たり前だ。


ボルジックに投げ飛ばされ、

死にかけて。

それでもなお、

数人の山賊を相手に、

おれを守り――

自警団を、逃がした。


……なんて、遠いんだろう。


この“遠さ”。


前にも、

感じたことがある。


――シキ。


……おれは――


アスナ

「……カイ?」

「どうしたの?」


カイ

「……うっ……」


視界が、

滲む。


涙が、

止まらない。


アスナ

「……カイ……?」


悔しい。


――悔しい……!!


アスナ

「……カイ……!」


カイ

「……アスナ……」

「おれは……」


声が、震える。


カイ

「……おれは……」

「……強くなる……!」


カイ

「もう……」

「誰にも、負けない……!」


カイ

「アスナのことも……」

「……守れるようになる……」


言葉を、探す。


カイ

「……だから……」

「……だから……」


アスナ

「……カイ……」


カイ

「……おれも……」

「……アスナを、失いたくない……」


カイ

「……昨日は……」

「……ごめん……」


アスナの目から、

静かに――

涙が、こぼれ落ちる。


アスナ

「……カイ……」

「……もう……」

「……子どものくせに……」


アスナ

「……バカ……!」


カイ

「……うっ……」

「……うっ……」


数日後。


ジン

「ボルジック山賊団の、アジトが分かったぞ」


ジン

「ノルンから、さらに北の山間――」

「古い砦を、縄張りにしてやがる」


団員

「……え……!?」

「アジトが……?」


別の団員

「すげえ……」

「それなら、こっちから先に叩けば――」


団員

「……いや……」

「あんな連中に、また関わるのは……」


ジン

「ああ」

「だからだ」


ジン

「今後の進め方を、考えなきゃならねえ」

「作戦会議だ」


エリカ

「……あれ?」

「……カイとアスナは……?」

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