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婚約破棄されたので、王宮を出て制度を作り直します ~王国の財政を握っていたのは私でした~  作者: 月守いとは


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第95話 基準の届かない場所

 内陸部リーデン町の代表は、想像より若かった。


 三十代半ば。

 日焼けした肌に、実務者の硬さがある。


「お時間をいただき感謝します」


 深く一礼する。


 会談室には、エリシアとヴァルドがいる。


「書簡は読みました」


 エリシアが促す。


 代表は、持参した資料を広げた。


「我々の町には、大規模商団はありません」


「家族経営の工房と、小規模農業が中心です」


 数字が並ぶ。


 信用履歴。

 取引件数。

 資本規模。


 どれも違法ではない。


 だが、公開基準を満たすには小さすぎる。


「港湾都市の取引先から、こう言われました」


 代表は苦笑する。


『公開枠組みに準拠していない地域との長期契約は慎重にしたい』


 責める意図はない。


 合理的判断だ。


 だが結果として、


「取引条件が厳しくなっています」


 エリシアは静かに言う。


「公開が基準になった」


「はい」


「基準を満たせない場所は、

 相対的に信用が低く見える」


 ヴァルドが資料を確認する。


「不正や破綻は起きていない」


「だが、余力が足りない」


 代表は続ける。


「透明性は否定しません」


「だが、我々には整備する資金も人材も足りない」


 それは、抗議ではない。


 事実の報告だ。


 エリシアは少し考える。


「公開は強制していません」


「ええ」


「ですが、市場が基準化している」


 代表は頷く。


「参加しなければ、不利になる」


 制度は直接攻撃しない。


 だが、周囲の判断が変わる。


「支援枠組みを設計します」


 エリシアは言う。


「簡易公開モデル」


「最低限の信用情報を、負担なく提示できる形式」


 代表の目がわずかに動く。


「段階的参加ですか」


「はい」


「完全公開でなくとも、

 “最低限の透明性”を確保する」


 ヴァルドが補足する。


「費用は王国が一部負担」


 代表は深く息を吐く。


「それなら、町も動けます」


 沈黙のあと、代表は言った。


「制度は大きくなりました」


「ですが、端にいる者も見てください」


 その言葉は、責めではない。


 願いだ。


 会談後。


 エリシアは地図を再び見る。


 港は安定。


 中心は強い。


 だが、端は脆い。


「公開は均衡を生む」


 小さく呟く。


「だが、均衡には基盤がいる」


 制度は立った。


 次は、支える層だ。


 風が吹き、地図の端の灯りが揺れる。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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