第93話 揺らぎを抱えて
夜の港は、久しぶりに穏やかだった。
抗議の声も、緊急会合の鐘もない。
ただ、波の音と、遠くの灯り。
エリシアは一人、埠頭に立っていた。
再開から二週間。
制度は動いている。
崩れてはいない。
だが、かつてのような確信もない。
「……強くなったわけではない」
小さく呟く。
公開は万能ではない。
それは、もう分かっている。
正確さだけでは守れない。
数字だけでは救えない。
それでも。
止めなかった。
止める自由もあった。
延長する選択もあった。
だが、選ばなかった。
足音が近づく。
レオンハルトだった。
「一人で考え事か」
「ええ」
並んで海を見る。
「揺らいだな」
王子が言う。
「はい」
「壊れかけた」
「ええ」
短い応答。
「それでも、続いている」
レオンハルトの声は穏やかだ。
「制度は、揺らいだまま立つ」
エリシアは静かに頷く。
「揺らぎは、弱さではありませんでした」
「揺らぎを認めないことが、弱さだった」
王子が小さく笑う。
「以前のあなたは、揺れなかった」
「揺れないふりをしていただけです」
少しだけ、空気が柔らぐ。
「私は国家を守る」
レオンハルトが言う。
「あなたは制度を守る」
「だが、今は同じものを見ている」
海の向こう、港の灯りが揺れる。
「公開は正義ではありません」
エリシアが言う。
「だが、隠蔽よりは責任が残る」
「だから選ぶ」
選択は、毎日続く。
完成はない。
完璧もない。
だが、壊れにくくはなった。
「次は何を守る」
王子が問う。
エリシアは少し考え、
「公開の“外”です」
と答えた。
「公開の外?」
「制度の影響を受ける、もっと小さな単位」
家族。
個人。
地域。
港だけではない。
国家だけでもない。
揺らぎは、どこにでもある。
風が吹く。
冷たいが、心地よい。
制度は、生きている。
揺らぎごと。
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