第76話 凍結要求
広場の集会は、一度で終わらなかった。
二日目には参加者が倍になり、三日目には他都市でも同様の集会が開かれた。
掲げられる標語は、単純だ。
『失敗に時効を』
『永遠の記録をやめろ』
『公開は社会的死刑だ』
感情だけではない。
元商団主、元従業員、家族。
公開履歴によって再起に時間を要した者たちが、具体的な事例を語る。
「契約は取れた。だが、取引先が過去の失敗を理由に最終段階で撤退した」
「改善履歴を説明しても、“検索結果”は変わらない」
検索結果。
その言葉に、エリシアは眉をわずかに動かす。
公開は正確だ。
だが、受け取られ方は制御できない。
王宮では、緊急議会が開かれていた。
「公開枠組みの一時凍結を提案する」
保守派議員が立ち上がる。
「社会不安の拡大を防ぐためだ」
「凍結は理念の否定です」
反対派が即座に応じる。
「理念より安定だ」
議場は荒れる。
レオンハルトは静かに両者を見渡した。
「凍結すれば、何が起きる」
誰も即答できない。
「不正抑止効果は弱まる」
「市場は不透明化する」
「だが、炎上は止まるかもしれない」
可能性の話ばかりだ。
ハルフェン。
公開枠組み会合室では、緊急対策案が並べられていた。
・失敗履歴の表示年限短縮
・個人名の匿名化
・改善履歴の優先表示
「対処療法です」
アルノーが言う。
「根本は“切り取り可能性”です」
ヴァルドが続ける。
「画像化すれば、文脈は消える」
沈黙。
アーデルの演説が再生される。
『公開は嘘をついていない。
だが、人は文脈を読むとは限らない』
エリシアは、ゆっくりと椅子に座る。
「凍結案が可決される可能性は」
「五分です」
ヴァルドが答える。
「世論次第で傾きます」
窓の外、広場では再び集会が始まっている。
怒号というより、訴えだ。
「失敗に終わりを」
「再起に余白を」
エリシアは、初めてはっきりと考える。
――凍結。
公開を、一度止める。
それは敗北か。
それとも責任か。
机の上に置かれた記録帳に、指先が触れる。
制度は人のためにある。
だが、人が制度に傷つくなら。
扉が開く。
「殿下がお見えです」
レオンハルトが入室する。
「凍結案が正式議題に上がった」
短い言葉。
エリシアは、静かに立ち上がる。
「……議論しましょう」
迷いは、まだ言葉にならない。
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