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婚約破棄されたので、王宮を出て制度を作り直します ~王国の財政を握っていたのは私でした~  作者: 月守いとは


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第75話 歪んだ正義

 港湾広場には、予想以上の人が集まっていた。


 壇上に立つ男は、落ち着いた声音で語り始める。


「私は透明性を否定しているわけではありません」


 アーデル・マルクス。


 整えられた口髭、鋭い目。

 言葉の選び方に、記者時代の名残がある。


「私はかつて、公開を支持していました」


 ざわめきが収まる。


「隠蔽は腐敗を生む。

 密室は不正を育てる」


 それは、エリシアと同じ立場だった。


「ですが――」


 声がわずかに低くなる。


「公開は、文脈を守りません」


 掲げられたのは、例の切り取られた画像。


「この失敗履歴は、十年前のものです」


「改善履歴もある。再起もある」


「しかし、拡散されたのは“失敗”だけです」


 群衆がざわめく。


「私の妻は、公開データを誤読されました」


 静まり返る広場。


「文脈を無視した記事が拡散し、

 誤解が固定された」


「訂正は届かなかった」


 彼は一瞬、言葉を止める。


「公開は、嘘をついていなかった」


「だが、人は文脈を読むとは限らない」


 静かな拍手が起こる。


 それは怒号ではない。


 共感だ。


 ハルフェン。


 会合室で中継を見つめるエリシアは、何も言わない。


 アーデルの言葉は、論理的だった。


 感情に寄りかかっていない。


「透明性は暴力になり得る」


 壇上で彼は言う。


「永遠の記録は、永遠の罰になる」


 その言葉が、重く落ちる。


 会合室の空気が固まる。


「公開を止めろとは言いません」


「だが、制限を設けるべきです」


「失敗の永久公開は、社会的死刑です」


 拍手が強まる。


 怒りよりも、疲労が混ざっている。


 夜。


 王宮では、議会の一部が動き始めていた。


「一時凍結を検討すべきだ」


「暴動に発展する前に」


 レオンハルトは沈黙する。


 ハルフェンに戻る。


 エリシアは静かに言う。


「彼は間違っていません」


 ヴァルドが息を呑む。


「ですが、止めれば腐敗が戻ります」


「ええ」


 正しさと痛みが、初めて正面衝突した。


 窓の外では、広場の灯りが揺れている。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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