↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄されたので、王宮を出て制度を作り直します ~王国の財政を握っていたのは私でした~  作者: 月守いとは


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
47/135

第47話 消えない名前

 三日後、公開記録板に新しい更新が載った。


『リリア商団:再建計画提出』


 内容は誠実だった。資金計画の修正。判断手順の見直し。監査の導入。だが、その下に並ぶのは、過去の失敗履歴だ。消えない。


 その日の夕刻、リリアが訪れた。前と違って、指先は震えていなかった。


「今日は、お願いに来たのではありません」


 最初に、そう言った。前置きを削ってきた人の言い方だった。


「では」


「ご報告です」


 机の上に、断り状が置かれる。


『公開履歴に基づき、当面は見送る』


 理屈は正しい。公開された情報をもとに、合理的な判断が下されただけだ。断り状に、書き直すべき箇所は一つもない。


「再建計画は、公開しました」


「確認しています」


「ですが、融資は変わりません」


 リリアは、淡々と続けた。


「私は、隠してほしいわけではありません。失敗も、残して構いません。ですが、失敗の履歴は、未来の私より強く評価されます」


 エリシアは、言葉を選んだ。選んだ時点で、答えとしては遅れている。


「評価は、時間で薄れます」


「その時間が、ありません」


 小規模商団は、数か月の停滞で崩れる。理屈の正しさは、その速さに追いつかない。


「公開は公平です」


 エリシアは、理論を口にした。理論を口にするしかないときの、あの手触りがあった。


「成功も、失敗も、同じだけ残ります」


「いいえ」


 リリアは、首を振った。


「失敗のほうが、よく読まれます」


 沈黙。それは事実だった。金を出す側は、損の目を先に見る。成功は期待値で、失敗は現実値だ。


「公開は、私の名前を固定しました」


 静かな言葉だった。責めてはいない。事実として、そう読まれるという報告だった。


「一度失敗した商団長、として」


 エリシアは、初めて視線を落とす。公開は、透明性を守る。だが、過去を現在に貼り付ける。


「ですから」


 リリアは、まっすぐに言った。


「私は、制度の外で戦います」


 言い切ってから、彼女は少しだけ息を吸った。


「制度を否定しているのではありません。ただ、制度が私を見ていないのなら、見てもらうまで待つ時間が、うちにはないというだけです」


 エリシアは、何も返せなかった。否定する言葉は、いくつも浮かんだ。どれも正しかった。正しくて、この場では何の役にも立たなかった。


 沈黙は、思ったより長く続いた。やがてリリアは、鞄から紙を一枚取り出し、机の上に置いた。


「これは、置いていきます」


 表題は、慣れない字で書かれていた。定規を当てずに引いた線が、途中で少し下がっている。


『履歴に、未来を書き足す仕組み(案)』


「……あなたが?」


「帳付けと二人で、三晩かけました」


 リリアは、少し照れたように言う。


「失敗の後に再建成功があれば、評価は変わります。ですが今は、再建途中しか表示されません。それだけの話です」


 未完成の状態が、評価を固定する。エリシアの思考が、ゆっくりと動いた。公開は、静的だ。時系列はある。だが、重み付けはない。


「……よく、ここまで」


「うちに、これを実装する余裕はありません」


 リリアは、立ち上がった。


「ですから、置いていくのです。使ってくださっても、使わなくても構いません」


「なぜ」


 エリシアが問うと、彼女は初めて笑った。


「次に来る誰かが、六人抱えているかもしれませんので」


 扉が閉まり、部屋には音がなくなった。


「……よろしいのですか」


 ヴァルドが、低く言う。エリシアは、答えなかった。


 机の上には、紙が一枚。慣れない字で、罫線も引かれていない。


 彼女はそれを引き寄せ、隅を揃えて置き直した。

制度の外で戦うと言った人が、制度のための案を置いていく。この矛盾は矛盾ではなく、たぶん、彼女が六人を抱えている人だからです。作者に書けるのはここまでで、あとはエリシアの沈黙に任せました。次に彼女が座るのは、王都の議場の傍聴席。名札には所属も肩書きもなく、見直しを求める議員が、本人のいない場所でリリアの名を証拠として使います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。