第43話 光を歪める者
最初の異変は、記録の速度だった。
「……更新が早すぎます」
ヴァルドが、公開枠組みの記録板を見つめる。
本来、決定と修正は段階的に反映される。
だが、ある参加団体の運用記録が、
異常な速度で更新されている。
「改変履歴は残っています」
「ええ」
エリシアは、画面を追う。
削除はできない。
だが――
「大量の修正で、痕跡を埋もれさせています」
それが手口だった。
失敗を消すのではない。
**成功の記録で覆い隠す。**
同盟内部でも報告が上がる。
「王国関連団体です」
アルノーが、低く言う。
「公式ではない。
だが、王国支援を受けている」
公開枠組みを利用し、
“成功例”を量産している。
小規模な案件。
限定的な成果。
だが、記録上は華やかだ。
「比較されれば、
こちらが劣って見える」
管理派が言う。
「公開は公平だ」
アルノーは、静かに返す。
「だが、公平は
操作できないとは言っていない」
商会連合でも動きがあった。
「市場が揺れています」
部下がマリアンに報告する。
「王国系団体の成功例が拡散され、
資金が流れています」
「中身は?」
「短期案件です。
長期評価は不明」
マリアンは、目を細めた。
「……光を使い始めたわね」
ハルフェン。
「対応しますか」
ヴァルドが問う。
「糾弾はしません」
エリシアは、即答する。
「では?」
「分析を出します」
翌日。
公開枠組みの記録板に、
新しい項目が追加された。
『短期成功率と長期持続率の比較』
具体的な数値。
評価期間。
再発率。
王国系団体の案件も、
平等に記録される。
結果は、冷静だった。
短期成功率:高。
再発率:未評価。
長期持続率:データ不足。
華やかな数字の裏に、
空白が見える。
「……攻撃ではないのですね」
ヴァルドが言う。
「いいえ」
エリシアは、穏やかだ。
「比較です」
光は、均等に当てる。
誰かを照らし、
誰かを焼くためではない。
**影の位置を示すために。**
数日後。
市場は、落ち着きを取り戻し始めた。
資金の流れが、再び分散する。
王宮。
「比較資料が出回っています」
側近が報告する。
「削除は?」
「できません。
公開枠組みの規約違反になります」
レオンハルトは、資料を閉じる。
怒りはない。
ただ、理解がある。
「……これが、公開か」
隠せない。
だが、嘘もつけない。
ハルフェンの夜。
エリシアは、記録帳に一行書く。
『公開は、歪められる
だが、修正可能』
光は万能ではない。
だが、暗闇よりはましだ。
争奪戦は、峠を越えつつある。
次に問われるのは――
**制度が、定着するかどうか。**




