第38話 書き換えられる成果
王宮の広間は、久しぶりに明るかった。
「本日より、新運用方式を正式採用する」
第一王子レオンハルトの声が、響く。
名は出さない。
設計者も明示しない。
ただ――
「分散型判断方式の導入により、
港湾事故率は改善傾向にある」
それは事実だ。
だが、その方式は、
市場で広がった“模倣制度”を基にしている。
「王国独自の改善策として、
今後も推進する」
拍手が起きる。
官僚たちは安堵する。
成果が出た。
批判を抑えられる。
だが――
それは、誰の成果か。
その頃。
クレア・ミルトンは、発表資料を読み込んでいた。
「……数値は合っている」
事故率は、確かに下がっている。
だが、注記がない。
途中で起きた混乱も、
判断遅延も、
資金繰りの危機も。
すべて、消えている。
彼女は、記録帳を開く。
『王国公式発表:
分散型判断方式を採用』
そして、静かに追記する。
『出典:市場模倣制度
失敗事例:非公開』
記録は、消えない。
同盟でも、報告が届く。
「王国が、模倣制度を公式化しました」
アルノーは、短く目を閉じた。
「……早いな」
管理派は、即座に反応する。
「だから言ったのだ。
主導権を握らねば、利用される」
「王国が成功すれば、
制度の本流はあちらになる」
焦りが広がる。
一方、商会連合では。
「王国が公式化した以上、
市場も追随する」
部下が報告する。
マリアンは、静かに頷く。
「だが、公開性はない」
「ええ」
「ならば、歪みは遅れて出る」
彼女は、まだ動かない。
ハルフェン。
「王国が、成果を出しました」
ヴァルドが報告する。
「出しました、か」
エリシアは、穏やかに答える。
「取り戻されるのでは?」
「取り戻されません」
即答だった。
「形だけを採用すれば、
最初は改善します」
「ですが?」
「改善の理由が検証されない」
それは、遅効性の歪みだ。
夜。
エリシアは、帳簿に書く。
『王国:模倣制度を公式採用
公開性:なし
失敗記録:不明』
そして、もう一行。
『予測:短期的成功
長期的再発』
感情はない。
怒りもない。
ただ、分析。
王宮では、祝宴が開かれている。
久しぶりの明るい空気。
だが、誰も知らない。
改善が、
どこから来たのか。
そして、
何が削られたのか。
エリシアは、灯りを落とす。
奪われたのは、名前だけだ。
本質は、まだ――
どこにも属していない。




