第37話 割れる同盟
同盟評議会の空気は、これまでとは違っていた。
表向きは、冷静。
だが、言葉の端々に棘が混じる。
「模倣制度の事故は、予想通りだ」
管理派の評議員が、資料を叩く。
「だからこそ、我々が管理枠を整える必要がある」
「急ぎすぎれば、同じ轍を踏む」
非所有派が反論する。
「公開性と透明性を確保せずに拡大すれば、
制度そのものの信用を落とす」
「理想論だ」
短く切り捨てられる。
「市場は待たない。
王国も、商会も動いている」
その名が出た瞬間、空気がさらに重くなる。
「同盟が遅れれば、主導権を失う」
「主導権を握ることが目的なのか?」
問いが投げられる。
「目的は安定だ」
「安定のために、所有するのか?」
視線が、アルノーに向く。
「リヒター、君はどう考える」
議長の問いは、逃げ場がない。
アルノーは、ゆっくりと立ち上がった。
「制度は、枠がなければ広がらない」
管理派が頷く。
「だが」
彼は続ける。
「枠が所有の形を取った瞬間、
制度は“同盟のもの”になる」
「それの何が問題だ」
「壊れた時、
同盟が壊れる」
静まり返る会議室。
「失敗を消さない設計が、あの制度の核だ」
アルノーは、はっきりと言った。
「それを管理下に置けば、
必ず“調整”という名で削られる」
「ならば、どうする」
議長が問う。
「枠は作る」
アルノーは、断言した。
「だが、所有しない」
ざわめき。
「そんな枠があるのか」
「作るしかない」
それは、賭けだった。
会議は、結論を出せないまま終わった。
同盟は、割れた。
夕刻。
港を歩きながら、アルノーは深く息を吐いた。
「……どちらにも、正義がある」
だが、両立しない。
その夜。
エリシアの執務室。
「同盟は、割れました」
アルノーは、率直に報告する。
「管理派と非所有派。
決定は先送りです」
「時間は、稼げましたね」
「だが、長くは持たない」
「ええ」
エリシアは、白紙の一枚を見つめる。
「では、こちらから提示します」
「何を」
「“所有できない枠”を」
アルノーは、目を細める。
「具体案があるのか」
「あります」
静かな声だった。
「公開型。
参加自由。
決定は記録され、
改変履歴は消せない」
「……それは」
「管理を、逆に縛る枠です」
アルノーは、ゆっくりと笑った。
「本当に、厄介だな」
「光栄です」
同盟は割れた。
だが、それは崩壊ではない。
**再編の前兆**だ。
港の灯りが、遠くに揺れる。
制度は、まだ奪われていない。
だが、奪い合いは激しさを増している。
次に動く者が、流れを変える。
その兆しが、確かに生まれていた。




