表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

70/89

070 再会

 目に映る景色が次々と変わる。


 国境の壁を越え、市街地を走り、田畑の横を駆け抜け、日の当たらない薄暗い森の中を疾走する。


 そんな中も考えるのは教え子の事だけだ。


 普通の授業を受けることができているのだろうか。休憩なしで無理やりにぶっ通しで授業をやらされてないだろうか。ちゃんと嫌なことは嫌だって言えているのだろうか……。


 森を抜け、景色が淡い緑色の田畑に代わる。

 視界の中どこまでも続く田畑を抜けると大きな川が目に入る。掛けられた橋を疾駆し、不安にさいなまれながらもしばらく地面を蹴り続けると立派な石造りの壁が見えてくる。

 王都ミルドゥアだ。


 スピードを落とすことなく王都へと突入し、学園へと全力疾走する。


 きちんと家に帰れているのだろうか。まさか監禁とかされていないよな?

 ありえない事ではない。学園はこの国の貴族が通う学校だ。その中でもリクセリアは超上流階級の貴族。身代金目的で誘拐されても不思議ではない。

 もちろん高貴さだけではない。リクセリアもアゼートもメルも美少女だ。それだけで悪漢から狙われる理由にはなる。


 はやる気持ちを抑えきれずに学園の校門を抜け、学園内は走ってはいけないという規則を破って廊下に激しい足音を響かせる。


 リクセリア、アゼート、メル、無事でいてくれよ!!


 ――バタンッ


  J棟1階801教室。 特進クラス(ヴァルキュリア)の教室の扉を力任せに開く。


「リクセリア……アゼート……メル……」


 突然扉が開いたことに驚いたのか、三人が三人とも驚いた顔でこちらを見ている。


「ナオ先生! 早かったのね! お帰りなさい!」

「……先生……お帰り……」

「クランク先生、お土産!」


 俺の姿を確認した三人がわーっと、俺の方に走り寄ってくる。


「三人とも……無事でよかった……」


 本当によかった。

 彼女たちのぬくもりを、またこの手に感じることができて。


「え、ちょ!? 先生!? ナオ先生っ!?」

「……先生、汗だく。……服についてしまう……」

「はわわわ、まさかナオ先生からハグしてもらえる時がくるなんて」


「心配したんだ。君たちがひどい目に合ってないかって……。無事で本当によかった……」


 三人の背の高さはそれぞれ違うため、三人の体をぎゅっと抱きしめようとすると俺は少し(かが)むこととなる。そうすると真ん中のアゼートが一番背が高く、俺の顔の下あたりに彼女の頭が来ることになる。


 彼女たちが本物かどうか。俺は無意識のうちにスンスンと鼻を鳴らして、一番近くのアゼートの匂いを確認した。


「間違いない、アゼート。本物のアゼートだな」


「……?? ……本物です……」


 続いて、右の手でリクセリアの頭を、左手でメルの頭をなでる。

 織物のように一直線に後ろに流れるすべすべの金髪と、指に絡んでくる細く黒い髪の毛。

 どちらも俺の手に二人が本物であることを伝えてくれる。


「ちょっと、先生、急に何よ。やめなさい」

「あの、私はもっと続けて欲しいです。先生から触ってくれることなんてめったにありませんから」

「……二人だけずるい。……私も撫でて欲しい……」


 不満そうにアゼートが言い、深くかぶっているフードを取るもんだから、愛しさがこみあげて、わしゃわしゃとその短いくせ毛を撫でまわしてあげた。


 …………はっ!


 俺は我に返った。

 不安感から我を忘れて三人を愛でに愛でまくってしまったが、そもそもこれはセクハラなのでは?

 というか、彼女たちは女の子。俺が近づくとどうなるか――


 バッと彼女たちと距離をとったがもう遅い。


 ――ピロン


 『リクセリア・ラインバートにスキル【クロノ・アリオンルールの知識】を貢ぎました』

 『アゼート・クームにスキル【ダブルアタック】を貢ぎました』

 『メル・ドワドにスキル【スラッシュキック】を貢ぎました』


 聞き馴染みのある音と共にスキルを貢いでしまった。


「……先生、もしかして貢いでしまった? ……」


 俺の態度から察する頭脳派のアゼート。


「あ、ああ。これは自業自得だ……」


 メルだけではない。リクセリアとアゼートも、メルの反乱(と俺が勝手に名前をつけている、メルとの婚約事件のことだが)の時に、俺のスキル【貢ぐ者】の事を知っている。

 でも逆に言うとこの世の中で知っているのはこの三人だけとなる。未だに両親もこのことを知らないからな。


「そ、それで? ナオ先生が我を忘れる程、何があったんですの?」


「それは、かくかくしかじかで」


 と、これまでの事情を話す。

 もちろんあちらの女学院でのやましいことは伏せたまま。


「あの、先生、わたしの事を心配してくれてありがとうございます」


 一番背の低いメルが見上げるようにして赤らめた顔でお礼を述べてきた。


「メルさん、あなただけが心配されてたのではないのよ? もちろんわたくしも心配されていましたわ」


「……そんなことで張り合うのもどうかと思うけど……私だって心配されてた……」


 うん。思った以上にクラスでの一体感が生まれているな。


「君たちはどうだったんだ? 辛いこととか酷いこととか、監禁とかされなかったか?」


「まあ、代わりの先生の授業を受けていただけですからねぇ」

「……そう。……代わりの先生は全然ものたりなかったけど、……知識はクランク先生、と同じくらいは持ってた……」

「そうですわね。自習と宿題は多かったですわ」


 そうか。きちんと勉強してくれていたか。

 新米の俺がベテランと同じように授業をできてるとは言わないが、彼女たちが不自由なく勉強できていたのなら、代わりの先生にはお礼を言わないとな。


 っと、その前に、彼女たちの無事が確認できたんだから、俺を先に行かせてくれたカリーナ先生に救援を送ってもらうように学園長に伝えに行かないと――


「思ったよりも早かったな」


 踵を返して学園長室に行こうとした俺の耳に、聞きなれない声が入ってきた。


 教室入口のドアに立つ声の主へと視線を向ける。

 センター分けのサラサラの金髪ロン毛。俺と同じくらいの年だろうか。そこに立っていた男は、この学園の教師服を着ていながら、学園指定ではない赤く長いマントを羽織っていた。


「あ、ナオ先生、この人が代わりの先生です」


「なるほど。初めまして、ナオ・クランクです。この 特進クラス(ヴァルキュリア)の担任をしています。俺が出張中の間、代わりに彼女たちを教えていただきありがとうございます」


 握手のために手を出したが、その手は握られること無く宙ぶらりんとなる。


「あの……」


 気まずい中、再度握手を促すために声を出した。


「初めまして、か。俺の事を忘れてしまったのか? ()()()()


 俺の事をそのあだ名で呼ぶのは……


「もしかして、ろっちんなのか?」

お読みいただきありがとうございます。

突如現れたのは幼馴染づらをする代理の先生! 百合の間に挟まる男キャラとなるのか!(本作には百合要素はありません

一体何が始まるのか! 次回をお楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ