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047 リクセリアの家庭訪問 その1 殺意の証明

本日は珍しく2話更新していますので、前の話を読んでいない場合は、もどるにて「046 第5章プロローグ」を先にお読みください。

 リクセリア・ラインバート。この国、グロリア王国で代々財務大臣を務めるラインバート家の令嬢で、その美しさからグロリア王国の至宝と呼ばれている。


 そんな生徒の家庭訪問なのだが……。

 しょっぱなから俺は広大な敷地と屋敷の規模に圧倒されていた。


 王都はかなりの人口があり、古くからの歴史もあるため手狭になっていて家が密集している地区が多い。貴族街であってもそれは同じで、家の質は高くても、ある程度の広さしか取ることができないのが普通だ。


 そんな貴族街の中で、一際広々としている一帯。森林公園かと思うほどの広さの庭と城かと思うほどの屋敷。遠目で見る屋敷が城と比類する規模なので、中に入れば圧倒的な広さを感じるのだろう。


「私、リクセリア・ラインバート様の通う学園の担任教師で、ナオ・クランクと申します。本日は家庭訪問に参りました」


 きらびやかな装飾が施された門の前に立つ番人に事情を伝えると、屋敷の中からメイドさんがやってきて中へと案内してくれる。


 予想通り、というか予想を超えて屋敷の中は壮麗で絢爛豪華だった。

 これがラインバート家の力だ、と言わんばかりの装飾。美術品や絵画が飾られ、とてつもない大きさのシャンデリアがぶら下がっている。


 そんな中を面談の部屋まで案内されている途中のこと。


「あー、先生だ! クランク先生、こんにちは!」


 リクセリアに似た金髪の少年。彼女の弟のカルツ君が手を振って近寄ってきてくれた。


「ああ、久しぶりだね。こんにちは」


 学園見学会の時に会って以来なのだが、何故か懐いてくれている様子。


「カルツ様、クランク先生は今から大事なお話をいたしますので」


 メイドさんがそう伝える。


「分かってるよ。先生、後でスキル教えてよ! 僕も【天空跳躍】見たい!」


「う、うーん。時間があったらね」


 見せようにも、俺はもう【天空跳躍】は使えないのだ。

 なんとか理由を作ってしのぐしかない、と思った矢先、メイドさんからフォローが入る。


「さあ、カルツ様、お戻りください。先生もお忙しいのですから」


「ちぇ。じゃあ先生、またね!」


 そう言って笑顔で手を振って去って行った。素直ないい子だ。

  

 そんな事があったが、俺はメイドさんに連れられて面談部屋の前にいる。


 メイドさんがコンコンと扉をノックして、クランク先生をお連れいたしました、と言うと、入り給え、という男性の声が聞こえてくる。


 そして俺は中へと立ち入った。


「よく来たな。まあ座り給え」


 中央に位置する男性。リクセリアの父、ザルバルド・ラインバートはそう口を開いた。

 俺は失礼しますと断って豪華なソファーに腰を下ろす。


 目の前にはお父様がいて、向かって右側にリクセリア。そして左側にお母さまがいらっしゃる構図。

 お父様はやたらと圧が強い。強面(こわもて)でもあるが、口回りと顎からもみあげにかけて繋がっている立派なひげがそれに拍車をかけている。

 その横でニコニコと微笑んでいるお母さまは、リクセリアに似て美人。この場合、リクセリアがお母さまに似て美人と言うべきか。

 ともかく二児の母と思えないほど若々しく、それに、ただの美人ではないことが立ち振る舞いからも伝わってくる。【貢ぐ者】が発動しないように、なるべくお母さまの方は見ないようにしよう。


「君がナオ・クランクかね。ふーむ、なんだか頼りなさそうだな」


 初対面でいきなり刺してくるのか。

 これが剛腕で鳴らしている財務大臣ザルバルド・ラインバート。


「リクセリア様の担任を務めさせていただいております。以後お見知りおきを」


 まあ俺も貴族の端くれ。

 これくらい普通に流せなくては貴族はやっていけない。


「ふん。つまらんやつだな。覇気の欠片(かけら)も見えん」


「もう、アナタ。クランク先生の面接ではないのよ」

「お父様、恥ずかしいからやめてくださる?」


 あちらは女性陣が優勢なようだ。

 ワイワイと家族で言い争いを始めた様子に、落ち着くまで時間がかかると踏んだ俺は置かれたティーカップを持ち上げ紅茶をいただく。


「ぐっ!」


 な、なんだ、ビリッとする。紅茶に何か入っているのか? もしかして毒?


 紅茶を口に含んだ瞬間、全身に刺激が行き渡るような痛みを感じた。


「おや、どうしたのかね先生。顔色が悪いようだが? そういえば、君がいなければ、リクセリアと王子が結婚していたはずだったことを思い出したよ」


 ニヤニヤとした笑みを浮かべるお父様。

 アンタが犯人か!


 リクセリアの婚約破棄。王族とのパイプを求めている彼からすると、俺はその野望をブッ潰した張本人。この場で毒殺されるに足る動機は存在する。


 だがしかし、こんなところであっさり死ぬわけにもいかない。

 俺は解毒のためにもう一口紅茶を口に含み【毒検出(簡易)】で成分を調べる。

 シェルシャマルの毒。少量で長時間効果が出続けるタイプの毒を検出した。

 他にもエルバン、ダズソー、バルンガフィッシュの毒などが入っている……。

 一般的には取り扱われない種類の高価な毒のオンパレードだ。


「アナタ、婚約破棄の事は今日は言わない約束でしたわよね。まったく……アナタときたらいつもそうなんですから」


 あっ。いけない、それには毒が!

 止める間もなく、お母さまが紅茶に手を付けて口に含んでしまった!


 毒は紅茶に均一に混ざり合っていたことから、カップ側に仕込まれたものではない。

 つまり、紅茶自体に含まれていることになるのだが、紅茶はそこのポットから皆に注がれていた。

 だからどの紅茶を飲んでも毒を摂取してしまうのに!


「あら、このお茶、いつものじゃないの」


 あれ? なんともないのか?


 あら、ほんとだわ、と言ってリクセリアも口をつけているぞ。


「イラミリィ、どうしていつものお茶なのかしら。お客様にお出しするのは毒の入っていないものにするのは当然のことよ?」


 ん? 毒の入っていない?


「失礼しました奥様。旦那様からいつものお茶を出すようにと仰せつかっておりましたので」


「あ、な、た? 先生が毒で死んだらどうなさるおつもりですか? わたくしたちは普段から【毒耐性】を得るために毒を摂取してますけど、先生は違いますのよ?」


 な、なるほど、これが噂に聞く、上流階級の【毒耐性】取得の方法か。

 幼少期から弱めた毒を摂取し続けて【毒耐性】を得る方法があるのだ。


 だが俺だって赤毛のスキル開拓者(レグ・ベリル)と呼ばれた男だ。解毒スキル【解毒(神経毒)】を使って、複数混入された毒を全て中和する。


「お、おかまいなく、今解毒しましたから」


「ほら、お父様、クランク先生はすごいのよ。言った通りでしょ」


「ふん、つまらん」


「あーなーたー!」


「あの、そろそろ本題に入ってもよろしいでしょうか」


 夫婦の争いが始まる前に用事を済ませておきたい。


 聞かせてくれるかしら、とお母さまが場を仕切りなおしたので、俺は学園でのリクセリアの様子を話し始めたのだが……


「その時のクランク先生の一撃が凄かったんですわよ!」

「あの時のクランク先生は迷いも無く命を懸けてくださったんですわよ!」

「それで、わたくしも知らない装飾学の知識を教えてくれるんですの!」


 などと、たびたびリクセリアが話の腰を折ってしまうため、俺の事を紹介するのが目的のような会合になっていた。

 俺の食生活については全く関係無いと思うのだが……。


 そんなこんなで一通りの話を終えた。


「それではお時間をいただきありがとうございました」


 報告が終わったので帰ろうとすると――


「ねえ、クランク先生。わたくしアクセサリが欲しいから、これから付き合ってくださいませんこと?」


「えっ!?」


 何を言い出すんだこの娘は。

 なにゆえ俺を必要とするのか、意味が分からない。俺はまだ仕事中だぞ。

 それに、一流貴族ともなれば商人が屋敷を訪れて、持ってきた品の中から買うのが普通で、わざわざ店舗に赴いたりしないはずだぞ。

 

「クランク先生、お忙しいのは存じ上げていますが、娘に付き合ってあげてくださいませんか?」


「いやいやいや、そんなのおかしいですから」


「別に買ってくれとはいいませんわ。先生は安月給なんですから、選んでくれたらそれでよくってよ」


「自分の好きなのを選んだらいいじゃないか。なんで俺が」


「それじゃあ行く意味ないじゃない! ばかっ!」


 プリプリと怒りだし、罵倒されてしまった。

 俺が一体何をしたって言うんだ……。


「あらあら、リクセリアったら。ここはわたくしにまかせなさい。リクセリアは準備をしてきなさいな」


 わかったわ、と言ってリクセリアは部屋の外へと出ていった。

 すでにお父様も退室しているから、残っているのはお母さまとメイドさんだけ。


「あ、あの……俺は都合が……」


 今から何が行われようとしているんだ……。

 何が行われなくても、美人の女性に近づくことは避けたいんだが……。


「イラミリィ」

「はい奥様」


 メイドのイラミリィさんが、お母さまになにやら革袋を手渡している。

 今のうちに部屋から脱出したい……。


 俺はこっそりと後ずさるが、そうは問屋が卸さなかった。


 目の前のメイドさんが陽炎の様に消えた。

 どこに行った!? と思った瞬間、背中に圧を感じた。


 ――むにゅり


 という柔らかい圧だ。

 まさか、と思った時にはもう遅い。その状態に気づいてしまったのだから。


 ――ピロン


 『イラミリィ・エールにスキル【半円運動(左)】を貢ぎました』


 メイドのイラミリィさんが、俺の背中からがっしりと腕で俺の体を押さえているのだ。

 俺の体はそれなりに大きいため、女性のイラミリィさんでは羽交い締めするまでには至らず、両腕で抱き着くような形で抑え込まれている。つまり、腰のあたりに感じる柔らかい圧は胸の感触であり――


 ――ピロン


 『イラミリィ・エールにスキル【誓いの一撃】を貢ぎました』


 ぎゃぁぁぁ! 解説したら一層意識してしまう! 無為! 無双! 虚無! 虚空!


「は、離してください、イラミリィさん!」


「奥様の命令です」


「お母さん、やめさせてください!」


「あらやだ、お義母さんだなんて。クランク先生、悪いようには致しませんわ」


 優雅な笑みを浮かべてお母さんが近づいてくる。

 そして、俺の目の前まで来ると、すっと手を伸ばして俺の頬に触れてきたのだ!

 もちろん近距離! 香水の香りが鼻から脳へと届く距離。


 ――ピロン


 『カーチャス・ラインバートにスキル【おはじき(初級)】を貢ぎました』


 リクセリアを生んでいるはずなのに、若々しさがある。その中に大人の魅力と色気が重なり合わさっていて、だ、だめだ。


「ねぇ、先生。こちらを受け取っていただけるかしら」


 先ほどメイドのイラミリィさんが渡していた革袋だ。


「そ、それは?」


「ここから娘が欲しがるアクセサリの代金をお出しいただければいいわ。残りは先生がお使いくださいな」


 中身は(かね)かー!

 親の財布を預かって、子供にいろいろ買い与える保護者の役割をしろってことか!


「奥様、きちんと伝わっていないかと」


「あら、クランク先生。察しが深くありませんと、女性にもてませんわよ。まあ、娘以外の女性は不要ですけど」


「ど、どういうことですか」


「おほほ、このお金はあなたのもの。つまり、娘に買ったアクセサリはあなたからのプレゼント、ということですわ」


「いやいやいや! それは理屈が通りませんって!」


「それを通すのが一流貴族というものですよ。今後は先生もそのあたりを覚えていただくことになりますから」


 俺の頬をさすっていた手の指が、俺の唇に当てられる。


 ――ピロン


 『カーチャス・ラインバートにスキル【びっくり箱】を貢ぎました』


 だ、だめだ、前後を挟まれたこのままではスキルが!

 スキルが無くなって俺の命が失われるのも困るけど、カリーナ先生の時みたいに二人のどちらかに【貢ぐ者】が移動してしまうかもしれない!


 ええい、しかたない!


「わ、分かりました。だから離れてください!」


 俺は早々にギブアップし、お母さまの思惑に乗ることになったのだった。

お読みいただきありがとうございます。

始まった家庭訪問。この娘にしてこの親あり。

次回、デート回!? をお楽しみに!

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