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048 リクセリアの家庭訪問 その2 甲斐性を求められる

「いらっしゃいませー! あっ、リクセリア様!? こんなところにどうされましたか? お呼びいただければいつでもお屋敷にお伺いしますのに」


 俺たちは馬車で宝石店に乗り付けた。


 道中の馬車内は俺とリクセリアだけ。

 正面の真ん中に座るリクセリアに対して、俺はなるべく近づかないように椅子の端っこに座っていたのだが、どうやらそれが気に入らなかったようで、俺の横に座ってこようとするもんだから、俺もするりと体を交わして逆側に座りなおした。

 そしたらリクセリアがムキになってしまい、椅子取りゲームのようにドタバタと馬車内で暴れていたら、御者さんからやめてくださいと泣きつかれて、そこでゲームセット。


 俺は敗北し、窓とリクセリアに挟まれた形になったが、心を殺して意識を空へと飛ばし、スキル【自動相槌】を使っておいて、リクセリアの会話に自動的に反応するようにして、その場をしのぎ切った。


 そんな道中を経て宝石店の中にいる。


「アクセサリを見に来たの。いくつか見繕ってもらえるかしら?」


「分かりました。リクセリア様の美しさを何倍にもできるように誠心誠意選ばせていただきます」


 などと言う店員にVIPルームに通された。


「こちらはいかがでしょうか」


 そこからは店員さんが持ってきたものを試しに付けてみる、リクセリアファッションショーが開催された。


「どうかしら、クランク先生」


「うん。いいんじゃないか?」


 耳に着けたイヤリングを見せてくれるが……ぶっちゃけ、アクセサリの事なんかよくわからない。

 すでに何種類も付け替えを行っているが、俺は同じ答えしか返していない。


 リクセリアが美人なのは解っている。だから何を付けても似合うのも分かるし、凝視しようものならすぐさまスキルを貢いでしまうことも分かっているので、バレないように視線を外しながら返答をしている。


 いつまでも続けるわけにも行かないので、次のアクセサリが来たところで、「ああ、うん、それがいいんじゃないか?」と返答しておいた。


 どうやらそれに決まったのか、「リクセリア様、少々こちらへ」と店員さんとリクセリアは奥へと消えて行った。


「ふぅ」


 ようやく一人になれたので一息つく。

 ラインバート家の屋敷に入った時からずっと女性が近くにいたので心休まる時がなかった。正直なところ早く帰りたい。


 俺は窓の外を見やる。日はまだ落ちていないとはいえ、長い時間拘束されている。今日失ったスキルの分まで帰ったら修行しておかないと、スキルが尽きてしまう。


 しかし、アクセサリの支払いは俺がやるんじゃないのか? 待ってたらいいのか?


 それなりの時間待たされた俺。

 財布は俺が握っているはずなのを思い出したころに――


「彼氏さまー、こちらへどうぞ」


「ぶーっ! 彼氏じゃありません! 保護者です! いや、保護者でもなくって、教師と生徒です!」


「はいはい、彼氏さま、どうぞこちらへ」


 聞く耳持ってないなこの店員。

 しかしようやく会計か、と思ったのに連れて行かれたのは、なぜか試着室。

 消えたリクセリア。そして連れてこられた試着室。すごく嫌な予感がする!


 俺は踵を返して逃げ出そうとするが、逃げ道は店員さんに塞がれてしまっている!


 ――ガチャ


 試着室の扉が開いた。


「せ、せんせい、どうかしら?」


 俺の目はその胸元に吸い込まれてしまった。

 何故か服の首から胸元が開かれているのだ。

 大人の女性には程遠いが、それなりに主張する谷間。


 開かれていた理由はすぐに分かった。

 そこには首から掛けたネックレスの宝石部分が鎮座していたのだ。

 しかも、開かれた胸元には紫色の下着の端が見え隠れしている!


 ――ピロン


 『リクセリア・ラインバートにスキル【泥団子(堅)】を貢ぎました』


 見惚れている場合じゃない!


「わ、わかった、素敵なのは分かった! はやくしまいなさい!」


 そう言ったものの、リクセリアはもじもじとしているだけで、胸を仕舞う素振りを見せる気配はない。


 そうだ! しまいなさいじゃなくても、俺が試着室の扉を閉めればいいのか!


 名案を思い付いた俺はガチャリと扉を閉めたのだが……不思議と追撃は無かった。

 もしかしてリクセリアもかなり恥ずかしかったのかもしれない。


「もうっ! 結局先生、選んでくれないじゃないの!」


 そう思ったのもつかの間。部屋の中からお怒りの声が聞こえてきた。


「馬鹿、馬鹿、馬鹿! もうしらないわ! 学園にも行かないから!」


 学園に来なくなるのは困る! と言っても、困った、どれがいいかって言われると、わかるはずもなく、リクセリアに一番似合うもの、一番似合うもの……。


「あっ!」


 そこで俺は思いついた。最近のリクセリアに足りなかったものを。


「鎖だよ鎖! あれがいい!」


 リクセリアは最初に綺麗な赤い鎖を身に着けていた。王子から貰ったと言っていたが、あれもアクセサリと言えばアクセサリだろ。

 王子との婚約を破棄してしまった後から付けなくなっていたけど、いつのまにか俺の中であれはリクセリアを構成する一部になっていて……それが足りなかった物足りなさに今気づいたのだ。


「くさり、ね。はぁ……。男ってみんなそうなのかしら。でも、先生が好きなんだったら、つけてみようかな。うん。先生にだったら束縛されてもいいかも」


「ん? 何か言ったか?」


「何も言ってないわよ。それより、先生知っているのかしら? 鎖はイヤリングとは違って必要な量が多いからお高いのだけど」


「その、細い鎖で頼みます……」


 お母さんから渡されたお金、足りるかな……。超えた分は自腹だろうな


「そんなのだめよ。王子のよりも太くしっかりした鎖じゃないと!

 決まりね。オーダーメイドで頼むわ。素材はレッドミスリルよりも希少なレッドオリハルコンでよろしくね」


 おおおおおおおーい、本気かよ!


「はーい、お任せください。あ、彼氏さん、お代は一括じゃなくていいですが、手付金はいただきますからね」


 断る間もなく、店員が商談を済ませてしまった。

 超過分、俺の給料で足りるかな……。


 そうして、リクセリアの家庭訪問が終わったのだった。

お読みいただきありがとうございます。

金銭感覚の違いは結婚した時にすれ違いとなりやすい!? 頑張れリクセリアちゃん!

次回はアゼートの家庭訪問が始まります。お楽しみに!

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