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040 完璧なる計画

「はぁぁぁぁ」


 先ほどのカリーナ先生とのやり取りを思い出して、自室で大きなため息をつく。


 カリーナ先生はまだ【貢ぐ者】を持っていた。

 いくつかのスキルを失って授業に支障が出ていることも問題だが、【貢ぐ者】がカリーナ先生から婚約者に移ってしまった場合はさらに難易度の高い問題となる。

 今なら、カリーナ先生を俺に惚れさせるだけで【貢ぐ者】は俺に戻ってくるだろうが、婚約者となると男性なので、同じ男性の俺が惚れさせるなんてことはできないからだ。


 カリーナ先生を俺に()()()()()()()、とか偉そうなこと言ったが、現状それすら無理な状態だ。


「だってのによ……どうしてああ言ってしまったんだ」


 あそこで、カリーナ先生と婚約者の関係についてはなんとも思っていないと伝えてしまった。

 せめても、気があることを言っておけば、俺の事を気にしてくれたのかもしれないのに。


 【貢ぐ者】の事を伝えるべきだったのだろうか。

 仮に伝えたとしたら、カリーナ先生は婚約者と会うのをやめてくれるのだろうか。

 どちらにせよ、俺が彼女の人生を狂わせてしまうことに変わりはない。


「どうすれば……」


 俺は思考のループに見事にはまりながら、寝られない夜を過ごした。


 翌日の事。


 俺は日の落ちた夜の街を歩いていた。

 道行く人たちがチラチラと俺の方を見ているのが分かる。以前、リクセリアとの関係がゴシップ紙に乗った時もそうだったが、今回のこれは少し違う。


 彼らは俺の姿を怪しんでいるのだ。


 さもありなん。

 今の俺は不審者。目だし帽をかぶって、さらにフード付きのマントをかぶった、完全な犯罪者予備軍の姿。これから盗みや殺しを行いに行くという風体なのだから。


 なんでこんな姿をしているのかというと――


「ここか……」


 王都の外れの人気のない路地。俺のような恰好をした人たちの姿がよく似合う、さびれた場所。そこの一角にある古びた石造りの建物。

 ここに用があったからだ。


 木製のドアを、ギィと押し開けて中に入る。

 こじんまりとした建物の中に人はおらず、ただ、地下への階段が続いているだけ。

 その階段を、コツコツコツと足音を立てながら、降りていく。


 この怪しい場所は何かというと、非合法のブツを扱う闇の道具屋だ。


 階段が終わり、再び扉が現れる。

 それを押して入ると、カウンターと俺と同じような姿をした人物、おそらく店主がいた。


「いらっしゃい。初めてかい? どこで聞いたか知らないが、ここを探り当てることができるだけでただものじゃないと分かるよ。何が欲しい? 毒か? それともシャブか? なんでもあるよぉ?」


 えらく甲高い女の声。

 店主の性別までは知らなかったが、この姿の俺を初見だと見抜く当たり、ただものではないだろう。


 俺はカウンターに近寄ると小声で、


「惚れ薬が欲しい。俺に気のない女でも一発でも惚れさせるような。婚約者がいても寝とれるくらいのキツイ奴を頼む」


 そう伝えた。


 罵ってもらっても構わない。

 ぐるぐるぐるぐると考えに考え抜いたが、俺にはもうこの手段しか思いつかなかった。違法な薬を使ってでもカリーナ先生を俺に惚れさせるしかないと。


「も、もう一度お願いします」


 年だから聞き取れなかったのか? なんだかさっきと声色も変わってる。


「だから、惚れ薬が欲しいんだ。この店で一番効くやつを頼む」


「え、やっぱり、その声、クランク先生?」


「なっ!? そういうその声は、ドワド君!?」


 俺はフードと目だし帽を脱ぐと、目の前の怪しげな人物のフードをひん剥いた。

 そこには、薄ら笑いを浮かべるメル・ドワドの顔があった。


「ドワド君! なんで君が違法な店にいるんだ! 犯罪だぞ!」


「ち、違います! この店は合法な店です!」


「さっき自分で毒でも売ってるっていってたじゃないか。しかも裏声までつかって」


「そ、それは店長の趣味で。ああ言った方が雰囲気が出るからそうしろって言われてまして。そ、それよりも、惚れ薬を買いたいだなんて、先生こそ法に触れることしてるじゃないですか!」


「そ、それは……」


「私は駄目で、先生ならいいって言わないですよね。先生もその辺にいる大人と同じなんですか?」


「うぐぐ……」


 ぐうの音も出ない。俺が違法なことをしようとしていたのは間違いない。それを導くべき生徒に知られてしまうなんて。


「そもそも惚れ薬だなんて、使ったのがばれたら牢獄一直線ですよ? 毒よりも罪は重い。王国法を知ってる先生なら知らないわけないですよね」


「いくらだ?」


「えっ?」


「いくら欲しいんだ。言い値を払うから、黙っておいてくれ」


「ははーん、先生、大人のくせに生徒を買収しようっていうんですか? 私に惚れ薬強制摂取教唆の犯人になれと」


「ま、まだ買ってもいないし使ってもいない。未遂だから……」


「そうですね。それで、先生、いったいどういう事情があって、惚れ薬を?」


「そ、それは言えない……」


「そうですかぁ。残念です。先生の今の立場、分かってらっしゃいます? 先生は惚れ薬を購入しようとした未遂者。私はそれを知っただけ。この状態を知られたらまずいのはどちらですかねぇ」


 言うまでもなく俺だ! そもそも買おうとしたことが公になるだけで俺の信用はガタ落ちだ。対して、メルは何も失うものが無い。しいて言うなら俺からの信用だけ。圧倒的な立場の差がある!


「わかった。いくら欲しいんだ?」


 ここは穏便に金の力で解決するしか。


「あ、ちょっと私カチンと来ましたよ。私だったらお金で懐柔できると思われてるってことですよね」


「なんだ、違ったのか? いつもそういう態度だし……」


「言ってはいけないことを言ってしまったようですね。これはもうお金では解決できませんよ? 誠意を見せてもらおうじゃありませんか。先生の態度によっては出るところに出ますからね!」


 いったいどうしたっていうんだ。いつもお金お金と言ってるメルが、お金を天秤にかけたうえで、お金じゃない方を取るなんて。


「ドワド君、もしかして疲れてる?」


「疲れてませんし、熱もありませんっ! ああもう、 店長ー! 今日はもう上がらせてもらいますー!

 さあ、みっちりお話聞かせてもらいますからね!」


「あ、ちょ、ちょっと、メル!?」


 がっしりと手首をつかまれた俺。そしてぐいっと引っ張られて、外へと連れ出される。

 案外力が強いぞ!?


 そうして、半ば無理やりに学園の俺の部屋に連れ込まれた。

お読みいただきありがとうございます!

エッチな本をレジに持って行ったら店員が知り合いだった!

みたいな展開と同じですね。

さてさて、エッチな本を買おうとしていたところを見つかってしまったナオはどうやって言い訳するのか。

次回をお楽しみに!

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