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039 禁忌の影響

「えっ! なんでそれ知ってるの? 秘密なのに」


 あぁ、またこの夢だ……。


「ナオ君に近寄ったら好きな人バラされちゃうんだって!」


 ちがう……。


「人の秘密を言いふらすのが好きらしいよ。サイテーだよね、クランク君って」


 ちがう、ちがう、ちがう!


 そこでガバッと体が起きた。


「やっぱり、夢……だったか……」


 真っ暗な部屋。月明かりも差し込んでいない夜半過ぎ。

 俺は悪夢にうなされて目を覚ました。


「しばらく見ていなかったのに……。()()を使ったのが原因か」


 俺のトラウマの一つだ。

 幼いころ【スキル看破】で女の子のスキルを見て、そのことを話したことがあった。たまたま話した内容が彼女が秘密にしていたスキルで、あれよあれよといううちに俺は悪者となり、除け者となった……。

 それ以来【スキル看破】を絶対に使わないことを誓ってきた。


 その誓いを先ほど破ったのだ。


「ふぅ……」


 一呼吸入れ、荒ぶる心臓の鼓動を鎮めようとするが、そんなに簡単に治まるくらいならトラウマになどなっていない。


 だけど、こうなることが分かっていてもカリーナ先生のスキルを見る必要があった。


 俺はベッドから降り、水差しに入れていた水を飲むと、かいた汗を流すためシャワーへと向かうのだった。


 ◆◆◆


  【貢ぐ者】:好意を抱いた異性に自身のスキルを貢いでしまう。自身の所持スキルが【貢ぐ者】のみの場合は自身が死ぬ。


 俺の人生を狂わせてきた根源のスキル。

 このスキルによって、幼いころから今に至るまで辛い思いをし続けてきた。

 一般的に、死の恐怖というものについて若いころは考えることが少ない。しかし、俺は常にその恐怖と戦い続けてきた。


 俺の場合、いつでも自分の所持スキルを確認できるスキル【自己スキル確認】を持っていたことによって、すぐに【貢ぐ者】の存在に気づくことができた。

 でも普通の人は【自己スキル確認】を持ってはいないため、よっぽどのことが無い限り、【貢ぐ者】の存在に気づくのは自分の誕生日となる。


 もし、カリーナ先生の誕生日が今日より前に過ぎ去った後だった場合、【貢ぐ者】に気づくのは一年後となる。それまでに無意識に異性に好意を抱き続けた場合、カリーナ先生は貢ぐスキルが尽きて、死んでしまうだろう。


 カリーナ先生が俺ほどに異性に惚れやすいかはわからない。あまり異性には興味がない可能性もある。

 ただ、一番のネックは婚約者がいることだ。

 一般的な価値観から言って、婚約者とは愛し合う。つまり、好意を抱く異性がすでに身近にいるということで、死まで一直線なのだ。


「あああ、どうすればいいんだ!」


 授業終わりのこと。俺は明日の授業の準備をしながら、頭を抱える。


 どうして【貢ぐ者】が最後ではなく途中で俺から離れたのかは思い当たらない。

 最後に移動するというのは俺の思い込みで、確率的な意味で今回移動しただけなのかもしれない。

 または、俺が酒に酔っ払っていたことが原因か、お互いに酔っ払っていたことが原因かもしれない。


 分からないことだらけだが、最後の結論は決まっている。

 カリーナ先生に移動した【貢ぐ者】をなんとか俺に戻さなくてはいけない。


 つまりは、最低条件として、カリーナ先生に俺に好意を持ってもらわなくてはならない。


「そんなのハードルが高すぎるんだが……」


 相手は憧れの女性ランキング学園ナンバーワンである。その上、婚約者持ち。

 これまでの人生で女性を避けてきた逃げの男である俺が、そんな相手に対してアプローチを仕掛けるなんて、ドラゴンに棍棒で挑むのと同じだ。


「と、とにかく、行動に移すのみだ!」


 幸い今は俺に【貢ぐ者】は無い。どれだけカリーナ先生にときめいても俺が死ぬことはない。


「よーし、当たって砕けろだ!」


 だんだんとやれる気がしてきたぞ!


 ………………

 …………

 ……気のせいでした。


 数日前の俺に言ってやりたい。どうしてそんなに調子に乗っていたのかと。


 結論から言うと、完全敗北。


 とりあえずノープランでカリーナ先生の所に行ったのだが、


「落ち着きなよ、クランク先生。あっと、お礼がまだだったね。昨日はわざわざ家まで送ってくれてありがとう。記憶が無くなるまで飲むなんて反省してるよ」


 あまりにテンパりすぎて、早口でしゃべってしまったため聞き取ってもらえず、挙句舌を噛んでしまって、己の気持ちを伝えることができなかった。


 それでもめげずに次の日。

 前日の二の舞にはなるまいと、物の本を入手した。

 『まずは食事。仲良くなるには何よりも食事から始めよ』というありがたい教えが書いてあった。

 食事なら先日一緒にしたところだから大丈夫だ! と高をくくっていたのだが……。


「あはは、クランク先生からお誘いいただけるなんて光栄だな。でもさすがに、おとといの今日ではペースが速すぎるよ」


 と、やんわりと断られた。

 同僚と食事をそんなにハイペースで行うのはおかしいことだったのだ。


 『会話を重ねて好感度を上げればいい』とも、物の本には書いてあるが、そんなに悠長にやっていたらカリーナ先生は死んでしまう。


 しかしながら食事をする以外の効果的な方法を見いだせない。

 それならば、少し先でもいいから食事の約束をしよう、そう提案しようと踏み出してみているのだが……次も断られたらどうしようと思うとなかなか先に踏み出すことができない。


 食事に行って以来、カリーナ先生からは全く声をかけてくれなくなった。

 それがいつもどおりの日常だったとはいえ、カリーナ先生から声をかけてくれればいいのに、などと、うだうだと考えているまま時間が過ぎ去ってしまったというわけだ。


 そんなこんなで何の進展もないまま数日が過ぎた。

 カリーナ先生のことを何とかしなくてはならないが、普通に仕事もある。

 明日の授業の用意も終えて、夜ご飯も終えて、そろそろ寝る時間に差し掛かるという頃。


 晴れない気持ちを落ち着けるために夜分の学園内を歩いていたら、職員室の明かりがついていることに気づいた。


「誰か残業しているのか? こんな遅くまで」


 気になってその光に近づき、窓から中の様子をうかがうと、そこにはカリーナ先生の姿があったのだ。


 これはラッキーだ。そもそもガヤガヤとした職員室内ではなかなかお誘いもしにくい。他の人に聞かれるのも恥ずかしいからな。

 その点、今ならカリーナ先生は一人。


「あの、カリーナ先生」


 がらりと職員室の引き戸を開けて、中へと入る。


「あぁ、クランク先生。どうしたんだい、こんな時間に」


「明かりが見えたので、残業ですか。めずらしいですね」


「あぁ、今日、ちょっとミスってしまってね。そのあと始末さ」


 入口近くに立ったままカリーナ先生の机を見る。

 確かに書類が山積みになっている。


「その……手伝いましょうか?」


 あの山が終わったものなのか、今からやらなくてはいけないものなのかの判断はつかないため、恐る恐る提案してみた。


「いや、もう夜も遅い。君は宿舎に帰りなさい。気持ちだけいただいておくよ。もう少ししたら私も帰るさ」


 笑顔でそう言われると、もはや俺にはそれ以上踏み込めない。

 カリーナ先生も早く帰ってくださいね、と伝えて職員室を後にした。


 だが、その次の日も、その次の次の日も、カリーナ先生は残業をしていた。

 そして俺はようやくその原因に行き当たった。


「カリーナ先生、最近婚約者さんと会ったりしましたか?」


「ああ。彼とはちょうど一週間前に会ったかな。それがどうかしたのかい?」


 やっぱりだ。

 だが、確証は持てない。もし原因が俺の想像通りなら大変なことになる。

 俺は禁を破って再び 【スキル看破】を使う。


 トラウマの影響で心に負荷がかかってえずきそうになるが、そんなことを言っている場合ではない。


 『カリーナ・シェコワ所持スキル:【基本国法】、【基礎運動能力(疾駆)】、【正しい心】、【指導の心得】、【警護(緊急防衛)】、【暗算】、【初期消火】、【王国史】、【爆発物知識】、【決断力(判断力)】、【達筆】、【子供好き】、【棍棒術】、【水魔術】、【霧作成】、【無音歩】、【重圧】、【粉末測定】、【海辺の岩石知識】、【風読み】、【紐巻き】、【貢ぐ者】』


 やっぱり……。

 先生の所持スキルがいくつか減っている。


 完全に覚えているわけではないが、【刑罰法】、【後光】は確実に消えている。あとはなんだ、【教授】とかか?


 おそらく【貢ぐ者】によって、婚約者さんに自らのスキルを貢いでしまったことで、授業に支障が出ているのだ。

 残業で疲れているからだと思っていたが、よく見ると職員服はよれよれ、いつも出ているキラキラしたオーラも出ていない。


「カリーナ先生! もう婚約者さんとは合わないでください!」


「突然なんだい? 私が彼と会うのがクランク先生と関係あるのかい?」


「そ、それは……」


 言えない……。それを伝えることは、俺の心の闇を伝えることと同義。


「もしかして、嫉妬してるのかい? あはは、可愛いね。生徒たちと同じじゃないか。残念だけど、私の心は彼に向いてるよ」


「そ、それはそうなんですけど」


 恋愛素人の俺にでも分かる。これは恋心に対するやんわりとしたお断りだ。


「あ、違ったかな。どうも疲れてるのか勘が外れることが多くてね。

 あ、もしかして授業もまともにできていない教師が、イチャイチャしてる場合じゃないっていうお叱りかい? ははは、手厳しいな、クランク先生は」


「そ、そうです! 俺はこれっぽっちもカリーナ先生と婚約者さんを邪魔しようなんて思ってないです! ちゃ、ちゃんと授業をしないと教え子たちに申し訳が立ちませんからね」


 あああ、どうしてこうなった!


「ご忠告痛み入るよ……」


「す、すみません。新人の俺が偉そうな口を! お詫びに仕事をお手伝いします!」


「いや、クランク先生は正しいよ。先輩なのに情けない姿を見せてしまったね。激励ありがとう。やる気が出たよ」


 先輩だというプライドが邪魔しているのか、俺が手伝う事をかたくなに拒否するカリーナ先生。取り付く島もなくなったので、おれはすごすごとその場を後にしたのだった。

お読みいただきありがとうございます。

展開が悪い方へ悪い方へと転がっていく。ナオはそれを止めることができるのだろうか! 

次回をお楽しみに!

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