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037 人気の女性教師

「やあ、クランク先生。調子はどうだい? 一緒にお昼でもどうかな」


 ある日の事。

 俺はピンチを迎えていた。


 アゼートが授業に出てくれるようになり、特進クラス(ヴァルキュリア)の生徒全員が教室にそろうようになってから数日後。廊下を歩いていた俺は声をかけられたのだ。


 そのお相手は、カリーナ・シェコワ先生。

 肩まで延ばしたストレートヘアは吸い込まれそうになるほどの銀色。前髪を分けておでこを出しているので赤色の目は遮るものが無く光を放っていて、銀色の髪と対比したコントラストが効いている。耳に金色の大きなイヤリングをしているカッコイイ系の女性教師。カッターシャツにピッチリパンツスーツ姿がやたらと似合っている、学生からも教職員からも人気の高い先生だ。


「け、結構です!」


 そんな女子力も教員力も高いカリーナ先生に対して短くそれだけ言ってから、俺は踵を返して逃げ去る。


「つれないね。まあ、考えておいてよね」


 拒否されたのにポジティブ!

 完全なる陽の者。圧倒的なコミュニケーション力。男女問わず人気が高いのもうなずけるというものだ。

 もちろん俺だって例外ではなく、彼女の魅力は十二分に承知している。

 それだけに、遭遇したくない教職員ナンバーワンなのだ。


 カリーナ先生は俺と同い年の22歳だが、引きこもっていた俺よりも先に教師になっているため先輩だ。

 いうまでも無くあれほどの剛の者。すでに婚約者がいるのだが、まだ教師を続けたいからと言って結婚を待ってもらっているらしい。


 だけど、そんなカリーナ先生の事情は俺の【貢ぐ者】には関係ない。

 婚約者持ちだろうが、彼氏持ちだろうが、未亡人だろうが関係なく反応してしまう。


 俺の好みと密接にかかわっている【貢ぐ者】は、大人に対しては特に効果が高い。なんでだろうなー。


 などとふざけている場合ではない。

 今日はなんとかやり過ごしたが、カリーナ先生と遭遇するのは今日が初めてではない。

 ここ数日、やたらめったら理由をつけて俺のところに来るのだ。

 その理由は、俺が難攻不落と言われた二人、グロリア王国の至宝と学園きっての秀才を授業に復帰させたからだ。

 どうやら、その秘訣を聞いて自分の教員スタイルに生かしたいみたいなんだよね。


 なんたってカリーナ先生自身がそう言っているからな。


 教えてあげればいい?

 どうやって二人を心変わりさせたかわからないのに説明なんかできるはずもない!

 そもそもカリーナ先生と二人で話すだけで、ポンポンポンポンとスキルを貢いでしまう自信がある!


 なんとか諦めて欲しいところなんだが、あの様子だとそうそう諦めたりはしないだろうな……。


 翌日のこと。


 俺はいつも通り、3人そろった教室で授業をして、今日最後の授業を終える。


「先生さよーならー」

「おう、気を付けてな」


 いつもどおり、終わるなりメルがアルバイトへ行ってしまう。

 あの笑顔だ。きっとアルバイトも順調なんだろう。


「……クランク先生、このスキルのアドバイスをもらいたい……」

「ああ、ここはな、魔力の3割くらいを指に、7割くらいを全身に巡らせるようにすると、やりやすいんだ」


 フード、マスク、モノクル、ローブのフル装備のアゼートも頻繁に質問をしてくれるようになった。

 先日保健室で見たフルオープン姿と違って、今の姿だとある程度近くで教えられるので都合が良い。


「クランク先生、これはどこにしまっておいたらいいんですの?」

「それは部屋の右奥だ。悪いな」


 授業の片づけと準備を率先してやってくれるのはリクセリア。なにやら、後片付けをする権利をメルから買ったらしいけど、わざわざお金を払って仕事をしたいなんて変わっている。


 そんなこんなで質問を終えたアゼートも帰って……俺は一息つくために教壇の椅子へと腰かける。


「ふぅぅ……」


 肺にたまった空気を大きく吐き出す。


「何か悩み事でもあるのかしら?」


「おわぁ!」


 真後ろから声が聞こえたので思わず、椅子からガタリと立ち上がってしまった。


「ふふっ、おかしいですわね。そんなに驚くだなんて」


「あ、ああ。考え事をしてたからびっくりしたよ」


 気づかぬうちに、後片付けを終えたリクセリアが戻ってきたのだ。

 正直なところ驚いたのは間違いないが、びっくりしたというよりは、危険範囲内に女の子がいる事に危機感を覚えたというほうが正しい。


「先生の頭を悩ませているのは、いつものあの人の事かしら?」


「あはは……まあ、そうなるな」


「煮え切らないわね。嫌なら嫌ってはっきりと伝えなさいな」


「大人はね、そんなに単純じゃないの」


「雇われ者も大変ね。あ、うわさをすればなんとやらかしら」


 ――コンコン


「やあ、クランク先生、時間はあるかな」


 開いた教室のドアにはカリーナ先生の姿があった。

 ドアが開いているのだからそのまま入ってくればいいのだが、わざわざドアをノックするところに陽キャ感を感じる。


「あら、カリーナ先生、ごきげんよう。残念ですが、クランク先生は今わたくしと取り込み中ですの。お帰りいただいてもよろしいかしら?」


「おっと、これはこれは、かわいらしい騎士(ナイト)さんだ。しかたがないな、また日をあらためるよ。それじゃあね、クランク先生」


 バチンとウィンクを決めて去っていくカリーナ先生。

 不覚にもその姿が脳裏に焼き付いてしまう。


「まったく、油断も好きも無いわね。ねえ、先生? 先生ったら!」


「ん?」


「なに見とれてるのよ! せっかく助けてあげたのに、もう知りませんわ!」


「あ、おい、ラインバート君?」


 プリプリと怒って帰っていってしまった……。

 何か気に障ることをしたんだろうか。年頃の女の子は難しい……。

お読みいただきありがとうございます。

今回から第4章の始まりです。その中心に位置するのは剛の者、カリーナ・シェコワ先生。

これまでの教え子とは異なり、大人の女性。責任ある大人の女性なのである。

いったい何が待ち受けているのか!

次回をお楽しみに。

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