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『PROTOKODE』  作者: り
『PROTOKODE』~Codex Astra~
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アストラ・ノード

天井が淡く光っていた。


星のようでいて、星ではない。


それは思考の残り火だった。


リョウはその光の下で目を覚ました。


全身が重い。


腕に巻かれた包帯が風に揺れ、微かな温度を持っている。


「気づいたのね」


風と光の粒の中で、リアが穏やかに微笑んでいた。


彼女の手から伸びる光が、リョウの傷口を包み込む。


「……風が、生きてるみたいだ」


「あなたがまだ考えているからよ」


リアの声は静かだった。


「思考は流れを生む。風は、その流れを運ぶの」


リョウはぼんやりと天井を見上げた。


光が呼吸のように脈打っている。


それは、


“Codex Astra”


イサナが残した記録の断片だった。


アストラ・ノード03。


そこは、かつて廃墟だった施設を改修して作られたレゾナンツの拠点。


壁には青い波紋が静かに走っている。


思考を可視化した防御膜。


侵入者を防ぐためではなく、


人の思考そのものを守るための壁。


ネアが端末を操作しながら呟いた。


「共鳴値安定」


「リアの治癒波動も正常」


「……新入り、ようやく目が覚めたみたいね」


「新入り?」


リョウが声を出す。


すると奥から一人の男が現れた。


ユウト。


背中には工具と分解された機械片。


短い髪。


無骨な表情。


戦場を生き抜いてきた人間の目をしていた。


「おう、やっと起きたか」


「生きてるだけで十分な時代に、寝過ごすとは贅沢だな」


「……悪かったな」


ユウトはニヤリと笑う。


「悪いのは寝癖だ」


「それ、ドローンの赤外線に引っかかるぞ」


「アンテナみたいになってる」


「アンテナ?」


リョウは慌てて頭に触れる。


髪が見事に跳ねていた。


ネアが小さく吹き出す。


「通信感度、良さそうね」


「うるせぇ……」


リョウが呟く。


その様子を見て、リアが小さく笑った。


「笑うことも抵抗なの」


「感情を奪われないために」


その言葉に、


一瞬だけ全員が黙った。


そして、


ほんの短い間だけ、


穏やかな空気が流れた。




リアの姉、ネアが静かに話し始める。


「ここがアストラ・ノード」


「レゾナンツが記録を保管し、思考を交わす場所」


「今は、私たち四人しかいないけど」


リョウは周囲を見る。


壁の光。


静かな風。


仲間の呼吸。


戦場の外にも、


こんな静けさが存在していた。


ネアが言う。


「リアは風」


「ユウトは地」


「私は思考の声」


そして、


リアがリョウを見る。


「あなたは……火」


「思考を熱に変える人」


リョウは息を呑んだ。


その言葉は、


まだ自分でも理解していない何かを見透かしているようだった。




その時。


警告音が響いた。


ネアの表情が変わる。


「静寂派の信号」


「近い」


外の空気が波打つ。


思考封印波。


感じた瞬間、


意識を奪う禁制の波長。


リアが立ち上がる。


「ユウト、結界を」


「了解」


地面が震える。


光の壁が拠点を包み込む。


しかし、


外からの圧力は強かった。


空気が重くなる。


呼吸すら苦しくなる。


ネアが叫ぶ。


「封印波の出力が高すぎる!」


リョウは拳を握る。


「……また守られてるだけじゃ、意味がない」


掌に熱が集まる。


頭の奥で声が響いた。


思考は争う。


だが、争いの中で進化する。


イサナの声。


光が弾ける。


リョウの手から閃光が放たれる。


封印波と衝突する。


世界が鳴った。


沈黙が破れる。


外のドローンが停止する。


その残響の中、


淡い波形が浮かんだ。


イサナの記録。


リアが息を呑む。


「……あなた」


「イサナと同じ波長を持ってる」


リョウはその光を見上げた。


「これが……俺の思考か」


風が静かに流れた。


まるで、


世界が呼吸を取り戻すように。




戦いの後。


ネアは新しい記録を解析していた。


「未知の座標を検出」


「旧ノード01」


「最初に壊れた思考拠点」


リアが顔を上げる。


「そこに……星の書の本体があるかもしれない」


ユウトが立ち上がる。


「また地獄みたいな場所か」


「でも行くしかねぇな」


リョウは静かに頷いた。


「俺はもう逃げない」



その時。


ネアが壁の記録を表示した。


そこには一人の青年。


イサナ。


リョウは息を止める。


「これは……」


「封印が壊れた日の記録」


リアが答える。


「私たちは、そこで生まれた」


リョウは眉を寄せる。


「どういう意味だ」


ネアが続ける。


「封印解除によって、人類の半数は原初種へ戻った」


「失われていた思考能力」


「感覚」


「記憶への接続能力」


「その中でも、ごく一部だけが特殊な波長を持っていた」


壁に文字が浮かぶ。


【PROTOKODE】


「イサナと同じ力」


リアが呟く。


「私たちは、その力で彼の記憶に触れた」


「そこにあったのは、支配でも怒りでもなかった」


「苦しみながら、それでも人類を信じようとした一人の人間の感情だった」


リョウは画面を見る。


あの日のイサナ。


痛みを抱えながら進んだ背中。


「だから……」


「あなたたちはイサナを神として見ているのか」


リアは少し目を伏せた。


「そう呼ぶ人もいる」


「救われたと思った人もいる」


「でも……」


リアは静かに首を振る。


「イサナは神になりたかったんじゃない」


「最後まで考えることをやめなかった人」


ネアが続ける。


「レゾナンツ」


「それはイサナの命の記憶に共鳴した覚醒者たち」


「思考を奪おうとする世界に抗うために生まれた反政府組織」


「私たちが守っているものは、イサナという存在ではない」


「彼が残した問い」


リアが呟く。


「痛みを感じることは、人間である証」



天井の光が強く脈打つ。


星の記録が、


また一つ、


彼らの足元を照らした。


世界はまだ、


答えを選んでいなかった。


眠るのか。


目覚めるのか。


痛みを抱えて進むのか。


それとも、


再び静寂を選ぶのか。


Codex Astra。


星の書は、


まだ続きを記録していた。

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