一節 野宿しました
目まぐるしいスピードで小枝が視界を過ぎていく。
車、電車、飛行機、様々な乗り物が発明されている現代。
そんな時代に自分の足で旅をすることになるとは思ってもいなかった。
「一郎、今日はここで休むぞ!」
そう叫ぶと、カミシアは少し開けた場所に着地した。
それに続いて俺も、軽く10メートルは超えるであろう巨木から下りる。
「はぁ~やっと休める」
俺は着地してすぐに地べたに寝そべった。
「だらしない勇者だな」
呆れる視線で俺を見るカミシアは、全く息を切らしていない。
「だって~中年だもん」
《中年が甘えても可愛くないのは理解しています》
鎧に真の力を取り戻す為、マナを求めて城を旅立ってから三日。
通常だと片道9~10日はかかる距離を4日で着くとこまで来ていた。
それもこれも伝説の鎧とアマゾネス族一の俊足があってこそだったが。
「ねえ、こんなに急ぐ必要ある?」
「いつ敵が攻めて来るかわからないからな。早く戻らねば」
《確かに平和な日本とは違い、この世界は常に戦闘状態だから仕方ないのか》
心の中で異世界にいることを再認識した。
【さっさと鎧を脱げ馬鹿者】
リベラルからの小言が入ってくる。
《すみませんね》
リベラルの小言にへいへいという感じで力を解除する。
俺は、旅をする前日にリベラルから鎧の限界について聞いていた。
【一郎。出発する前に話しておきたいことがある】
《何だよ、改まって》
急にかしこまられると身構えてしまう。
【まだ完全な状態でないことはわかっているな?】
《ああ。だから旅にでるんじゃないか》
【そうだ。だが、一番の問題は活動時間だ】
《時間?》
【本来なら無尽蔵に近いマナを蓄えられるんだが、今は十分の一もない】
思っていたより少ない答えに戸惑う。
《そんな状態で旅なんて大丈夫なのか?》
【だから戦闘は極力避けろ】
《イエス!全力で逃げます》
俺は心の中で敬礼をする。
《でもさ、危険な魔物が生息しているって言ってたよな。マジで大丈夫?》
【そんなときに使える術を教えておく。よく聞いておけ】
《ありがたく聞かせて頂きます》
数分後、リベラルのいびりならぬ指導は終わった。
【私はしばらく眠る。真の力を手にするまでは無駄に出来ないからな】
《りょ~かい》
くたくただったので、力のない返事をする。
そんなやり取りから俺はすぐに寝落ちした。
「おい、一郎。起きろ!」
「何だよ、母さん。頼むよ~あと5分寝かせて」
「誰が母さんだ!」
「ふぇ?」
ゴン!
寝ぼけていたら朝イチでゲンコツをもらった。
「起きろ馬鹿者」
「痛いな~カミシアちゃん」
「誰がカミシアちゃんだ!」
朝から若い子に中年が怒られるという悲しい光景が展開される。
《しかし、意外に野宿でも寝られるもんだな》
牛革のような材質で作られた毛布一枚で平気に過ごせている自分に驚く。
【平成のサラリーマンも逞しくなったな】
リベラルが珍しく褒めてきた。
《さすがに異世界に来て一ヶ月ぐらい経つしな》
「ゴルック山へは昼頃には着けるだろう」
映画とかで山賊とかが使う望遠鏡で周囲を確認してカミシアは言った。
「だから今まで以上に警戒して進むぞ」
「あれって夜行性なんだろう?」
「獲物に気づいたときは別だ」
「勘弁してくれよ」
目的地であるゴルック山にはある魔物がいるらしく、それもあり普段は誰も近づかない。
「出発だ」
カミシアは目にも止まらぬスピードで駆け出した。
「ちょ、ちょっと待ってくれよ~」




