五節 兜の神器を手に入れました
「あれだな」
俺は何かもたついている集団を見つけ、地上に降りる。
「マルード」
「ほら、あんた達がさっさとしないから追いつかれたじゃない」
名前を呼ばれ、マルードは僕魔族を扇子で叩く。
「ヒステリックなおばさんみたいだな」
「誰がヒステリックおばさんですって!」
声に漏れていた俺の感情にマルードが激怒する。
《会う度に増してる気がするな》
今度は心の中で俺は呟いた。
「悪い、悪い。なあ、兜返してくれない?」
「はい、はい。どうぞって、返すわけないでしょ!」
駄目もとで頼んだら、マルードは綺麗なノリツッコミで返してきた。
「おお~」
俺はふざけて拍手する。
「ほほほ。いつまでふざけていられるかしら」
マルードは不気味に笑う。
「何だよ。また新しい発明でもしたのか?」
俺は真顔になり、戦闘態勢に入る。
「今までの失敗は無能な部下を使ってしまったこと」
「じゃあ、お前自身で戦うのか?」
「私の頭脳と肉体はそんな野蛮なことには勿体なくて使えないわ」
いつもとは少し違う余裕の態度でマルードは話す。
「もういいから早くしろよ」
俺は面倒くさくなり、マルードを急かした。
「いいでしょう。とくとご覧あれ」
そう言いながらマルードは、持っていたスイッチを大袈裟な身振り手振りで押した。
ギュイーーーと音を立てつつ、マルードの横に置かれていた機械が起き上がる。
「棺桶?」
白騎士のようなロボットでも来るかと思っていた俺は拍子抜けしてしまう。
「中身を見ても笑っていられるかしらね」
笑みを浮かべるマルードがもう一回スイッチを押すと、白い煙を噴出し棺桶が開く。
「嘘だろ」
現れた敵に対して、お決まりな台詞を口にしてしまった。
「思った以上に驚いたようですね」
俺の驚き顔にマルードは愉快そうに笑う。
「キーア、生きていたのか!」
黒い蛇が刻まれた鎧を身に纏い肌は紫色になっていたが、紛れも無くキーアだった。
「……」
キーアは俺の呼び掛けに一切答えず、赤く変色した瞳で俺を睨みつける。
「キーアに何をした!」
「私の研究に協力して頂きましたわ」
「研究?」
「人造魔人ですわ」
ふふふと自慢げにマルードは語った。
《どうすればいいんだよ》
【戦うしかないだろう】
《戦えるわけないだろう!》
冷静なリベラルに俺は感情的になってしまう。
【戦わなければ死ぬぞ】
《わかってるよ》
「さあ、やってしまいなさい」
マルードの命令でキーアは俺に斬りかかる。
「くそ」
俺は仕方なく攻撃を凌ぎつつ、キーアを救う方法を必死に考えた。
「ぐっ」
動揺して力が弱まった鎧を突き破った一撃が俺の左肩を突き刺す。
「キーア、やめてくれ……」
俺は刺されたままキーアの肩を掴み、泣きそうな顔で呼び掛けた。
「……」
キーアは無表情のまま剣をさらに押し込んでくる。
「がはっ!」
肩だけでなく、口からも血が溢れる。
《リベラル、何か方法はないのか!》
【残念だが、こうなってしまっては】
リベラルは言葉に詰まってしまう。
「今日が勇者の命日よ!」
マルードの声に反応したキーアが剣を抜き、後ろに下がる。
「……」
変わらず無表情のキーアを黒いエレルギーが包んでいく。
【動きを止めるぐらいなら出来るかもしれん】
《何でもいいから教えてくれ!》
何かを思い付いたリベラルの言葉に俺はすがりつく思いで叫ぶ。
【まずは兜を取り返せ】
《わかった》
俺は鎧を辻風の舞に変え、キーアとマルードの横をすり抜け兜を持つ僕魔族に駆け寄る。
『ギシャ』
応戦してきた僕魔族を一瞬で斬り捨て、俺は兜を手にした。
《どうすればいいんだ?》
額に翼の飾りがついた兜を被り、リベラルに問い掛ける。
【魔法を兜に込めて邪を払うんだ!】
リベラルの言葉を聞き、祈りを込めるように手を握り締めた。
「神器、〈イカロスの兜〉!」
翼と翼の飾りの間に埋め込まれた白銀の宝石が輝き始める。
「〈サンシャイン〉!」
兜が増幅させた光がビームになり、キーアの動きを止めた。
「どうしたの?何を止まっているのよ!」
言うことを聞かなくなったキーアを見てマルードはうろたえる。
「キーア!」
目を見開いたまま止まっているキーアに俺は叫んだ。
「キー、覚えていらっしゃい」
悔しい顔をしたマルードは捨て台詞を吐きながらキーアと共に魔術で消え去った。




